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老いを楽しく手なずける

できていたことが、できなくなってしまう…つらさ

身体が言うこときかんのよ。年とると、あっちこっち身体が痛くなる。

気持ちは若いままやけど、身体が思うように動かん。惨めやし、情けない、悔しい。

年をとるっちゃ、なんも良いことないわ。若い人にはまだ分からんやろうけど…ね。

と、70代後半のご婦人が、お参りでお宅に伺ったさいに話してくれました。人生の先輩方から、長生きすることの厳しさを教えてもらいます。

だけど、その先輩方のお顔は、不思議と、悲観的な絶望的な表情ではないことが多いです。

確かに、以前のようには動かない身体に、惨めさ、情けなさ、悔しさが生じるのは偽りのない本音でしょう。こんなはずじゃなかった…と。

しかし、そんな愚痴をこぼしながらも、その表情からは老いを受け入れる力強さも感じるのです。

先ほどのご婦人は、最後にこんな風に教えてくれました。

私は両親の介護もした。老いて、こんな風に弱っていきたくないなと感じてた。

そんなことを察した母から「いずれあなたもこうなるのよ」と笑って言われたことがある。そんな風にはならないと思ってたけど、いまでは、すっかり私がその老人。

お坊さん、いずれあなたもこうなるのよ。覚悟しなさい。若いお坊さんに、人生の先輩からのお説教です(笑)。

いえ、本音としては、笑い飛ばすことでしか語れないほど精神的に辛いことなのかもしれません。とはいえ、少なくとも私の前で見せてくれる言葉や表情からは、その老いを避けられないものとして引き受けて生ききる。そんな覚悟を感じるのです。

苦難の多い人生を生き抜くために

仏教では2500年前から、この娑婆世界は「一切皆苦」と説かれます。

この世に生きることは苦しみに満ち溢れている。思い通りにいかないのが娑婆世界のデフォルト。

仏教ファンで知られる漫画家・イラストレーターのみうらじゅんさんは、一切皆苦のこの世を笑いながら生き抜くための方法を教えてくれます。

人生は苦。世の中は諸行無常。でも、「そこがいいんじゃない!」と唱えれば、きっと明るい未来が見えてくる。

みうらじゅん 『マイ仏教』

苦難の多い人生を「そこがいいんじゃない!」と自分に言い聞かす。

けれども、そうは思えないことを言い聞かすのは難しいことです。

それでも、「この娑婆世界は一切皆苦で思い通りにいかない」ことを聞き受けることで、受け入れ難いものを受け入れるための土壌を耕すことができるのかもしれません。

お浄土のばあちゃんには内緒の話

お月参りのなかで83歳になる男性からこんなことも教えてもらいました。

80歳過ぎてようやく気づくこともある。それは、生かされているってことやな。

それはどんなときに感じるんですか?と伺うと、

身体が思うように動かなくなって、自分でできることが少なくなってきたんよ。

一昨年お連れ合いに先立たれて80歳にして一人暮らし。週3回はデイサービスに通われ、車で30分ぐらいのところに住む娘さんが週に2回ほど顔を出してくれているようです。

家で風呂に入ろうとすると娘が心配するから、デイサービスで入れてもらう。一人で風呂も入れんことなった。おしめもするようになった。なぁー、情けないな。赤ちゃんみたいやな。

だけどな、一人でできんことなったから、みんなが助けてくれる有り難さに気づけたわけよ。ありがとうの人生やな。

こんなこと若い頃は思いもしなかった。

老いを受け入れるのはしんどかったんじゃないですか?と聞くと、

そうそう、受け入れるのは大変やった。受け入れたくなかったわな。

だけど、世話になるしかないんだから。もう開き直るしかない。一度受け入れられたら楽なもんよ。

その代わり、精一杯の気持ちでありがとうって笑顔でお礼を言うんよ。そしたらお互いに気持ち良いやろう。

それとな、笑顔でありがとうと言うと若いスタッフの子からモテるんよ。わざわざワシを見つけて挨拶しにきてくれるんよ。

これはお浄土のばあちゃんには内緒やぞ。アッハッハ。

長生きすると、できないことも多くなり、惨めさ、情けなさ、悔しさ…後ろ向きな思いがわきおこってきます。

ただ一方で、さまざまな葛藤を抱えながらも、そうなったからこそ見える景色があることを教えてもらいます。

人生の先輩方との対話を通して、心と身体で「生かされていること」を実感し「ありがとう」の毎日を送る。そんな風に年を重ねていきたいなと思いながら、今日もご門徒さんのお宅に伺い、一緒にお経を勤めさせていただきます。ナモ!

「良いな」と思ったら、掲示板の写真を撮って、ハッシュタグをつけてSNSでシェア!友人・知人にもあたたかな言葉のおすそ分け。

#お寺の掲示板
#こうげそ

上毛組 (こうげそ) お寺の掲示板とは…

福岡県豊前市・上毛町・吉富町にある18のお寺でつくる浄土真宗本願寺派 (西本願寺) のグループ「上毛組」が、20年以上に渡って毎年制作している伝道ポスターです。仏教の教えや、仏さまのお心が伝わることを目指しています。

このコラムを書いたお坊さんは…

霍野 廣由 (覚円寺 副住職) さん
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