4-お勧めの本19

【本】崎谷実穂『ネットの高校、はじめました』:広域通信制「N高校」の実際

木曜日はお勧めの本を紹介しています。

今回は、崎谷実穂『ネットの高校、はじめました』(角川書店, 2017)を取り上げます。

■要約

通信制高校は日陰の存在だ。全日制に通えないから仕方なく選ぶというイメージが取り付いている。N高校は通わずにネットで学ぶということを最先端の方法として実現させた。それを魅力的なコンテンツ作りとニコニコ動画で培った技術が支えている。通信制の弱点である友達ができないということについては、チャットツールSlackの導入や沖縄・伊計島キャンパスでのスクーリングで解決している。

■感想

私は、2008年から2015年にかけて、関東地区の通信制高校の研究大会の助言者をしていました。そのとき、通信制高校はこれからの教育の中心になっていくだろうということを予想していました。その理由を2010年の時点でこのようにブログで書いています。

去年に引き続き,放送教育の分科会の助言者として.今回の話はちょっとテーマを大きくして,「通信制高校の10年後」というのにした.ポイントは次の通り:

・eラーニング化は不可避である
・iPadのようなデバイスでの学習が日常化する
・対面授業の神話は崩壊する
・教員の仕事は大きく変わる

これを支えるデータとしては:

・クリステンセン「破壊的イノベーション」が学校教育でも起こる
・対面授業は主観的満足度を上げるが,成績は逆にeラーニングの方が良い

通信制高校の方はいつでも走り出せる.ストップをかけているのは,通信制課程をしばっている「高等学校通信教育規定」だ.そこでは,添削指導,面接指導をメインの教育方法と位置づけ,「放送その他の多様なメディアを利用した指導」は,サブの位置づけなのだ.サブであるから,放送教育・eラーニングを含むメディアを利用した教育に制限がかかる.

これは,逆だろう.通信制高校が真に「通信制」になるためには,多様なメディアを利用した教育だけですべてを満たすようにしなければならない.それで足りないときに面接指導をするべきだ.そうでないなら「通信制」とは呼べないのではないか.このことに,教員も含めた人々が気づいたとき,通信制高校の「破壊的イノベーション」が始まるだろう.

……引用終わり……

私がこれを書いた10年後の今、N高校が1万人規模の広域通信制高校として現実化しました。この本の中で、川上量生氏はさらに10万人規模の高校を目指すといっています。そしてそれは可能でしょう。

マガジン「ちはるのファーストコンタクト」をお読みいただきありがとうございます。購読者が増えるたびに感謝を込めて全文公開しています。このマガジンは毎日更新(出張時除く)の月額課金(500円)マガジンです。テーマは曜日により、(月)アドラー心理学(火)教える/学ぶ(水)研究する(木)お勧めの本(金)思うこと/したいこと(土)経験と感じ(日)お題拝借で書いています。ご購読いただければ嬉しいです。

ここから先は

0字
この記事のみ ¥ 100

ご愛読ありがとうございます。もしお気に召しましたらマガジン「ちはるのファーストコンタクト」をご購読ください(月500円)。また、メンバーシップではマガジン購読に加え、掲示板に短い記事を投稿していますのでお得です(月300円)。記事は一週間は全文無料公開しています。