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フラッグシップの底力はいかに:ASUS TUF Gaming Radeon RX 7900 XTX OC Edition

全世界約580億人のAMD教の皆様こんにちは。崇めよ! RadeonこそはAMD教の崇拝する神の化身なり! あれ、RyZenか? EPICか? どれだ?  香月です。

さて、ついにやってしまいました。悩みに悩んだVGAことRadeon RX 7900XTXに激突です。私の財布と食生活を破壊する事になった本製品、そのパワーの片鱗たるやどのようなものでしょうか。そんなわけでファーストインプレッション的に少しデータを取ってみたので、それらを見ながらレビューです。もやしを食いながらやっていきましょう。


実は半年以上、悩みに悩んでいました

RyZen 7000シリーズが2022年の9月末に、Radeon 7000シリーズが12月中頃に、それぞれ発売開始となっていましたが、Radeon発売から3ヶ月、RyZen発売の段階からだと実に半年以上、ずーっと悩みに悩んでいた新製品の導入。RyZenは新型ソケットのAM5へ移行し、現状からのアップデートでは12コア、もしくは16コア製品となる為、CPU・M/B・メモリの3点セットを導入しようとすると通常時は安くても15万円以上、またRadeonもリファレンス時点で上位の7900XTXが17万円、下位の7900XTが15万円以上と、いずれのアップデートにおいてもかなりの出費になる事もあり、お財布握りしめながらずっと悩んでいました。

手元の環境としてはそこまで不満があるわけでも無く、今すぐにアップデートの必要がある事も無かったのですが、ピンポイントな所ではちょこちょこ流行り始めたAI関係のツールで効率が悪かったり、ついでに言えばレースシム用PCが最近の重量級シムに耐えられなくなってきていたり、と小さな不満が溜まってはいました。メインPCではCPUが12コアの5900X、VGAがミドルレンジ扱いになったRX6700XTという事で、今ひとつ中途半端な構成であった事も否めない感じ。

そんなわけで、CPU周りを更新するか、VGAを先に更新してCPU周りを追ってアップデートするかと悩んだ結果、今回のVGA更新を選択、無事に意識喪失して気づいたら袋が手に! となったのでした。

久々のフラッグシップVGA、曰く「GeForceが売れまくってRadeon全然売れてない」

GeForceとの戦い、実際のところは互角とは言えない、かも

購入時点で7900シリーズとしては「XT」と「XTX」の2種類が販売されており、私も最後まで悩んだのですが、結果としては最上位モデルとなる「XTX」を選択しました。購入時点でXT系は13~15万円付近、XTX系は18~20万円オーバーと、最安値でも5万円の価格差があり、その差が性能差にどれだけ反映されるか、という部分では悩みに悩んだのです。というのも、ゲームプレイに関して言えば双方で大幅な差があるものでは無く、どちらも4Kゲーミングで充分な性能を持っており、また下位のXT系は元々15万円台(リファレンス・ベンダーオリジナル共に)だったものが、GeForce4070系と価格勝負ができなくなったと悟ったのか、2月頃にガクッと価格改定、2~3万円値段が落ちた(12万円台~)せいで、Radeon派としてはいよいよ「買いなボード」になっています。大雑把に性能差を抜き出したのが以下の通り。

  • コンピュートユニット:XTX 96基・XT 84基

  • ストリーミングプロセッサ:XTX 6144基・XT 5376基

  • Rayアクセラレータ:XTX 96基・XT 84基

  • AIアクセラレータ:XTX 192基・XT 168基

  • VRAM容量:XTX 24GB・XT 20GB

こんな感じ。どちらもアーキテクチャはRDNA3に更新されているのですが、各種数値としては10%程度の違い。実際の性能差は環境や実行するソフトウェア・ゲームによって変わるものの、おおよそ5~10%の差になる、というのが、ザックリ調べてみた所でのデータです。AMD公式のデータが手に入ればより正確な値が出せるのですが、つまるところ「その10%に5万円を出せるか」というのが、XTとXTXの選択に必要、もしかすると唯一必要な思考になるでしょう。

