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三度目の夏

父が8mmフィルムで撮った家族旅行の映像を見るのが好きだった。
年に数回あるその日は、普段は鍵がかかっている父の書斎に入れることも、幼い僕にとって特別感があった。

書斎には重厚な黒い木の机があって、そこに映写機を置く。部屋の反対側の白い壁がスクリーン代わりだ。

カタカタカタ…

暗い部屋の中に耳心地の良いリールの音が響いて、母と兄と僕の三人が旅館の裏で雪合戦をするシーンが映し出される。まるで映画の中に自分がいるようで、目が釘付けになった。


ふとふり返ると
映写機を操作しながら、父が穏やかな笑顔で壁に映る僕たちを見つめている。厳格な父が滅多に見せない、その笑顔が見たくて、壁に背を向け僕は父をじっと見つめていた。

毎年、お盆が近づくと思い出してしまう。
映写機の音と壁に映し出された旅行の映像、そして幼かった自分が父の姿に見とれていた、あの日のことを。

懐かしい父の笑顔を思い出す夏は、今年で三度目になる。



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