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どうして男の子? 女の子?って聞くんだろう?

金曜日の夕方、去年プロジェクトで一緒になった営業部の女性が僕のいるフロアに顔を出した。ひさしぶりだね、と声をかけると「来週から産休に入るのでご挨拶に来ました」と嬉しそうな笑顔。思わず僕まで笑顔になってしまう。

「男の子? 女の子?」と隣にいた先輩が彼女に質問した。

僕はこの質問が苦手、というか嫌いだ。先輩に悪気はないし、彼女も気にしてなかった。でも、軽い感じでこの質問をする人に出会うと「聞いてどうするんだろう?」と思ってしまう。
出産あとに、プレゼントを贈りたいから質問するなら分かる。でも、出産前に性別を聞くことに何の意味があるのだろう?
祝福の言葉のつもりかもしれないが、それなら「待ってるよ」とか、同僚ならではの言葉があるはずだ。

「男の子?女の子?」

この質問は、親族か仲のよい友達だけが使える特別な言葉な気がする。


でも一度だけ、初対面の人に質問されて嬉しく思った時があった。それは次男が生まれる2ヶ月まえのタクシーの中・・・

わが家は元気な男の子の二人兄弟。とても仲がいい。長男が中学生になってから一緒に遊ぶ時間は激減したが、今も楽しそうにゲームの攻略法を語り合っている。次男はいまだに「お兄ちゃんといっしょにする」が口癖だ。この二人で良かったなぁ、としみじみ思う。


でも、実は、二人目は女の子が欲しかった。兄妹に憧れていた。二人目を授かったとき、“女の子に違いない” と根拠のない確信というか、思い込みがあった。だから妊娠5ヶ月目のエコー検査の時、先生に「あれ? もしかして… え〜っと性別は生まれるまで内緒でしたっけ?」と言われてピンときてしまった。5ヶ月目のエコーで女の子と断定するのはとても難しい。

6ヶ月目の検査で僕らでも分かるとても小さな男の子のシンボルが見えたときは、少し複雑な気持ちだった。

とても愛おしくて ほんの少しだけ切ない

切なく感じてることに小さい罪悪感を覚えた。性別は関係ない、元気な子が産まれるのが一番!と考えようとしていること自体が後ろめたかった。


そんな思いも出産が近づくにつれ薄れていく。長男のお気に入りだったパジャマをまた着せられる!、お揃いの野球帽をかぶったら可愛いすぎる!と妻と盛り上がっていた。
ただ、会社の飲み会で「今度生まれてくる下の子は男の子?女の子?」と聞かれた時は、まだ分からないんですよね、とごまかした。女の子を授かっていたら、僕はちゃんと答えていたかもしれない…

出産まで2ヶ月となったある日、家族3人で出かけた帰り道。妻が少し疲れた、と言ったのでタクシーで帰ることにした。手をあげて止まった、タクシーの運転手は、ロマンスグレーの笑顔が素敵な男性だった。妻の大きくなったお腹をチラっと見て「少しゆっくり走りますね」と静かに車を動かす。しばらく走ると長男に話しかけた。

「お兄ちゃんは何才かな?」
「4さいっ!」
長男が得意げに指を4本たてる。

「そうなんだね。 生まれてくるのは弟さんですか?妹さんですか?」
今度は助手席の僕に話しかける。僕が一瞬、躊躇していると長男が嬉しそうに答えた。

「おとーとだよ」

ひと呼吸置いて、運転手がゆっくりと言う。
「そうですかぁ。同性が一番ですよ。ず〜っと一緒に遊べますしね。僕は姉なのだけど、一緒に遊べることが少なくてね…」

優しい言葉だった。
それを聞き、長男と次男が二人で遊んでいる姿を想像する。お腹の中にいる次男に早く会いたい、と心の底から思った。タクシーの中で僕も妻も満面の笑顔になっていた。

家の前でタクシーを止め料金を払う。あの運転手さんのタクシーに乗れて良かったね、と妻と話しながら家の鍵を開けたとき、ふと思った。

きっとあの運転手は、長男が「いもうとだよ」と答えても優しい言葉を返してくれたに違いない。「異性が一番ですよ」と言って、僕らがホッとする言葉をくれたに違いない。
なぜだか分からないけど、その時そう思った。今でもそう思っている。

うちの長男と次男はホントに仲が良い。僕にも年が離れた兄がいて仲はいいが、子供たち程ではない。

夜、部屋の電気を消した後、子供たちはひそひそ話をしながら時折ケラケラと笑い声を上げる。その度に子供部屋の前に行って、羨ましく思いながら「こらっ、早く寝なさいっ!」と僕は怒るんだ。

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