で、悩みに悩んだ挙げ句、私はその10%に投資する事を決めたわけで、意識喪失と同時に心肺停止状態になりながら、7900XTXのお会計を済ませたのでありました。

ちなみに事前に色々と調べていたり、ショップでの売れ行きを聞いてみたりした結果としては、「Radeonホント売れてねぇなぁ」という感じ。ゲーム側の最適化がGeForce向けメインになっていたり、AIツールや最近パタッと聞かなくなった仮想通貨マイニングに関してもやっぱりGeForce系が(LHR版が出たとはいえ)強かったり、レイトレーシングに関しては比較すら出来ないくらいだったりと、GeForceの強さは健在です。私のような宗教的理由が無ければ、4070~4080あたりの製品がベストバイな気もするのですが、地獄の底までAMDについていくと決めたからにはやっぱりRadeonを選んだのでした。……もしかしたら次に買い替える時はGeForce試してみちゃうかも。AMDさん、頼みましたよ。

久々のASUS製品、耐久性重視(らしい)TUFシリーズは初採用

初めてTUFシリーズに手を出しました

そういうわけで手元にやってきたRX7900XTXですが、どうもリファレンスボードはあまり良くない噂を聞いていた事もあり、最初からベンダーモデルで探していました。7900XTXクラスであれば8ピン3本の電源端子を搭載したモデルで、という事で、なんやかんやでASUSのモデルことTUF製品。購入時点でほぼ18万円という事で、リファレンス登場時から大きな値上がりも無い状態で購入できました。一応OCモデルのようで、電源端子も3本用意されており、ボードサイズも大型だ、という以外には展示機も無かったので外観の確認が出来ない状態での購入。LEDライティングもあるにはあるのですが、もともとTUFシリーズがそういうモノなのか、小さく光るだけでファンが光るなどのライティングで派手な感じではありません。この価格帯ならどうやっても耐久性は頑張ってもらわないと困るのですが、そのへんに関してはASUSを信じる事にしました。使用中だったRX6700XTの時もなかなかズッシリした重さの箱でしたが、今回は更に大きくズッシリ。そろそろ小さいボードがメインになるような流れを作って欲しい所なのですが、昨今のGPUは「電気はあるだけ食う、排熱は出すだけ出す」という一時期のCPUみたいな大飯食らいを地で行く製品ばかりなので、どうしても冷却周りは大型化せざるをえないようです。この後で出てくる写真でもわかりますが、基盤そのものはそんなに大きくないにもかかわらずコレです。そりゃVGAサポーターが売れるわけです。

内箱はメカニカルなデザインのTUFスタイル

外箱から取り出した内箱はTUFシリーズの意匠になったもの。シンプルながらハイエンド帯のVGAらしい梱包と言えなくもない感じです。以下、開梱時の様子をざーっと。

内箱を開けると、しっかり上下で支える梱包でVGAが登場
VGAを取り出した箱の下段。ペーパー類の入った箱と、その下にはVGAホルダーと面ファスナーが入っていました
ペーパー類一式。右上にあるのがVGAホルダーと面ファスナー。ホルダーは多少調整が出来るとはいえ、シンプルに下から支える棒、といった感じ

同梱品に関しては比較的シンプルというか、余計なものが入っていない感はあります。高価格帯だからとアレコレ詰め込むような事をしていないのは好印象。現状は使用していませんが、いざという時に使えるVGAホルダーは、もはや現行のVGAではお約束にまでなっている感じもあります。

ボードサイズは「開き直ったなお前」レベルのデカさ

さて、今度は取り出したVGAの本体をザーッと。

ブラケットは2段までながら、サイズ的には4段分無いと入らないくらいにはデカいクーラー
さらにブラケット固定部分から大きく張り出しているので、設置ケースはかなり選ばなくてはいけないサイズ。ミドルタワーでも絶望的
バックプレート側。こちらには「一応」LED照明の類はありません
VBIOS切り替えスイッチ。「Performance」の「P」が欠けているのは印刷ズレ?
左側がブラケット側。基盤そのものは電源端子部分が終端

さて、こんな感じで本体が出てきました。サイズは数字で確認こそしていましたが、実物を見ると改めて冗談みたいな大きさにビビっています。写真で見える電源端子(8ピン3本)がボードの後端で、それ以降は全てヒートシンク。基盤そのものはコンパクト化してきたものの、ヒートシンクがデカすぎる、というのは昨今のVGA事情通りです。

