2018まとめ記事

【2018年まとめ記事】おすすめの本

木曜日はおすすめの本を紹介しています。

2018年も「ちはるのファーストコンタクト」をご愛読いただき、ありがとうございました。年末年始特集として2018年のまとめ記事を載せていきます。

今回お届けするのは、2018年の「おすすめの本」から選びました。

01 信原幸弘『情動の哲学入門 価値・道徳・生きる意味』
02 Marie『「箇条書き手帳」でうまくいく はじめてのバレットジャーナル』
03 伊藤公一朗『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』
04 OECD『社会情動的スキル 学びに向かう力』
05 ブライアン・J・ロバートソン『ホラクラシー』
06 スター・サックシュタイン『成績をハックする』
07 K. J. ガーゲン・M. J. ガーゲン『現実はいつも対話から生まれる:社会構成主義入門』
08 依田高典『「ココロ」の経済学』
09 アーヴィン・ヤーロム『ヤーロムの心理療法講義』
10 カシュダン、ビスワス=ディーナー『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』

01 信原幸弘『情動の哲学入門 価値・道徳・生きる意味』:情動を価値の知覚としてみる

■要約

情動は意思決定に必要である。理性だけではいつまでも意思決定できない。しかし、情動能力にも限界があるので、そのときは理性による制御が必要となる。主役は知覚と情動であり、理性は補佐役である。感覚は物事の事実的性質を捉える。そして情動は物事の価値的性質を捉え「感じる」。この見方を情動の身体的感受説と呼ぶ。

■ポイント

世界の事実的なあり方については知覚がそれを感受する。同様に、世界の価値的なあり方については情動がそれを感受する。そのイヌが危険であることは、知識を用いるまでもなく、恐怖によってイヌの危険さを感受し、それに基づいてそのイヌが危険であると判断される。

しかし、情動は物事の一面にのみ注目して形成される安直な価値認識である。迅速だけれども、精度は高くない。それに対して価値判断は他の価値判断と照らし合わされ、チェックされるのでより正確である。したがって価値判断と情動が対立するとき、価値判断に合わせて情動が修正されることがある。たとえば、夫の帰宅が遅いことに妻が腹を立てても、それが重要な仕事のせいであることを知れば怒りが静まる。

私たちはお互いに善意ある振る舞いを求め、期待し合う。善意ある振る舞いを行う人は感謝されたり、賞賛されたりする。逆に悪意ある振る舞いをすれば、怒りを買ったり、非難されたりする。ここでの感謝や怒りを反応的態度と呼ぶ。こうした反応的態度は全て情動である。

情動は単なる「感じ」ではなく、志向性を持ち、状況が情動の志向したとおりになるように求める。つまり「現実に触れながら自分自身を生きる」ことを望んでいる。現実に触れることが充足になり、私たちの情動は充足を求めるからである。

■コメント

情動は世界の価値的なあり方を感受するものであるという仮説は、アドラー心理学の「感情=情動」の捉え方に合致する。感情が非理性的なものとして扱われるのではなく、感情と理性的判断の組み合わせが必要なことや、感情がその人自身の価値観や人生を反映したものになるという視点は、感情に関する心理学を進展させるだろう。

02 Marie『「箇条書き手帳」でうまくいく はじめてのバレットジャーナル』:毎日をきちんと生きていくためのジャーナリング

■要約

箇条書き手帳(バレットジャーナル)の作り方と使い方を実際の紙面画像を見せながら教えてくれる。バレット(Bullet, ビュレット)とは行頭記号のこと。これを使って箇条書きですばやく書いて(ラピッドロギング)いくことで、日々の仕事をこなし、また、記録を読み返すことで計画を立てていく。

■ポイント

市販のスケジュール帳に飽き足らない人、またいろいろなスケジュール帳を試しては変えたりしている人には、自分だけのバレットジャーナルを手作りしてみるのがいいかもしれない。

自分が気に入ったノートを決めたら、その一冊に全てを書いていくことでバレットジャーナルができあがる。ちなみに、私が使っているノートは「ミドリMDノート A5 方眼罫」です。

この本を買わなくても、バレットジャーナルのやり方は次のサイトに詳しく書いてあります。
http://bujo-seikatsu.com/2017/07/28/getting-started/

