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特徴的なフロントフェイスの実力は:FractalDesign Torrent フルタワーケース:前編

全世界180億人の「前は開きっぱなしが基本だろ!」な皆様、こんにちは。それを事情の全く知らない人の前で言ったら速攻でビンタされるか警報鳴らされると思うのでどうか思い留まってください。香月です。

さて、今回はTwitterでも散々騒いでいたPCケースこと「FractalDesign Torrent」のご紹介。「Fractal=静音ケース」というお約束的な雰囲気からはかなりかけ離れた「オープングリル形式」を採用、エアフローの高さをウリにした製品です。

強烈な静音重視からエアフロー重視へ? :ここ最近のFractal製ケース事情

Fractal製ケースといえば、パネル内側にガンガン吸音材を貼りまくって、「ガラスケース? 魅せるPC? なにそれ?」的な印象が強かったのですが、最近ではガラスパネル採用のバリエーションモデルが増えてきた他、フロントドアを採用せずにメッシュ構造を取り入れる等、一昔前とは少々趣きが変わってきた印象があります。

基本的には「Define」シリーズが従来どおり「フロントドア採用・静音重視」といった立ち位置で、新しいラインナップが増えてきた、という感じではあるのですが、そのDefineにしてもガラスパネルを採用したり、トップパネルのまるごと交換でエアフロー強化が出来るようになっていたりと、ちょうど私がNASサーバで使用中の「Define XL R2」と比較しても、いわゆる「窒息系に近い」くらいのレベルで静音性を重視していたものと比べると、かなり「穴」が増えてきた印象。

XL R2ではパネル交換ではなく、内部の吸音材を分割式にして、ファンを増設したい部分のみ取り外す、という構造だったのですが、最近のDefineシリーズでは「吸音材を分割」ではなく、「フレームやパネルを分割」というスタイルに変わってきており、静音性を重視するのか、エアフローを重視するのかという点ではわかりやすくなっている反面、両方を取ろうとすると途端にパーツ選択が難しくなるような感じになってきました。

ただ、一部のITX向けケース等を除き、フルタワーサイズの大型モデルも用意しているあたりは「らしさ」があり、デザイン性を共有しつつ、大型モデルからコンパクトモデルまでラインナップを展開、また一部では内部フレームの共通化もあって、「ストレージ重視か、本気の水冷重視か」といった面でユーザ側の選択肢が広いケースが並んでいるのは、それなりにユーザビリティを考えてくれているな、という印象ではあります。

なんか巨大なユーティリティでも配布するのか? え、PCケースの名前なの? :名前がややこしい「Torrent」

そんな中で新製品として登場したのが、今回紹介する「Torrent」なのですが、そもそもこの製品の存在を知ったのはFractalからのメールマガジンでした。「FractalDesign:Torrentのご紹介」みたいなタイトルだったと思いますが、Unixをはじめバカでかいデータの取り扱いをしている方だと、「Torrent? 例のメッシュネットワークの?」という印象のほうが強かったんじゃないかなと思います。あるいは(残念ながら)色んな意味で悪用されがちなTorrentの名前がついている事で、「Fractal、クラック被害にでも遭った?」とか思った方がいてもおかしくないかもしれません。かくいう私もLinuxイメージやら巨大なファイルサイズのユーティリティ(仮想マシン系とか)の配布でもすんのか? とかなり本気で思ったのですが、これがまた中を見てみれば新製品のPCケース名称だったというアレな具合。ただ、写真を見るとそんなどうでも良いことは吹っ飛んで「おやおやこれは」となったりしたのです。

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(公式サイト商品紹介ページより)

ルーバー状のフロントパネルの奥にLED搭載ファン2発、しかもこのファンが一発180mmという巨大ファンで、サイズとしてはフルタワーサイズ、対応M/BサイズはE-ATXどころかSSI-EEBや同CEBまで入るという「なんでも来いや!」的な圧倒的大容量。パッと写真を見た時点で、「あ、これたぶんHEDT系のBTOで使われる系のケースだわ」と思ってしまったくらいには、かなりのハイスペック系・ワークステーション系で使われてもおかしくないとピンと来た感じでした。ただそうなると、当然「光らない」バリエーションがあってもおかしくない、と思ってバリエーションを確認した所、やはりありました、「光モノ無し、ソリッドパネル」のモデル。