ボード長は355mmほど

リファレンスのRX7900シリーズは「ボード長を抑えてアップグレードしやすいように」なーんて話がありましたが、ベンダーオリジナルともなればそんな話はどこ吹く風。ミドルタワーで奥行きの無いようなケースにはまず入りません。後ほど出てきますが、フルタワーでフロントに水冷ラジエターを置いた環境だと、フルタワーにも関わらずギリギリなくらいです。いくらフラッグシップとはいえ、これはデカすぎ……と言いたいところですが、他社製品でも330mmを超えてくるので、かなり開き直った感はあります。ちなみに6700XTに関しては、暫く立って比較的コンパクトなモデルが出たりしたのですが、普及価格帯とはいえない7900XTX、コンパクトさは求める事自体が無理そうです。

左から7900XTX TUF、6700XT PGD、5700XTリファレンス
ボード長比較。ファン径も一目瞭然なトンデモ具合
ボード厚み比較。多少頑張って抑えた感のある6700XTと比較すると尚のことすごい事に

さて、実際にケースに組み込んだ所を比較してみましょう。

6700XT PGD
7900XTX TUF

ケースはFractalDesignのTorrent、フルタワーのモデルで、フロント側に簡易水冷のラジエターを搭載しています。6700XT PGD(ボード長305mm)ではM/Bの幅を超えこそするものの、まだケース内部に余裕があるのですが、7900XTX TUF(ボード長355mm)では長さ方向はもちろん、厚みや奥行き方向でもかなり余裕のない状態になりました。フルタワーでこれなので、ミドルタワークラスだと内部に余裕がなくて搭載出来ない、もしくは搭載出来たとしてもエアフローが悪くて排熱処理が難しい、といった問題が出る可能性は大いにあります。ボード重量も相当のものなので、言うまでもなくVGAホルダーは必須。今回もケース側に用意されているホルダーを調整して使用しています。拡張カードスロットのベゼル部分に関しては2スロット分のみで固定可能ですが、本体が公称で3.63スロット分なので、M/B側のPCIeスロット部は実質4スロット分を塞ぐことになります。他に拡張ボードを挿す事を考えると、なかなかに絶望感が漂います。

さて、バックプレート側ですが、「装飾系のLEDは無い」と書いたにも関わらず、赤いLEDが光っています。これに関してはこんな感じ。

赤いLEDは電源端子部
PCIe電源がしっかり挿し込まれると消灯。挿し忘れ・挿し込み不足の警告LED

こんな感じで、PCIe電源プラグを挿し込むと消灯します。プラグ挿し込み忘れや、しっかりと入っていない時にその旨を警告するLEDで、これに関してはかなり好印象です。大電力を消費するボードなだけに、接触不良等は電気事故の原因にも繋がります。8ピン端子それぞれにひとつずつ用意されているので、1本だけしっかり挿し込まれていないなどの場合にも確認が容易ですが、この部分が点灯するのは「M/Bに電源が供給されている時」となるので、そこは要注意。換装作業等で電源ユニットをオフにしていたり、主電源を抜いていたりすると当然ながら点灯しません。すべての組み込みが終わった後で、PCの電源を投入する直前、主電源ケーブルの接続を行った時点で確認をする必要があります。

さて、ボード取付時にちょっとしたトラブルが。拡張ボードあるあるなのですが、ブラケット側のネジ穴がズレて、固定が出来ない状態に。M/Bのネジを一時的に緩めてバックパネル側にわずかに押し付ける事で上側のネジを締める事は出来たのですが、下側は結局締まらず仕舞い。一応しっかり固定はされているので問題はなさそうですが、ボード自体の重量、もしくはバックプレート強度の関係で反りなどが発生しているか、ケース側が歪んでしまっていたかのいずれかと思われます。この手の大型ボードを頻繁に換装する方は、改めて要注意です。

PCの電源ON状態。フロントパネル側の角のみARGBのLEDが点灯しますが、それ以外はシンプルな感じ
下から見ても、ファン部分が光る等のギミックは入っていません。質実剛健とはこんな感じ

ベンチマークや動作スコアの上昇はあれど「ものによる」

VGA更新時のお約束

さて、ここからは実際の動作状況について見ていきます。条件は以下の通り。

固定環境:部分抜粋
・CPU:
RyZen 9 5900X (12C24T・OC指定打ち無し、PBO2ブースト許可)
・M/B:
MSI MEG B550 Unify
・MEM:
Crusial DDR4 16GB*4 3200MHz動作
・システムストレージ:
WD Black M.2 PCIeV4 500GB
・ソフトウェアストレージ:
WD Blue SATA 1TB
・電源ユニット:
NZXT C850 850W
VGA環境:いずれもOCユーティリティ導入、OC有効化
ASRock Radeon RX 6700 XT Phantom Gaming D 12GB OC
ASUS TUF Gaming Radeon RX 7900 XTX OC Edition 24GB GDDR6

