2018まとめ記事

【2018年まとめ記事】研究すること

水曜日は「研究すること」のトピックで書いています。

2018年も「ちはるのファーストコンタクト」をご愛読いただき、ありがとうございました。年末年始特集として2018年のまとめ記事を載せていきます。

今回お届けするのは「研究すること」として2018年9〜10月に連載したものです。

01 研究のプロセスにあなた自身が表現される
02 リサーチ・クエスチョン。その前のクリニカル・クエスチョン。
03 良いリサーチ・クエスチョンの要件 “FINER”
04 おもしろい研究とは何か
05 リサーチ・クエスチョンの構造 PICO/PECO
06 要因を分析することと測定する変数を決めることがワンセット
07 要因とアウトカムについての見立てさえ的外れでなければ意味のある研究が成立する

01 研究のプロセスにあなた自身が表現される

水曜日はこれまでフリーテーマで書いてきました。今回から「研究すること」で書いています。ズバリ研究するとは何かということから、ちょっとした工夫、ティップスのようなものまでをトピックにして書いていきたいと思います。

前回は「研究することは個人の統合かもね」というタイトルで書きました。研究というと、堅苦しくて形式ばったものだと考えられがちです。実際のところその通りで、たとえば先行研究の引用の仕方や文献リストの書き方は、スペース、コンマ、ピリオドにいたるまで細かく決められています。それに違反するとすぐに指摘されます。

形式がきちんと決められているのは、テニスでいえばコートの大きさとネットの高さが厳密に決められているのと同じことです。決められたコートの中で真剣なゲームが行われるわけです。そこでコンマひとつでも使い方が違っていれば、それは「アウト」ということです。

その一方で、コートに入っていればどんなボールでも「セーフ」です。そしてそのボールをどのように打つかという自由はプレイヤーに任されています。その意味でプレイヤーには自由が広がっています。そこで創造性が問われるのです。もちろん、ゲームをしていけば勝つためのパターンが自然とできあがっていきます。しかし、そのパターンもいつかは打ち破られていきます。それが進歩ということです。

研究においてゲームに対応するものは「論文」です。どんな研究でも最終的には研究論文という形で世に問うことになります。論文はその書き方が厳密に決められています。それはテニスのコートのサイズが決まっているのと同じことです。しかし、論文の中で主張することはその書き方がルールに沿っている限り、完全に著者の自由なのです。だからこそ意味があります。著者の学識でも職位でもなく、与えられたデータから読み解くスキルだけが勝負の分かれ目になります。

そして研究論文を書いていくプロセスで、その人自身の姿勢や考え方が現れてしまうのです。それはボールの打ち方や攻め方、守り方がその人自身を表現しているのと同じことです。研究することは自分自身を表現することです。だからそこで個人としてのあなたが問われるのです。

02 リサーチ・クエスチョン。その前のクリニカル・クエスチョン。

リサーチ・クエスチョンというのは、その研究のスタートでもありゴールでもあります。研究が継続していく限り、何度も作り直されていきます。ちはる塾おとな学部おとなの研究コースでは、4シーズン、1年以上をかけて研究を進めていきます。その最初のシーズンですぐにリサーチ・クエスチョンを作るという課題があります。

リサーチ・クエスチョンは一度立てたらそれで終わりというわけではなく、研究が進むにしたがって、何度でも考え直され、改定されていくものです。まさに、研究はリサーチ・クエスチョンに始まり、リサーチ・クエスチョンに終わるのです。

リサーチ・クエスチョンを立てるのは難しいものです。最初のシーズンで立てたリサーチ・クエスチョンをその段階で評価するのはほぼ不可能です。指導する方も、ファシリテーターも、このリサーチ・クエスチョンがどのように実を結んでいくか予測がつかないからです。

立てるのが難しいリサーチ・クエスチョンだけを解説した本があります。福原俊一『リサーチ・クエスチョンの作り方 第3版』(特定非営利活動法人 健康医療評価研究機構, 2015)です。実例は医療系のものですけれども、参考になります。

この本の中で、クリニカル・クエスチョンという言葉が出てきます。これは臨床現場にいる人が現場で漠然と感じた疑問ということです。リサーチ・クエスチョンを作る前に、必ずクリニカル・クエスチョンを感じているはずです。

現場で感じた、悩み、わからないこと、つまづき、問題点、改善が必要なこと、理解できないこと、学んだ知識どおりではないこと、こうしたものすべてがクリニカル・クエスチョンになります。で、ふつうはそれを素通りしてしまうわけです。「まあ、いいか」と。でも研究をしている人は違います。

その現場で感じた違和感を「丁寧に言語化していく」。それがクリニカル・クエスチョンになるということです。そうしたものが集まってくると、何かパターンというか文脈のようなものが明らかになってくる。また、カテゴリーや概念のようなものが見えてくる。そこまでいくと、リサーチ・クエスチョンまであと一歩ということになります。

03 良いリサーチ・クエスチョンの要件 “FINER”