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(大まかに3パターン、「RGB TG」モデルはLEDファン標準付属、「TG」シリーズはグレー、ホワイト、スモークガラスがあり、Solidモデルとホワイトモデル以外は右パネルもスモークガラス仕様)

完全なソリッドパネルでライティングが(インジケータ以外、以下同)一切無しの「Solid」モデル、4色展開でLEDファン無し「TG」モデル、出荷時からARGBファンが搭載されている「RGB TG」モデルの計6モデルが存在しており、「Solid」モデルを除く全てで上部後方にLEDストリップも搭載。後述しますがこの部分は電源ユニット搭載位置で、一切のLED照明が無いSolidモデルでも、乳白色のパーツが入っています。また、本製品と同時に、本製品で使用されている180mmファンも単体販売が開始され、ARGB仕様・LED無し仕様の2つにくわえ、既に発売済みの140mmファン2つの計4パターンにバリエーションが広がりました。

価格はもっとも安価となるSolidモデルで29,000円を少し切るくらい、もっとも高額となるRGB TGモデルで4万円とちょっと(2021/09/02現在)と、決して安価なケースでは無いのですが、上記の通り標準で搭載されているファン自体がそれなりのお値段である為、これまたもっとも安価となるSolidモデルでLED無しファンで計算した場合、180mm*2発+140mm*3発で計5発、ざっくり16,000円はかかっている事になります。ケース自体の売価から差っ引くと、ファン無し状態でのケース価格は13,000円となり、これを考えるとかなりお買い得といえばお買い得。ただし、ラインナップ上「ファン無しモデル」が存在しない為、この点を踏まえての価格計算は残念ながら無理がありそうです。

Youtubeの海外レビュワーは判を押したように「今年最強のエアフローケース!」の評価……大丈夫か?

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(まぁ、結局ウチにも来たんですが)

さて、そんなワケで例によって気を失って……と思ったそこのアナタ、残念でした。購入前に実機を確認すべく、予約購入は見送り。発売日にショップを巡った所、いつもお世話になっているドスパラさんちにRGB TGモデルの展示があったので、ねっとりじっくり見せてもらいました。というのも本製品、海外での発売が早かったのか、もしくは有名レビュワーに先渡しがあったのか、日本での発売前にYoutubeにて海外レビュワーによる紹介が多数上がっていたものの、その全てが判を押したように「今年最強のケースだ!」という評価。流石にちょっと怪しいなぁと思ったこともあって、実機確認をしてからにしようと決めていたのでした。国内でも海外でもあまり変わらないこのあたりの「レビュワー事情」ですが、ネガティブを一切出さずにレビューしている記事や動画は、「写真や動画は参考になるが内容は参考にならん」パターンが多いので、主に内部設計やサイズ感などをチェックするに留めていた、というのもあります。

動画や写真を色んな角度から見た結果として、フロントパネルのルーバーが妙にデカくないか? とか、これ内側に吸音材貼ってなくない? とか、トップパネルはPSU部分以外排気無いね、とか、色々と気づいた部分があった上で、最終的に前述の通り実機確認、首を720度傾げながら帰宅して、「とりあえず疲れた、寝る」と思って布団に入って起きたらドスパラ通販で注文完了してたという、本気の「気を失って気づいたら注文完了してた」をやらかしていました。そんなわけで結局発売日翌日に注文、2日後の30日に自宅に到着したのでありました。

珍しく開梱時から写真撮りまくりました

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(自宅に着弾した直後の図。サイズ比較用に500mlのペットボトル置いときました)

そんなわけで到着したわけですが、そもそもデカいフルタワー、脚の悪い私が持ち帰りなど出来るわけが……以前Antecのフルタワー持ち帰ってきたんですが、その時の苦労を考えてどのみち通販なり発送なりしてもらう予定でいました。結果的に店頭在庫が無かったこともあって通販購入となり、北海道という海外であるせいで2日焦らされた上で到着。いざ到着して箱を持ってみると、思っていた以上に軽いイメージでした。フルタワーというよりは、ちょっと重めのミドルタワーくらいな印象。実際にソリッドモデルは本体重量が10kg程度という事で、梱包材なんかを入れても12~13kg程度。頑張れば電車で持ち帰りが出来ない重量ではありません。ただしサイズはフルタワーなので、デカい事は覚悟の上で。

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(FFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFF)