ザックリとこんな感じ。一覧に記載した通り、VGAに関してはAMD Softwareだけではなく各ベンダーのユーティリティも導入し、OC設定を有効にした状態です。7900XTXに関してはVBIOSスイッチもありますが、これは購入時から選択されているPerformance側です。

3DMark:TimeSpy系

TimeSpy:6700XT
TimeSpy:7900XTX
TimeSpyExtreme:6700XT
TimeSpyExtreme:7900XTX

DirectX12テストとなるTimeSpyに関しては、FHD、4Kいずれの解像度でも6700XTに倍以上の差をつける結果になりました。単純にスコアだけでみれば、4K解像度となるExtremeでも1万オーバー、充分にゲームプレイが成立するフレームレートを出せる、という事になるのですが……なんとなくモヤモヤするのが、スコアの上がり方。倍のスコアを叩き出しているとはいえ、これミドルレンジの6700XTとの比較なのです。現状で6800系や6900XTを使用しているユーザであれば、さらに上がり幅は小さくなるものと思われるので、このスコア差に対して18万円を支払う価値があるか、と問われると……言葉を続けられる自信がありません。

3DMark:FireStrike系

FireStrike:6700XT
FireStrike:7900XTX
FireStrikeExtreme:6700XT
FireStrikeExtreme:7900XTX
FireStrikeUltra:6700XT
FireStrikeUltra:7900XTX

続いてDirectX11テストとなるFireStrike系。全てスコアが上昇してはいますが、フルHD解像度の時点では150%前後のスコアとあまりピンと来ない感じ。ある意味でDX11環境においてはほぼ頭打ちに近い状態、と言えなくもないのですが、これだけ見るとちょっと悩みます。一方でWQHD解像度では200%ほど、4K解像度では240%ほど、といった具合に、解像度が上がるとスコアの上がり幅も大きくなってきます。これを見ても、やはりフルHD解像度ではかなり頭打ちに近い状態になっているのだろうと思われるとともに、4K環境での動作スコアはある意味で順当に向上しているのかな、と多少納得出来る部分になりました。

VRMark:OrangeRoom

VRMark OrangeRoom:6700XT
VRMark OrangeRoom:7900XTX

製品版の用意が出来ていなかったので、デモ版での計測ではありますがVRMark。スコアは上昇しているものの、先2つのベンチほど極端ではありません(増加率103%)。ただ、VRを対象にした場合に重要となるのはやはりフレームレートで、いずれもミニマム(右端側)は81FPS、アベレージ(左端)ターゲット(中央)を大きく上回る値になっています。6700XT時点で305FPS出ているので充分すぎる安定性なのですが、これが7900XTXになると317FPSと、10フレーム以上向上。通常のゲームと違い、フレームレートの上下がほぼそのまま「3D酔い・VR酔い」に直結するだけに、この10フレームの上昇は決して小さい値ではありません。

ちなみに今回からSteamVRのベンチマークを除外しました。もはやあのベンチマークでは計測結果が出せないくらいにVGA側が成長してしまったので、今後アップデートが入るまではVRMarkで傾向を見る事になりそうです。

また、手元機材の関係で実際にVRゲームやソフトウェアを動かすには至らなかったのですが、GPUスコア以外に重要となるのがVRAM。6700XTで12GB、7900XTXで24GBと、もともとそれなりに大容量だったものが倍増しており、「VRといえばVRChat!」みたいな昨今ではこのVRAM容量がかなり有利に働く事でしょう。他の項でも触れますが、やっぱりVRAMは大きければ大きいだけ正義、みたいな感じになってきたのが最近のVGAを取り巻く環境だったりもします。

2023/03/31追記:VRMarkをレジストしたので、7900XTXのみですがCyanRoomとBlueRoomでも測定しました。結果は以下のとおり。

CyanRoomでは400fpsオーバー
スコアがちょっと惜しいBlueRoom

VRMarkに関しては、いずれの場合もGPU使用率は100%に到達し、TBPも300W台を超えてくるものの、OC設定の上限となる2900MHzまではクロック上昇が見られず、2400MHz台で推移していました。温度はホットスポットで80℃程度なので、サーマルスロットリングは考えにくい状態。最適化周りの問題なのか、クロック上昇に何らかの引っ掛かりがあるのか、ちょっと判別しにくいところです。

