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私の税理士業敗戦記 EPISODE4その2

会計ソフト遍歴と、弥生会計への愛と、クラウド会計について思うこと

前回は、外資系会計事務所を退職するところまで書きました。

今回は23年前に独立してから今までの会計ソフト遍歴と、弥生会計に対する偏愛とクラウド会計に対する考えを綴ってみたいと思います。

 個別のソフトについて機能を解説してもちっとも面白くないので、まず独立後今まで使ったソフトを列挙してからマクロな視点のお話をしようと思います。

1996年から現在まで使った会計ソフトは以下のものです。

勘定奉行、小番頭、会計王、弥生会計、TKC FX2、発展会計、Asaas、ネットde会計、マネーフォワード、freee(無料期間のみ)、ツカエル会計 その他、こがねむしツールを作るためにほとんどの会計ソフトを試用しています。

 この中で最も衝撃を受けたソフトは弥生会計です。それまでの会計ソフトの3つの常識をくつがえしました。

 ひとつめは勘定科目コードをなくしたことです。これは単に頭文字で入力できるというメリットだけではありません。

会計ソフトをデータベースソフトとして考えたときに、勘定科目コードというのは非常に厄介な存在です。異なる会計ソフト間でデータ受け渡しの障害となります。

弥生会計へのデータの取り込は、科目コードを気にすることがないのでExcelやcsvデータがあればとても簡単です。そのため多くの会計ソフトは弥生会計形式の仕訳データをエクスポートできるようになっていますが、取り込みは困難なものが多いです。

 普通の左脳の強いエンジニアが会計ソフトをつくるとしたら、あいまいさの無い勘定科目コード方式をつかうと思います。しかし最初に弥生会計を考えたひとは、その先にあるデータ活用のイメージまであったのだと思います。こんなのがあれば便利だろうなというドラエモン型発想ができるひとだったのでしょう。

 ふたつめは、はじめてE-mailに会計ファイルの添付を可能にしたのが弥生会計でした。

 1990年代までは、会計ソフトのデータ受け渡しは、フロッピーディスクを郵送する方法で行うのが当たり前でした。

 2000年代にはいり、インターネットが普及し始めた頃でも、勘定奉行などの会計データは多くのファイルに分かれておりさらにデータサイズが巨大でE-mailに添付して送ることは不可能でした。なのでLAPLINKというソフトを使って電話回線でデータを伝送していました。

 しかし弥生会計の場合は、会計データがひとつに圧縮され、データサイズも小さくE-mailの添付ファイルとして送信することが可能となりました。これは革命的なことでインターネット時代の申し子のようなソフトでした。

 3つめは、その価格です。その当時、DOS版の会計ソフトは2つの価格帯に別れていました。

10万円から20万円のハイエンドに、勘定奉行、PCA会計、大番頭

3万円から5万円のローエンドに、小番頭、弥生会計DOS版

 ハイエンドソフトは部門別会計ができるなど高機能でした。

 その後弥生会計をつくっていた日本マイコンと、大番頭をつくっていたミルキーウエイという会社が、アメリカの会計ソフト大手インテュイットに買収され、大番頭のwindows版と弥生会計のwindowsが並行してリリースされました。しかし、中身はほとんど同じでしたが価格帯は別でした、そうこうしているうちに大番頭がなくなり、弥生会計だけが残りました。

 つまりそれまでのハイエンドの会計ソフトの機能のまま価格がローエンドになったのです。低価格高機能という掟破りの製品でした。

 おおげさかもしれませんが、最初に弥生会計を考えた人は天才だと思っています。それゆえに20年間ほとんど基本機能を変えずに現在に至っています。

 その後、ホリエモンのライブドアや、ファンドに売却される中で、優秀な技術者が抜けてしまったので、今後、もう弥生会計が進化することはないと思います。

 弥生オンラインは、弥生の名こそ冠していますが、その天才の系譜にはありません。秀才が会議室でブレストしてつくったようなソフトです。イノベーティブなプロダクトは天才の頭の中に存在するものだと思います。

 その天才の弟子たちの優秀な職人集団の多くは、ビズソフトという会社に移り、弥生会計の正当な後継をという思いでツカエル会計というソフトを開発しておられます。

 やはり、ここいらでクラウド会計のことも書いておかなくてはなならいと思います。

クラウド会計のなかにも2つの潮流があります。

発展会計やAsaasのように、会計業界から生まれたサービスと、マネーフォワードやfreeeのようにIT業界から入ってきたサービス。その中間の弥生オンライン

 発展会計は、弥生会計に似たインターフェースです(最初のころ、エンジニアさんに弥生会計を見せてこんな風にして欲しいと直談判した成果です)。もともと中古車販売チェーン店用のシステムを母体として生まれているので堅牢な作りで、権限管理がしっかりしているので多拠点の店舗で店長さんが入力するなどには向いています。ただしソフトのライセンスをリース契約しないといけないという致命的な欠点があります。それでも私は13年ほど使い続けており、2年後にはリース契約を更新しないといけません。

 Asaasは、使いやすい税務ソフトと一体化しているという大きなメリットがありますが、会計ソフトがJDLの流れを組むため、弥生会計などに慣れているひとには違和感が大きいと思います。

こちらもベータ版のときに、「これは会計事務所のベテランのキーパンチャーさん向けの仕様なので、自計化ツールを念頭におくなら、こんなユーザーインターフェースでは絶対に普及しません。」とエンジニアさんに注進しましたが、こちらは受け入れてもらえませんでした。

そして、マネーフォワードとfreee、そして弥生オンラインですが、誤解を恐れずにいうと、性格的にはEpisode3で書いたような「他業界からやってきた業界に愛のないハイエナ」の進化系だと思います。

ただ草食系のため牙を向くことはなく、根を張って融和しようという姿勢は感じられますが、fintechという言葉が象徴するように会計ソフトも金融ビジネスのパーツとして捉えているので、

「そこに愛はあるんか?」

と質問したくなります。

 草食系なので真綿で首を締めるように税理士業界のデフレ化を進行させてきました。

 会計事務所にとっての会計ソフトは、命綱であり、大工さんにとっての金槌やカンナのような生きていくための道具です。

 毎月決算作業の締切に追われる我々にとって、会計データは命です。月末にデータが飛んでしまったり、計算が間違っていれば税理士としては死の宣告と同じです。

 従来の会計ソフト業界はそういう思いを共有できていたので、月末にクラウド会計のサーバーが止まるとか、サポート契約をしていなかったら消費税率を勝手に上げるなんてことは絶対にありえなかったと思います。

 他業界からの参入組は、大工さんの大工や金槌やカンナという発想はなく、

「ダサい職人技で削るカンナを使うより、電動の工具をつかえば素人でもつかえるし効率的じゃん!時々故障して動かなくなるけどね!」

という発想だと思います。

 なので、クラウド会計の経営者さんの対談を聞いてもわたしはあまり共感できませんし、直接お会いしてお話しても、やはり違う世界の人だなあと感じました。

 奇しくも、弥生会計から、ビズソフトに移籍された優秀なエンジニアさんは「大工にとってのカンナのような会計ソフトをつくりたい。」とおっしゃっていました。時代遅れかもしれませんが、私はそちらのほうに共感を覚えます。

 もうすぐ、このビズソフトさんも満を持してクラウド会計ソフトを投入されます。ベータ版を使いましたが、クラウド会計ソフトの常識を覆すような動作速度です。

fintecの部分が弱点なのですが、よく削れるカンナのような会計ソフトを期待しています。

 これらはあくまで、税理士からの視点なのでクラウド会計による一般事業者のメリットは大きいということを付け加えておきます。


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