システムとしてのバレットジャーナルの特徴は次の点にある。

・自分で日付を書いていくので、たくさん書く日も少なく書く日も無理なく続けられる。初めから日付が打ってあるノートは自由度が小さい。

・とりあえずやるべきことを書き出して、できなければ先延ばしして書き写す。書き写すときに、本当にやるべきことなのかということを考えるので、やらなくていいものであれば、そこで消える。

・何かを続けたり、プロジェクトを進めたいときも、ジャーナルの途中のページに書いて良い。それはインデックスで検索できるようにしている。

・とにかく一冊に全ての情報を書くので、探せばそのどこかに書いてあるという安心感がある。

ちなみに私の場合は、マンスリータイプの薄いスケジュール帳と、このバレットジャーナルの2冊づかいです。スケジュール帳を市販のものにしているのは、これがスケジュールのマスターとなっているからです。

03 伊藤公一朗『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』:介入実験と自然実験によるデータで因果を明らかにする。

■要約

因果関係を特定できる研究方法は代表的には以下の4つである。それぞれを理解することにより、データの集め方、分析の仕方、分析からの読み取り方がわかる。

(1) RCT (Randomized Controlled Trial):ランダム化比較試験あるいはA/Bテストとも呼ばれる。実験群と統制群にわけ、それぞれにランダムにケースを割り当てる。

RCTができないとき、以下の方法を自然実験 (Natural Experiment) として利用できるかどうかを検討する。

(2) RD (Regression Discontinuity) デザイン:70歳を境にして医療費自己負担額が1割から3割に増えるというように、条件が不連続に変化する事象を利用して、因果関係を推定しようとする。

(3) 集積分析 (Bunching Analysis) :日本の所得税率のように階段状に条件が変化する事象を利用して、因果関係を推定しようとする。RDと違うのは、主体がある程度横軸(たとえば所得)を操作できること。

(4) パネルデータ分析:複数の観測グループに対して複数期間のデータが手に入る場合に適用できる。政府や企業が何らかの施策を実施したとき、その影響を受けるグループと受けないグループがあれば、両者を比較することで施策の影響を検討することができる。

■ポイント

・RCTの事例
一定の時間帯に電力価格を上げる介入と介入なしにより実験した結果、価格を上げることが電力消費を抑制することがわかった。

オバマの選挙運動のためのWebで、メーリングリストへの加入を進めるページにおいて、「Sign Up」というリンクよりも「Learn More」のリンクの方が登録率が高かった。A/Bテストの事例である。

・RDデザインの事例
日本では70歳を境にして、医療費負担が3割から1割に減る。同時に、70歳を越えると病院の外来人数が約10%ジャンプして増える。もし医療費負担が一定であれば、外来人数は連続的に変化するだろうという仮定を受け入れるとすれば、外来人数がジャンプするのは負担割合の減少が原因だと言える。

・集積分析の例
自動車の重量によって燃費規制値が階段状に変化する場合、規制値が変わる変化点で、自動車の生産量がスパイク的に変動する。これは規制値の変化にメーカーが反応していることを示している。

・パネルデータ分析の例
デンマークでは、優秀な外国人労働者を呼び込むために1991年から年収1200万円以上の外国人労働者をの税率を引き下げた。1991年以降の年収1200万円以上のグループと未満のグループを比較することで、この政策が効果を発揮したことが実証された。

04 OECD『社会情動的スキル 学びに向かう力』:21世紀に鍵となる社会情動的スキルの現状と課題。

■要約

子どもが人生において成果を収め、社会進歩に貢献するためには、認知的スキルと社会情動的スキルの両方が必要である。社会情動的スキルとは、非認知的スキル、ソフトスキル、性格スキルとも呼ばれる。それは、長期的目標の追求、他者との協働、感情のコントロールといったスキルを総称している。

「スキルはスキルを生む」ことがエビデンスで示されている。これは早期の段階で社会情動的スキルの育成に投資することが重要であることを示している。しかし、社会情動的スキルの育成のためのプログラムのレベルは国ごとに異なっている。また、教師や親がスキルを育成するためのプログラムは不足している。

