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【2018年まとめ記事】アドラー心理学を21世紀にどう位置づけるか

月曜日はアドラー心理学の話題で書いています。

2018年も「ちはるのファーストコンタクト」をご愛読いただき、ありがとうございました。年末年始特集として2018年のまとめ記事を載せていきます。

今回お届けするのは「アドラー心理学入門」として2018年1〜4月に連載したものです。アドラー心理学を21世紀にどう位置づけるかということを書きました。ではどうぞ。

01 100年を経たアドラー心理学を21世紀の私たちがどうとらえるか
02 アドラー心理学への5つのアプローチ
03 アドラー心理学が採用する基本前提の意味
04 逆さメガネをかければ世界の別の見方を体験できる
05 「お天道様は見ている」というキー概念
06 理論の有用性は簡潔性と予測性で評価できる
07 アドラー心理学の3つのキー概念
08 早期回想とエピソード分析という技法
09 エピソード分析では言葉のやりとりと情動が鍵
10 アドラー心理学は普通の人をよりよい人生に導く
11 アドラー心理学のユニークな人間観は多くの心理学領域に影響を与えた
12 アドラー心理学のよさということ(最終回)

01 100年を経たアドラー心理学を21世紀の私たちがどうとらえるか

早稲田大学エクステンションセンター中野校でアドラー心理学の講座を開講します。そこへの助走としてアドラー心理学についての記事を書いていきたいと思います。第1回目の今回は、100年を経たアドラー心理学を21世紀の私たちがどうとらえ、どう使うかということについて書きます。

アドラー心理学は、ベストセラー『嫌われる勇気』によって広く知られ、コミックでも読まれ、テレビドラマにもなり、さまざまなセミナーで「アドラー流」や「アドラーに基づく」とタイトルで使われるに至りました。その背景には、フレーズとして切り出してきただけでも斬新なものとなるアドラー心理学独特の考え方と理論があるからでしょう。

確かに、「あなたの人生はあなた自身が決める」や「過去は変えられない。未来を見よう」や「他者に貢献することが幸せにつながる」と言ったフレーズはインスタントに勇気を与えてくれるものです。とはいえ、そのフレーズの基礎となっている考え方を知らなければ、ただ表面的に「勇気づけ」られているだけなのかもしれません。

まあ、それでもいいのかもしれません。しかし、その基礎となっている理論の全体を知れば、なぜそのようなフレーズが出てきたのかということを理解することができます。そうした深い理解を得て、初めてアドラー心理学が、自分自身とその生き方を考える上で役に立ち、指針になるのではないかと思っています。

アドラーから100年を経て、現代の心理学はさまざまな領域に発展し、私たちの心と生き方を解明する上で進歩しています。しかし、その発端としてアドラーは現代の心理学に直接つながるアイデアを提示していました。それが21世紀の今、私たちがもう一度アドラー心理学を学ぶことの意味です。アドラーのアイデアがわかり、現代の心理学がわかり、それらを自分の人生に役立てることができるのです。

02 アドラー心理学への5つのアプローチ

アドラーから100年を経て、現代の心理学はさまざまな領域に発展し、私たちの心と生き方を解明する上で進歩しています。しかし、その発端としてアドラーは現代の心理学に直接つながるアイデアを提示していました。それが21世紀の今、私たちがもう一度アドラー心理学を学ぶことの意味です。アドラーのアイデアがわかり、現代の心理学がわかり、それらを自分の人生に役立てることができるのです。

さて、一口にアドラー心理学といっても、そこからどのようなイメージを引き出すかは様々です。ある人は「自己啓発の先駆」として人生を生きていくための警句やヒントを見出そうとするかもしれません。また、ある人は心理療法やカウンセリングの流派としてのアドラーを思い浮かべるかもしれません。さらには、人間関係をどのように築いていくかについての実践的なノウハウを導き出そうとする人もいるかもしれません。

私はアドラー心理学にアプローチする道のりとして次の5つの種類を考えています。

(1) 5つの基本前提
(2) 3つのキー概念
(3) 治療技法とケーススタディ
(4) 応用領域
(5) 現代心理学へのつながり

今回から、「(1) 5つの基本前提」について見ていきましょう。

アドラー心理学は全体として5つの理論的な柱から組み立てられています。これらの柱を5つの基本前提と呼びます。基本前提は数学で言うところの公理にあたります。最も基本的な「仮定」です。公理については証明は不要です。「このように考えることにしましょう」という合意された仮定だからです。

