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人間交差点:スーパーのサッカー台

空港の出発口、新幹線のホーム、卒業式の校門…。思いがけず、ふと、名前も知らない誰かの人間ドラマに出会うことがある。

黒い機体がかっこいい、スターフライヤーの本社がある北九州空港には、出発ロビーと搭乗待合室が厚いガラス1枚でしか隔てられていない所がある。普通なら保安検査の前でバイバイだけど、北九州空港では搭乗直前まで見送りに来てくれた人の顔が見える。大規模空港では出来ない良い設計だなぁ、と行くたびに思う。

厚いガラスは相手の声を遮ってしまうから、ガラス一枚の距離を挟んでスマホで会話する人達が1便に何組かいる。去年、出張の帰りに搭乗直前のお父さんとガラス向こうにいる母子の3人親子を見た。お母さんに抱っこされた女の子が小さい手でスマホを握りしめ、ガラス越しのお父さんと会話している。

出張の行ってらっしゃい、かな?
単身赴任のまたね、かな?

僕も単身赴任で次男に淋しい思いをさせた時期があるので、そのお父さんは出張だといいな、と思った。

色々な人間ドラマが生まれる人間交差点。
実は、とても身近な所にもある。
それはスーパーの「サッカー台」、買った商品を袋に入れる作業台だ。サッカー台には、笑顔の人もいれば、ケンカをしている人もいる。子をしかる親もいれば、優しい店員と高齢者の触れ合いも見られる。まさに人間交差点。

まず、下の図を見て欲しい(PCで画像クリックすると高解像度で文字も読めます)。
これは、スーパーでの買い物中の感情起伏を特徴的な3つのタイプに分けてグラフ化し、思考、感情、振る舞い、の三項目に分けて箇条書きしたもの。ABCの3パターンは、架空の人物だけど僕がスーパーで見たことあるシーンがもとになっている。曲線が0よりも上の時は嬉しい状態。下の時は焦ったり、怒ってたり、要は嬉しくない状態。

前の日からWEBチラシを凝視して来店する人を除けば、入店時のテンションはフラットな人が多いはず。お買い得品を見つけた時にテンションが上がり笑顔になるのもみんな一緒。問題はこの先。
レジ待ちから退店まで、様々な人間ドラマが日々展開されている(と思う)。

Aは人生を謳歌するタイプ。お買い得を見つけ小躍りし、買いすぎて会計時に一瞬へこむけど、家に帰る時は超ハッピー。周りの人まで幸せにする、“笑顔とスーパー袋” は最強の組み合わせだと思う。Aタイプの人にとってスーパーは、行くだけで気持ちが上がるテーマパークだ。

Bは堅実タイプ。スーパーは、あくまでスーパー。それ以上でもそれ以下でもない。お買い得を見つけたら嬉しいしテンションは上がるけど、不用意な出費はしない。

Cは、カップルによくあるパターン。
サッカー台で一人が袋詰めをし、パートナーは隣で話しかけているかスマホを見ている。二人が笑いながら話していれば良いが、「黙々と袋詰め係り」と「黙々とスマホ係り」な二人に会うと気になって仕方がない。
そんな事を言ってる僕も結婚一年目のケンカが多かった頃は「黙々と袋詰め係り」になっていたことが多々あった。Cタイプのカップルはサッカー台によく出没しているので、スーパーに行った時には注目して欲しい。


逆に心温まるシーンもある。
お刺身をいっぱい買って、横にならないよう相談しながら袋詰めする家族。大量のお菓子を買い込むサッカーのコーチらしき男性と子ども達。アイスを買って店外にダッシュで消える小学生。
何気ないシーンだけど、スーパーから出たあとの家や学校での楽しい風景が思い浮かんでこちらも嬉しくなる。

小学校低学年の頃、母とスーパーに行くと僕には大事な役目があった。
サッカー台にある、肉や魚のパックを入れるロール式ポリ袋を開ける係りだ。手が乾燥してポリ袋が開けづらい母の代わりに次々と僕が開けていく。「すごいねぇ。さすがだねぇ。」と褒められるのが嬉しかった。
九九が言えるようになったとか、ピーマンが食べられるようになった時に言われる「すごいねぇ」とは全然違う。親に頼りにされて褒められる「すごいねぇ」は特別だった。
だから母と行くスーパーは大好きだった。

僕の手も年齢を重ね、すっかりカサカサになった。冬はスマホの画面が全く反応しなくなる事もしばしば。ポリ袋を素手で開けるなんて、とうの昔に出来なくなった。

家族でスーパーに行く時、今では次男がポリ袋開け係りだ。妻が「さすがっ!」と次男を褒める。隣で何も手伝わずスマホを見ながらLINEのスタンプを連打している長男がいる。その長男の頭をこづいて袋詰めを手伝わせる僕がいる。

もしかしたら、そんなサッカー台の僕たちを「どこも一緒だねぇ」と見ている誰かがいるのかもしれない。

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