前回はリサーチ・クエスチョンを立てる前にクリニカル・クエスチョンを言葉にしていくということを書きました。現場で感じた、悩み、わからないこと、つまづき、問題点、改善が必要なこと、理解できないこと、学んだ知識どおりではないこと、こうしたものすべてがクリニカル・クエスチョンになります。

クリニカル・クエスチョンをきっかけとしてリサーチ・クエスチョンを作っていきます。良いリサーチ・クエスチョンは研究の原動力となります。では良いリサーチ・クエスチョンとはどのようなものでしょうか。福原俊一『リサーチ・クエスチョンの作り方 第3版』では良いリサーチ・クエスチョンの要件として「FINER」を紹介しています。

FINERは次の5つの項目の頭文字をとったものです。

Feasible = 実行可能である
Interesting = おもしろい/興味深い
Novel = 新しく独創的である
Ethical = 倫理的である
Relevant = 切実である

この中では2番目と3番目の Interesting & Novel(おもしろく独創的である)が特に重要です。おもしろいというのは、単に個人的な好奇心を刺激するというだけではなく、その専門領域や社会全体から見て意味があるということを指しています。同様に、新しく独創的だというのも、個人にとってそうであるというだけでなく、専門領域や社会全体から見て新しく独創的だということです。

そうすると自動的に、その領域でこれまでにどのような研究がなされてきたのかということを調べる必要が出てきます。自分の研究が新しいということを主張するためには、過去に同じような研究がないことを示す必要があるからです。こうした研究を探すには、Google Scholar が最も手軽で便利です。次のサイトからキーワードを入れるだけで学術的な文献に限定して検索してくれます。

また、日本の学術文献を探すには J-STAGEが便利です。

こうしたサイトで研究を探してみると、たくさんの文献が出てくるか、まったく出てこないかのどちらかです。たくさんの文献がリストされると「ああ、すでにこんなにたくさんの研究があるのか。私のリサーチ・クエスチョンはすでに研究され尽くされている」と思うかもしれません。しかし、実際はキーワードが一般的すぎるのが原因です。逆に、まったく文献が出てこないときには「やった。このテーマは私が最初に発見したものだ」と思うかもしれません。しかし、実際にはキーワードが特殊すぎるものだということが原因です。

いずれにしても、キーワードを少しずつ変えて文献検索をしていくと、だんだんと感じがわかっていきます。そのプロセスをたどることが研究史を勉強していくことになるのです。

04 おもしろい研究とは何か

前回は良いリサーチ・クエスチョン(RQ)の要件として「FINER」を紹介しました。これは「実行可能 Feasible/おもしろい Interesting/独創的 Novel/倫理的 Ethical/切実 Relevant」の英語での頭文字をとったものです。その中でも、Interesting = おもしろいと、Novel = 独創的は、特に重要な要件です。

自分が考えたRQがNovel(独創的/新奇性がある)かどうかは先行研究を調べることでわかります。先行研究を検索して論文を読んでいくのは自分の研究に新奇性があるかどうかを確認することが目的です。

先行研究を読んでいくことはもしかすると退屈な作業かもしれません。論文はエンタテイメントのための文章ではありません。しかし、それに慣れていくと、まえがきでの研究の背景や必要性の流れがどうやって説得的に書かれてあるのかや、考察でデータ分析結果からどのように一般化した主張を書いているのかなどに、エキサイティングなものを感じるようになるでしょう。そうしたことが高々10ページの分量でコンパクトに凝縮されているのが論文という種類の文章なのです。

さて、良いRQの要件のInteresting(おもしろい)はどうでしょうか。おもしろいというのは、単に個人的な好奇心を刺激するというだけではなく、その専門領域や社会全体から見て意味があるということを指しています。では、専門領域や社会全体から見て意味のある研究とは何でしょうか。これも先行研究を読んでいくうちに、そこで何が論争になっているのかがわかってきます。そういう問題が「おもしろい」ということになります。また社会全体でも問題になっていることがあるでしょう。そうした問題に取り組む研究が「おもしろい」ということになります。

もちろん個人的な「おもしろさ」というのは大切にします。それが研究をするための原点ですから。私の場合も、現場にいてさまざまな問題について考えています。これがクリニカル・クエスチョンになります。そうした中で、「もしかしたらこれが問題解決のためのキーになるかも」というようなヒラメキみたいなものがあります。それが研究に対する原動力になります。もちろんこの時点ではこれはあくまでも思いつきにすぎません。それが本当に研究のタネになるかどうかはわからないのです。それを検討するために、論文を読んだり、専門書を読んだりします。

そうすると現場での思いつきやヒラメキのほとんどはすでに誰かが取り組んでいたり、すでに解決された問題だったりすることがわかります。それは少しゲンナリする体験ですけれども、しかし多くの問題は依然として未解決であることもわかります。それを確認できたら、研究の方向性が決まります。その方向で進んでいいのだという確信を持てます。

05 リサーチ・クエスチョンの構造 PICO/PECO

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