■ポイント

認知的スキルとは、基礎的認知能力(パターン認識、処理速度、記憶)、獲得された知識(呼び出す、抽出する、解釈する)、外挿された知識(考える、推論する、概念化する)の3つからなっている。

対して、社会情動的スキルとは、目標の達成(忍耐力、自己抑制、目標への情熱)、他者との協働(社交性、敬意、思いやり)、感情のコントロール(自尊心、楽観性、自信)の3つからなっている。

社会情動的スキルは、その人の思考、感情、行動に一貫して発現するパターンであり、一生を通じて個人の社会経済的成果に重要な影響を与える。それはフォーマルまたはインフォーマルな学習体験によって発達させることができる。

社会情動的スキルは、ビッグ・ファイブ・パーソナリティ理論とも関係が深い。ビッグファイブの外向性と協調性は他者との協働というときに重要であるし、情緒安定性は感情のコントロールに影響するだろう。また誠実性は目標達成への努力に影響するだろう。

社会情動的スキルは、個人の課題に対するパフォーマンスによって測定することができる。しかしパフォーマンスは同時に、その人の認知的スキルと努力(そして努力は動機づけの影響を受ける)の影響を受けるので、これらを調整して上で測定することが必要である。

社会情動的スキルの向上のためのプログラムの例として、アメリカでの次のものが挙げられる。「心の道具 Tools for Mind」プログラムは、就学前から小学校低学年のもので、子供にロールプレイを促し、他の子供とグループで学ぶカリキュラムである。「マインドセット」プログラムは、成績は生まれつきの知性ではなく、勤勉さの結果であるという考え方を身につけさせるものである。「ひとつの目標 One Goal」プログラムは、高校教師の訓練として、生徒の大学への志願、成績の改善、大学課程の修了を援助するものである。

日本においては、学習指導要領の「学びに向かう力」(本の副題にもなっている)が社会情動的スキルに対応している。そして、それを実施するための時間が「総合的な学習」の時間であるとされているわけだが。

05 ブライアン・J・ロバートソン『ホラクラシー』:組織に関する「目的論」を立論している。

フレデリック・ラルーの『ティール組織』を読んでいる途中で、「これは先にホラクラシーの本を読んだ方がいいな」と思って、この本を読みました。

この本の最初の方でGTD(Getting Things Done=仕事をなしとげる)の話が出てきます。GTDとは仕事についての考え方です。GTDは仕事についての考え方を変えることで、仕事のやり方が根底から変わるということを示しました。

GTDと同じように、ホラクラシーは「組織についての考え方」です。組織についての考え方を変えることで、組織を作り、活動するという方法が根底から変わるということを示しています。

■要約

・都市、あるいは人体のような組織を考える。それはリーダーがいないと動けなくなるようなものではなく、全体として目的を持ち、その中で各領域が自律的に役割を果たし、相互に連絡し合いつつ活動するものである。

・組織とは人の集合体ではなく、役割が構造化されたものである。人はその中でいくつかの役割と機能を果たす。権限と責任は人にではなく、役割とそのプロセスに与えられる。このようにすることですばやく意思決定し、自律的に働くことができる。

・組織は目的を持つ。それは個人の夢や理想や自己実現とは別の話である。その目的を果たすために、サブの目的を決め、それを実現するためのいくつかの役割を決める。役割のグループをサークルと呼ぶ。

・役割を果たすことで仕事をする。そのプロセスでさまざまな「ひずみ」(現実とよりよい状態のギャップ)が感知される。これをストラテジー・ミーティングとガバナンス・ミーティングで解決していく。

・ストラテジー・ミーティングでは、オペレーションと情報を共有することで、チームをシンクロし、次のアクションを決めていく。ガバナンス・ミーティングでは、役割を明確にし、改善していく。そしてサークルの構造を向上させる。

■感想

この立論は、組織に関する「目的論」と呼べるかもしれない。「人をどう組織したら機能する組織ができるか」という問題提起ではなく、「目的をはたそうとするときに組織はどうなるか」という問題提起だからだ。ストラテジー・ミーティングとガバナンス・ミーティングは「アドラー・ミーティング」に対応するかもしれない。

06 スター・サックシュタイン『成績をハックする』:授業の成績をつけないことで何が起こるか。

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