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魔法のことば「おともだち」

覚えておくと便利な日本語という記事がある。主に日本在住歴の長い海外の方のブログに多い。

お礼にも謝罪にも、人を呼ぶときにも使える
「すいません」

断るときも、受け入れるときも使える
「大丈夫です」

挨拶にもお礼にも使える
「どうも」

どのサイトでもこの3つは必ずランクインする。でも、一般的ではないけれど、もっと便利な凄い日本語がある。
最近、ご結婚されたアナウンサー風に言うと

お・と・も・だ・ち

そう、「お友達」だ。

初めて、この言葉に出会ったのは長男が2歳のときか。砂場で遊んでいた長男のスコップを同い年くらいの女の子が触ろうとした。

「お友達のだからさわっちゃだめよ~」

うしろからその子のお母さんの声。
僕は長男が通う保育園に最近入ってきたお子さんかな?と思い、
「ぜんぜん大丈夫ですよ~ お散歩ですかぁ?」と普段よりも愛想を増量して挨拶した。
よその知らない子でも「おともだち」と呼ぶことがあるんだよ、その日、夕飯を食べながら妻から教わった。


へぇぇ、とすごく関心した。
そんな使い方があるんだ、と日本語を再発見した気分だった。この使い方に抵抗があるという人もいるけれど、僕は良く使った。
だって、他に最適な表現が思いつかなかったから。


例えば長男が滑り台の列に割り込もうとしたとき…

「青いシャツのお兄ちゃんと黄色のスカートのお姉ちゃんの間に割り込んじゃダメだよ」
長すぎる(38文字)

「お友達の間に割り込んじゃダメだよ」
一息で言える(16文字)



あと、公園の子供の動きは予想できない上に素早い。直感的に言わなきゃ間に合わない。

「そこの水色のTシャツを着た…(あれ?隣の子のシャツも濃いけど水色だな。えっと…) 恐竜の帽子を被った子の風船に触っちゃダメ~~」
9秒。言い終わる前に風船は割れてるかもしれない。

「お友達の風船触っちゃダメ~~」
1.8秒。多分、風船は助かるだろう。


砂場で長男が遊んでいると、見知らぬ子が入ってきて、いつのまにか一緒に遊びだすこともあった。
こうなると、完全にお友達だ。
その子のお母さんが遅れてやってきて、二人で二人を見守る。お互い無言のときもあれば、世間話をすることもあった。

別れ際に子供たちは「またね~」と淡い約束をする。
大人同士は「さようなら」と挨拶をする。

小さな砂場で偶然一緒になった十数分限定のお友達。そんな、ふわっとした時間が僕は好きだった。

次男も小2になったら友達と遊ぶ機会が増え、子どもと一緒に公園に行くこともなくなった。「パパ、公園に行こうよ!」と子ども達に誘われ、家でゴロゴロしたい気持ちを抑えて遊びに行ったことが懐かしい。

先週の日曜日、駅から歩いて帰る道すがら。
急にコーラが飲みたくなって、公園のベンチに腰かけて自動販売器で買った赤い缶をプシュっとやった。
まだ残暑が厳しいせいか、公園で遊ぶ子はまばら。遠くでサッカーをしている子供達を見ながら、チビチビとコーラを飲む。
コーラは最初の一口で満足度が90%に達してしまうから350mlの缶は大人には大きすぎる。子どもの頃は同じ値段で250ml缶を買うバカがいるのか?と疑問だったけど、大人になって存在理由が初めて分かった。


少し離れたところから、2、3歳の男の子が蛍光イエローの水鉄砲を持ってニコニコしながら歩いてきた。
満面の笑みを浮かべながらプシュッ、プシュッと水を出し近づいてくる。
昨日のお祭りで買ってもらったのかな?随分とお気に入りのようだ。

「おともだちのお父さんに水かけちゃダメよーー」

セミの鳴き声にも負けない、よく通る声で叫びながら、その子のお母さんが近づいてきた。

思わず周りを見回す。
僕にもっとも近い子どもは20M以上離れてサッカーをしている男の子2人だけ。
お父さんと呼べる年齢の男性は僕ひとり。

図解するとこう。

この位置関係で僕を「おともだちのお父さん」と呼ぶんだ!?
さすがに強引だと思う。

でも、
「お兄さんに水かけちゃダメーー」では、僕はお兄さんに見えないから、水鉄砲の進撃は止まらない。
「おじさんに水かけちゃダメーー」も言いづらい。僕はどこから見てもおじさんだけど、お母さんも赤の他人を大声でおじさんと呼ぶのは躊躇するだろう。


やっぱり便利だ、”おともだち”

こんな便利な言葉、他にそうはない。

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