たとえばアドラー心理学の基本前提の1つとして「目的論」があります。これは「人間のすべての行動には(意識的にせよ無意識的にせよ)目的がある」という仮定です。仮定ですので、「それは本当に正しいのですか?」という問いは無意味です。もし「人間のすべての行動には目的がある」という仮定を立てたら、人間の心理や行動についてどのような理論が構築できるだろうかという話をスタートさせるために必要だからです。

目的論ではない前提を置くこともできます。「原因論」はそのひとつです。これは「人間のすべての行動には原因がある」という仮定です。このような仮定を置けば、次のことが導けます。つまり、その人におけるすべての原因となる要因を明らかにできれば、その人の行動は予測できるということです。これは近代科学が採用している基本前提なのです。

ポイントは、アドラー心理学は目的論という基本前提を採用することによって、近代科学が採用している原因論(因果律)を保留しているということです。それがアドラー心理学の独特なものの見方につながっているのです。

03 アドラー心理学が採用する基本前提の意味

前回は、アドラー心理学にアプローチする道のりとして次の5つの種類を提示しました。

(1) 5つの基本前提
(2) 3つのキー概念
(3) 治療技法とケーススタディ
(4) 応用領域
(5) 現代心理学へのつながり

最初の5つの基本前提とは、最も基本的な「仮定」です。「このように考えることにしましょう」という合意された仮定ですので、それを証明する必要はありません。

その5つの基本前提は、目的論、全体論、仮想論、社会統合論、個人の主体性(主体論)です。前回は「目的論」を取り上げて、それが近代科学の基本前提である「原因論=因果律」とどのように違っているのかを説明しました。

近代科学の前提である因果律とは、生じた結果には原因があるということです。原因と結果との関係性(因果律)が明らかにできれば、様々なものを作ることができますし、また未来に起こりうる結果を予測することができます。この因果律を明らかにすることで、学問が進展し、それが産業や文明に活かされてきたわけです。

アドラー心理学の目的論はこの因果律を否定するわけではありません。目的論を採っているからといって、「物を手から離すと地面に向かって落ちる」という現象について、「それは物には地球に近づこうという目的があるからだ」という説明をしようとは考えません。

アドラー心理学の目的論は、人間の行動や思考について理解しようとするときに採用しようとするものです。なぜあの人はそのように行動するのか、ということを理解しようとするとき、その人が(意識的であれ、無意識的であれ)そうしたいという目的がわかれば、とても簡単に理解することができます。

もちろんその人の行動は、性格や成育歴や環境や人間関係に影響されるかもしれません。しかし、そこから理解しようとするのはほぼ不可能です。そうではなくて、その人が持っている目的さえわかれば、その行動は容易に理解できるし、その先しようとすることも予測できるという主張なのです。

これがアドラー心理学が基本前提の1つとして採用している目的論ということです。

04 逆さメガネをかければ世界の別の見方を体験できる

前回は「(1) 5つの基本前提」の目的論について説明しました。

アドラー心理学が採用する5つの基本前提とは「目的論、全体論、仮想論、社会統合論、主体論」です。これらの仮定が世界を解釈するための枠組みとなって、その上で理論が構築されていきます。その枠組みを採用するのは、最初は違和感があるかもしれません。

心理学の実験で「逆さメガネ」というものがあります。これはプリズムを組み合わせたメガネで、それをかけると見えるものすべての上下が逆さまになって見えます。つまり、床が上にあり、天井が下にある世界が見えます。

逆さメガネをかけて生活すると、最初は違和感があって、歩くだけでも大変です。しかし、逆さメガネをかけ続けて、2、3日過ごしていると、自分の知覚が見え方に順応してきて、だんだんと普通に暮らせるようになります。そのときもはや逆さまであるという違和感はなくなります。

アドラー心理学の基本前提も逆さメガネと同じです。目的論や全体論を採用して世界を解釈することは、初めは違和感があります。しかし、慣れてくるとまるで最初からそうやって世界を見ていたかのように自然な考え方となって自分自身に定着します。

逆さメガネをかけて見た世界と、メガネをかけないで見た世界では同じ世界です。私たちは同じ世界を見ています。ただそれぞれに違うメガネをかけて世界を見ているのです。しかし、同じメガネをかけ続けていると、自分がメガネをかけていることを忘れてしまいます。そしてその世界の見え方が唯一絶対のものだと信じ込んでしまうのです。

自分の世界の見方が絶対であると信じ込むことは楽な生き方ではありますが、同時に危険でもあります。なぜなら他の人が違う見方で世界を見ていることを受け入れられないからです。そうすると、その相手とは敵対し、協力し合うことができなくなってしまいます。アドラー心理学は相手と協力し合う世界を目指しています。

05 「お天道様は見ている」というキー概念

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