AI画像生成:NMKD Stable Diffusion GUI

ローカルで動作可能なGUI版「NMKD Stable Diffusion GUI」
設定はこの通り。AMDGPUにも対応してくれました

さて、続いては最近ちょっとしたブームになっているAIでのイラスト生成。色々とツールはありますが、GUIでサクッと使える「NMKD Stable Diffusion GUI」を使って、生成時間の比較を行いました。設定環境の抜粋は以下。

・演算系統:AMD GPU向け、ONNX使用
・学習モデル:「ACertainThing」ONNX変換済みモデル
・プロンプト:「hatsune miku」のみ・ネガティブ無し
・ステップ:25ステップ
・画像サイズ:512*512px
・出力:連続10枚

殆どの部分がデフォルト設定のままで、学習モデルの選択と変換がメインです。変換に関してはこのツールで実行可能な為、外部ツール等は使用していません。

生成結果。時間はともかく、品質に明らかな違いはなさそう

生成時の処理時間平均は、6700XTがおよそ43秒/枚、7900XTXがおよそ22秒/枚、という結果に。なんとか半分近くまで短縮したかな、という感じですが、1枚あたりの生成時間なので、全体を見るとやはり大きいです。これまで7分以上かかっていたものが3分ちょっとになるという事で、その分枚数を大量生産することも出来ますし、ステップ数を増やして品質向上を狙う事も出来ます。実際に継続テストとして別のプロンプトを当てた状態で、解像度を640*512pxに、ステップ数を120(上限値)に設定して回し続けていますが、この設定で115秒/枚の生成速度。現時点でAI系のローカル動作ツールは本ツールのみ確認中ですが、これだけ速度が出てくれれば、ツールや学習モデルの「クセ」のようなものも掴みやすくなるだろうと期待しています。

ちなみにVRAM使用量に関して、6700XT環境の12GBではほぼ確実に食いつぶしていたのに対し、7900XTXの24GB環境では「11~13GB付近で安定」という結果が出ました。つまるところ、デフォルト設定であっても12GBではまるで足りない、というとんでもない大飯食らいだったワケなのですが、余裕と思われた24GB環境であっても、前述の640*512px、120ステップで回すとあっさり24GB食いつぶします。このあたりはツールのクセなどもありそうですが、少なくともStable Diffusionで回すことを考えると「最上位モデルでもまだメモリが足りない」という現状のようです。

また、7000番台から追加となったAIアクセラレータですが、この記事執筆時点ではモニタリング出来る項目が見つからず、使用状況が不明という状態。Windows標準のタスクマネージャから見ると、3D演算が55%程度で回り続けているのですが、どの程度負荷分散がされているか、あるいはAIアクセラレータは動作しているのかどうか、その点が不明なままです。情報収集を続けて確認をしたいと思いますが、Stable Diffusion自体がもともとnVidia系のGPUのみ対応だった(アップデートでAMD系に標準対応化)為、Radeon環境ではまだまだ不利な動作環境なのかもしれません。

消費電力はなかなかの大食らい、GPU温度は控えめ

3DMark・TimeSpyExtreme実行中

ボード全体の消費電力となるTBPが355Wとされる7900XTXですが、当然GPU使用率によって値が上下します。特に今回のボードはOCモデルなので、更にハードな環境になるわけですが、3DMarkでTimeSpyExtremeを実行した時点でGPU-Zから見える値では、TBPで430W前後というかなり高い消費電力となりました。電源ユニットが850Wなので、実行中はVGAだけで半分以上を消費している事になります。8ピン3本のOCは伊達ではないようで、AMD公称値355Wを100W近く上回る結果でした。一方で温度に関しては極端に高いという印象は無く、パッケージで58℃、ホットスポットで80℃付近で安定。これでもファン回転数が50%前後なので、巨大なヒートシンクの冷却性能はしっかりしているようです。バックプレート側でも放熱を行っているのがわかるくらいには、プレート全体に熱が行き渡っているのが手で触れてもわかります。GPU付近が熱くなっているのは当然ですが、プレート全体、ヒートシンク全体がそれなりに熱を持っているのは、ヒートシンクの熱移動がしっかり出来ている証左でしょう。