今回はガラスパネルの類も無いということで、開梱時には箱を天地ひっくり返して底面を開いた……ら、箱の内側がすげぇ事になっていました。ここ最近のFractal製品ではだいたいこんな感じらしいですが、コレ、結構拒否反応起こす人がいるパターンじゃ無いかな……とどうでもいい心配をしながらオープンです。

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(珍しく開封の儀から写真載せてますが、このへんから一気に飛ばします)

梱包材の上側に長方形の長い箱が一つ、その右側にビスなどが入った小さな箱がひとつ、それぞれ同梱品として入っており、あとはケース本体というシンプルな構成。ちなみにどちらの箱も3.5インチベイに入れておける、というものでは無く、後述の通りケース形状の関係もあって、ケース内に収納しておけるようなものではありません。

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(フロントファンを120mm/140mmに置き換える時に使用するブラケット)

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(同梱ビス一式にくわえ、ケース側から支えられるVGAホルダーも)

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(ペーパー類は最小限)

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(というわけで本体)

実際に現物を見た後ではありますが、改めて見ると全体的につや消し仕上げになっており、トップパネルだけでなくサイドパネルやフロントパネルもサラッとした手触りで、見た目の安っぽさは感じません。「見た目の」と書いたのは以下の理由。

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(トップパネルからフロントパネルにかけて、ほぼ全域樹脂製)

思いのほか軽かった理由でもあると思うのですが、トップパネルからフロントパネルにかけて、縦方向はほぼ全て樹脂製。例のフロントパネル部のルーバーも同様で、触ってしまうと「うーん?」となるようななんというか。ちなみにサイドパネルはスチール製。

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(そんなフロントパネル。ルーバーの間隔は2cm弱、それぞれの厚みは3mm程度)

「少し大味かな?」と気になっていたフロントパネルですが、改めて計測してみるとルーバーの厚みが3mm程度、それぞれの間隔が2cmほど。もう少し細かくても……と思ったりはしたのですが、逆にこれ以上細かい配置になると全く別の印象になってしまいそうだったので、Fractalのデザイン部門はケースサイズとこのスリットサイズのバランスを頑張って考えたのだろう、と開き直ることにしました。なお、これだけ隙間が空いているので、その直後にダストフィルターこそあれど、吸気抵抗なんてものは無いと思っていいレベルです。

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(接着剤がはみ出してる。-50pt)

そんなフロントパネルの確認をしている時に見つけちゃいました、エンブレムを留めている接着剤? がはみ出している状態。爪で軽く削ってやればそのまま取れたので良しとしましたが、Fractalにしては珍しいアラが出てるなぁとなんとなく。ちなみにこの「Fractal」のプレートそのものははめ込みのようで、プレート自体がポロッと取れるようになっているようです。接着剤さえ無ければ簡単に取れるようで、BTOで選べるケースになった時には、ここにBTOメーカーのロゴを掘ったエンブレムをはめ込むのはかなり簡単そうです。RGBシリーズはともかく、今回のSolidモデルは見た目がかなりおとなしいので、前述したようなワークステーション系BTOで採用されても悪くないかも、というイメージではあります。

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(バックパネルは何か悲しいことがあったのかと思うほど全面通気)

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(底面は脚部含めほぼ全面通気。フィルター装着済みの状態)

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(PSU装着位置はケース上部後方。昔のケースにはよくあったレイアウト)

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(サイドパネルは「引っ張るだけ・押し込むだけ」のボールキャッチ)

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(フロントパネルは「左右を軽く押し込みながら引っ張る」と外れる仕様。サイドパネル同様ツールフリー)

フレームは恐らく新設計、最近では珍しいPSU上段配置タイプ

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(まさかの左側撮り忘れ。公式ページより拝借)

M/B配置スペースとなる左側はフロントからリアにかけてほぼ何も遮るものが無い設計。写真でいう上部左側に出ている部分がPSU搭載部で、白いラインは他モデルでLED照明が入っている部分。この辺は共通で使っているせいか、LEDが入っていない以外は同じようになっていました。写真右側、ケースフロント側のトップパネル部はPSU搭載部から外れてはいますが、トップパネル自体に通気部分が無いため、ケース上方へのエアフローは存在しません。一方でケース下部はほぼ全域が通気構造となっており、標準で140mmファンが3発並んで設置されています。フロントの180mmファン2発とあわせ、これらから吸気したものを全てリアパネルから排気する、というなかなか豪快な設計。PSU位置も含め、他に同様のフレームを使っているケースはお目にかかったことがないので、今回のは新規で作ったフレームかな、と目算をつけています。

