4-お勧めの本19

【本】アラン・S・ミラー、サトシ・カナザワ『進化心理学から考えるホモサピエンス』:進化心理学の全体像を知る

木曜日はお勧めの本を紹介しています。

今回は、アラン・S・ミラー、サトシ・カナザワ『進化心理学から考えるホモサピエンス』(パンローリング株式会社, 2019)を取り上げます。

■要約

進化心理学ではこれまで見逃されてきた人の生物学的な要因を強調する。そこでは自然主義的な誤謬(自然なものは善である:「自然の摂理では男は闘い、女は育むように作られている。だから女は家で子育てに専念し、政治は男に任せるべきだ」)と道徳主義的な誤謬(善であるものは自然である:「リベラルな民主主義は男女平等を掲げている。その立場では男女は生物学的に同一であり、それを否定する研究は間違っている」)を避けて議論を進める。科学には「〜すべき」という表現が入る余地はない。

進化心理学は進化生物学を人間の行動にあてはめたものである。以下の4つの原則を持つ。

(1) 人間は動物である。人間はユニークだが、ショウジョウバエがユニークであるという意味でユニークなのだ。

(2) 脳は特別な器官ではない。他の器官と同じように何百万年もの進化の歴史で適応上の問題を解決するように形成されてきた。

(3) 人間の本性は生まれつきのものだ。人間の場合、社会化と学習は重要だが、人間は文化的な学習の能力を生まれつき備えているものであり、それは進化によって獲得してきたものだ。

(4) 人間の行動は生まれ持った人間の本性と環境の産物である。同じ遺伝子でも環境が違えば現れ方は違ってくる。遺伝子とともに、人間が成長する環境も、行動に決定的な影響を与える。

脳の基本的な機能はこの一万年間あまり変わっていない。この脳は祖先の環境にはなかったものや状況を理解できず、うまく対処できない。これをサバンナ原則と呼ぶ。たとえば、食べ物がなかなか手に入らず、いつ手に入るか予測できない狩猟採集生活を今も続けているつもりなのが私たちの脳である。

■ポイント

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