NMKD Stable Diffusion GUI実行中

一方、Stable Diffusionを実行している状況で確認した所、TBPが220W、GPU温度は高いところでも62℃という結果に。電力消費はそれなりに大きいものの、冷却自体は充分に間に合っているようです。

いずれの際にも気になったのは「コイル鳴き」。3DMarkのような「常に負荷がかかり続けている」ような場面では「ジー」と長く続く鳴き方なのですが、Stable Diffusionでは断続的な負荷のかかり方をしているようで、「ジー、ジー」と、まるでHDDのシーク音のような鳴き方です。実際、ファンが当たっているのかと心配になって確認したのですが、そういった不具合は無く、音源を探っても明らかにボード上だったので、コイル鳴きでほぼ間違い無いでしょう。これがリファレンスボードでも発生するのか、ASUSのボード特有なのか、あるいは手元に来たボードの個体差なのかは判別しづらいですが、例によってコイル鳴きは「そういうもの」というアレなので、そのうち慣れるでしょうと開き直ることにしました。ただ、吸音シートを貼ったケース側面からも聞こえてくる(ケース机上設置、耳元までは60cm程度)ので、静音PCとして組んでいる方にはかなり耳に障る音である事は間違いありません。机下にPCを配置するなどで音源を遠ざけて対処する以外だと、ツールによるOCを止めたり、VBIOSをSilentモードにするなど、根本的に消費電力を低下させる方法を取る必要がありそうです。

価格は間違いなくハイエンド、性能発揮は環境と設定が大きく影響

何度見てもでけぇ

さて、そんなわけで今回は久々のハイエンド・フラッグシップGPU「Radeon RX 7900XT」と、それを採用したASUS製「ASUS TUF Gaming Radeon RX 7900 XTX OC Edition 24GB GDDR6」を使用したファーストインプレッションとして紹介してきました。5700XTが「フラッグシップ」と呼べたかどうかについては疑問符がつきそうですが、5年以上ぶりのフラッグシップVGA導入という事で、心臓が痛くなりながらもウキウキ半分、大丈夫かよ半分で試してみましたが、競争力が上がってきたとはいえ、まだ「これが最強!」と言い切ることが出来ないのがRadeon組。ベンチマークスコアだけでなく、ゲームやツール側の最適化対応もGeForce向けが多く、Stable Diffusionのように「とりあえず対応したよ」といったツールが多いのが現状で、ハイエンドモデルとしては多少価格的に有利なものの、18万円前後という価格だけ見てしまうと、一つ下の7900XTが13万円あたりから購入できたりと、「フラッグシップに何を求むか」次第でその存在意義が問われてしまう、というのはなかなか辛いところです。4Kゲーミングにしても、XTモデルで充分に対応できそうなのがまた難しいところで、10%のスペック差で優位性を見出すには、設定はもちろんですがソフトウェアや環境の整備・選択が難しい製品だと、改めて実感しました。7000番台から採用されたチップレット設計に関しても、メモリ帯域幅を始め内部的にはかなり効率化されているはずなのですが、一見したスコアだけ見ると評価が難しいところでもあります。

一方で、GeForce4000番台から採用されている12+4ピンの「12VHPWR」を採用せず、従来の8ピンコネクタで数を稼いでいる点に関しては「足元の安定性・安全性」は重視しているようで、変換コネクタを経由したり、コネクタ起因のトラブルが発生しないようになっているのは安心出来る点です。特に今回のTUFシリーズに関しては、「正常にコネクタが入っていないと赤色LEDで通知する」という仕組みも入っており、最も事故に繋がりやすい電源に安心感を持たせているのは感心しました。ド派手なLED照明も良いのでしょうが、こういった「不具合に繋がりそうな部分の確認」が出来る設計は、他社製ボードやリファレンスでもどんどん取り入れるべき構造でしょう。

VGAの選択はかくも難しくなってきており、特にフラッグシップを購入・導入するのはよほど環境を整えているか、あるいは「ロマンを求めて」なのか、そんな状態になっているのは前述の通り。オススメ出来るかと言われると、「んー、XTモデルで良いんじゃないかな」となってしまうのが悲しい所です。

AMDは例によってドライバ更新で大化けするジンクスがあるので、本製品も価格相応に長期スパンで見て使えるような化け方をしてくれる事を祈りつつ、AMDが様々に公開している最適化・効率化技術が多くのソフトウェアに取り込まれる事もお祈りしたいところです。無神論者ですが、AMD教なのでリサ・スーCEOに祈りを捧げることにします。