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(右パネル側。面ファスナーやレールが各所に)

フレームを新規で作ったのだろうと思ったもう一点の理由が右パネル側。最近のケースだと写真右側、M/Bバックプレート露出部の下部に配置されることが多いのは2.5インチベイなのですが、本製品ではここに3.5インチベイが2台分配置されており、2.5インチベイは写真左側、ケースフロント方向に4台分並んでいます。いずれもマウンタ式で、マウンタへのドライブ固定はビス留めながら、ケースへの固定はツールフリー。このへんが最近のケースにしては珍しい形状だなというのも、新規フレームを起こしたっぽいと判断した理由のひとつです。

その他、写真右上のスリット状に見える部分がPSU装着部、写真左下のフレーム内側には合計9本のPWMファンを一括管理できるファンハブが固定されています。

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2021/09/01情報:ファンハブの部品不具合情報

レビュー出す前に不具合情報が来てしまいました……。内容的にはハブ部の短絡(ショート)の可能性、という事で割と重大な不具合な為、交換手続きを早急に行うとともに、交換前は使用を控えたほうが良さそうです。

ファンハブ自体はPWM対応のM/B向け端子と、電力補助のSATA端子が出ており、いずれも初期状態である程度ケーブルがまとめられているので、配線そのものは極端に多くならない限りは苦労しないで済みそうです。もっとも、フルタワーという事で全体的にケーブルが長いので、いざコンポーネントを置き始めてケーブリング、となると、それなりに頭を使うことになるのは覚悟の上で。今回はソリッドタイプで配線がケースの外から見えないので、エアフローやメンテナンス性を優先して配線すればOKですが、モデルとして左だけでなく右パネルもガラスタイプのバリエーションがあるので、配線処理の腕の見せ所、的な製品ではあります。

付属ファンはそれなりにしっかり系のカタログモデル、ある程度使い分けも出来る自由度はアリ

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(とりあえず一旦取り外した標準搭載ファン。180mmが2発、140mmが3発)

標準搭載のファンは前述のとおり計5本、単品での同時発売が行われたことで、全て単品販売アリのカタログモデルとなっています。今回はコンポーネントの関係でファンの搭載位置を変更する為、一旦全て取り外しました。標準では180mm2発がフロントパネル、140mm3発がボトムパネルとなっており、リアパネルにファンは搭載されていません。

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(180mmファン仕様表。PWMで1200rpmまで)

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(こっちは140mmファン。同じくPWMで1700rpmまで)

ファンブレードのデザインや枚数も類似しており、かつ単品販売で先に出た通り140mmで一発2000円ちょいという事で、最近流行りの「LED抜いてエアフロー向上に特化しました」系と思われますが、注意点がふたつ。

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(左が180mmファン。結構厚みが)

まず一点目として、180mmファンの厚み。これは後ほど組み上げ中によーく分かる問題になるのですが、140mmに比べてかなり厚みがあります。その分風量には期待できそうなものの、これがまた難儀するハメに。

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(防振構造無し、ゴムクッションありません)

もう一つがこちら。最近のファンだと割と当たり前についている防振対策のゴムクッションが無く、プラのフレームにそのままネジ止めする事になります。そんなわけで、私はとりあえず手元に余っていたゴムブッシュを使用しました。結果的にこれを使用した事で、後々色々と助けられる事になります。

冗談みたいに初っ端の紹介で長くなったので分割:後編はビルドレビューです

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(箱開けてバラしただけで通常記事一本ぶんになるとは……)

さて、そんなわけでこのまま続けて書こうかと思ったのですが、この時点でまさかの7000字オーバーという事で、さすがに分割する事にしました。後編……で収まってくれればよいのですが、実際の組み付けから配線処理、起動後の動作具合などについて引き続きレビューをお送りします。

現在はもうすでに組み付けが完了し、通常使用に移っているのですが、製品としては特性を掴んであげれば悪くはありません。ただ、それなりにあちこちツッコミどころはあるので、組み上げの時に引っかかる点などもあわせて紹介しますので、引き続きお楽しみに。

後編はこちら: