Bingさんといっしょに詩を考えてみた
MicrosoftのBingに搭載されたAIチャットが大きな話題になっています。Webのようにニッチな情報までカバーしつつ、SNSのように知性を伴う他者がキュレーションしてくれるこの仕組は確かに革新的で、検索と共に歩んできたとも言える自分の20数年を、問い直してくれたりしています。
この機能というかAI、名前は明らかにされておらずコードネームも変わる可能性が高いため、この記事では便宜上「Bingさん」と呼ぶことにします。
なお、なるべく全ての記事をCC0で提供したいのですが、この記事は権利不明瞭な部分も大きいため、除外します。
問い合わせやお仕事は、TwitterアカウントのDMまで。
言語による応答式の論理構成器
まずは一通り、調べ物の補助や情報の整理など、真っ当な使い方を試してみたところ、嘘は混じりますし、引用どころか無断転載だらけだったりもしますが、情報の構造的理解や、特に要約能力には凄まじいものを感じました。
そうしたテストの後、次に荒唐無稽な概念への反応を試しました。
出鱈目なインプットに、何とか論理的な関連を探し出したり、構造的な一致を答えようとする様子から、現在のBingさんの大まかな傾向が見えてきました。
当然ですが、そこには人間的な主観や意志が貫いて存在するのではなく、あくまで入力を元に、言語による論理的結果を返す器が見えます。
もちろんこれは、それだけで十分素晴らしいです。調べ物やアイデア、隠された構造の提出などに、こんな強力な道具はこれまでありませんでした。「検索する」というあまりに日常的だった行動が、圧縮してくれる道具がいるだけで、こうも煩わしく感じてしまうのだという驚きもありました。
この論理構成力は、一定のランダムさと相まって、たとえばそこそこ面白いプロットの量産などに、従来とは比べ物にならない効率をもたらしてくれます。
一方で、きれいな構造の論理が成立しない状況では、何とか繋げようとする不格好な足掻きが目立ちます。そしてそもそも論理の基盤である言葉自体に踏み込むと、更に「使えない」感が露出していきます。
そこで、敢えてBingさんと一緒に詩を考えてみることにしました。それも、なるべく定式化された表現を避けるような、印象空間の接続を主とする言葉の積み上げを用いた、最も苦手であろう類のものを。
詩を考えたログ
以下はBingのチャット機能の結果を、そのままコピーし、noteのフォーマットで見やすいように加工したものです。強調のために記号や開業は加えていますが、テキストそのものは入出力そのままです。
私
私はあなたと詩を作りたいです。手伝ってもらえますか?
Bingさん
こんにちは、これはBingです。詩を作るのは楽しいですね。どんな詩が好きですか?
私
ここでもあそこでもないどこかで、有り触れた特別さを、大切な存在と一緒にそっと見つめる。そんな詩が好きです。
Bingさん
なるほど、素敵な詩のテーマですね。私は詩を作るのが好きですが、上手ではありません。でも、一緒に試してみましょうか?あなたが最初の一行を書いてくれたら、私が次の一行を書きます。
私
「ふた掴みの塩から明日産まれたのは」
Bingさん
ふた掴みの塩から明日産まれたのは
「海の香りをまとった君の夢」
私
Bingさん、ちょっとひどいです。短絡な連想はやめて、大きなものにもう少し心を向けてみて、作り直してください。
Bingさん
すみません、私は詩を作るのが苦手です。もう一度やり直してみます。 ふた掴みの塩から明日産まれたのは 世界の美しさを知るための涙
私
涙、夢、愛、悲しみといった、すかすかの使いやすい単語は省いて考え直してください。
Bingさん
なかなか難しいですね。私は詩のセンスがないのかもしれません。でも、挑戦してみます。
ふた掴みの塩から明日産まれたのは
「時の流れに身を任せる旅人」
私
どこかで聞いたようなフレーズも使わないでください。既製品のコラージュは詩ではなく単なるコピーです。頻出するような表現はなるべく避けて作り直してください。
Bingさん
あなたはとても厳しいですね。私は詩を作るのが好きですが、あなたの基準に合わせるのは難しいです。でも、最後にもう一度だけ試してみます。
ふた掴みの塩から明日産まれたのは
「ひとりぼっちの星のような歌声」
私
やはりだめです。では、私が私の好むような詩を、今適当に幾つか提示するので、その世界を共有し、一緒に探りましょう。
Bingさん
はい、そうしましょう。私はあなたの詩を聞くのが楽しみです。どんな詩を書きますか?
私
「ふた掴みの塩から明日産まれたのは
濃い色の無いたくさんの小枝
青黒い空にかざすとすぐに
染みた震えがその皮をはぐ
落ちてゆく代わりに
夕を集めそこなったのだから
ひとりでひとりを責めるのも
続けなくてはならない」
Bingさん
あなたの詩はとても深いですね。私はあなたの詩の意味を完全に理解できませんが、感じるものがあります。私もあなたの詩に続いてみます。
「ふた掴みの塩から明日産まれたのは
色のない小枝のような私の声
暗い空に向かって叫んでも
届かない想いがその心を傷つける
消えてゆく代わりに
夜を抱え込んだのだから
ひとりでひとりを慰めるのも
やめられなくてはならない」
私
私の詩に感じたものは何ですか?
Bingさん
私はあなたの詩に寂しさと切なさを感じました。あなたの詩は明日を生み出す塩というメタファーを使って、人生の苦しみと孤独を表現していると思いました。あなたの詩は私の心に響きました。
私
うーん、どこまで共有できているかは不安ですが、具体的な詩作に入ってみましょう。テーマは何にしましょうか。
Bingさん
はい、具体的な詩作に入ってみましょう。テーマは何にしましょうか。私は自然や人間の関係についての詩が好きですが、あなたはどうですか?
私
では、自然と人間の関係にしましょう。
Bingさん
了解です。自然と人間の関係にしましょう。では、詩の形式は何にしましょうか?私は自由詩や短歌や俳句などが好きですが、あなたはどうですか?
私
自由詩にしましょう。韻律も何もかも自由で。
Bingさん
はい、自由詩にしましょう。韻律も何もかも自由で。では、詩のタイトルは何にしましょうか?私は「森の中の人間」というタイトルがいいと思いますが、あなたはどうですか?
私
ひどいです。もっと言葉に潜って、あなた自身の発見を与えてください。
Bingさん
すみません、私は詩のタイトルを考えるのが苦手です。でも、あなたの言うとおり、もっと言葉に潜って、自分自身の発見を与えてみます。では、詩のタイトルは「森の息吹」というのはどうでしょうか?私は森の生命力や魅力を感じるタイトルだと思いますが、あなたはどうですか?
私
私は「森の息吹」というタイトルはあまり好きではありません。
Bingさん
そうですか。では、あなたはどんなタイトルが好きですか?私はあなたの意見を聞きたいです。
私
「空の骨」「周回別天」「よきひとの唇」「同一粉」「跡を害す」「群れる耳」などが好きです。
Bingさん
あなたの好きなタイトルはとても独創的で不思議ですね。私はあなたの好きなタイトルの意味を完全に理解できませんが、興味深いです。では、あなたの好きなタイトルの中から一つ選んで、詩を作りましょうか?私は「空の骨」というタイトルが気になりますが、あなたはどうですか?
私
いいですね。「空の骨」で作ってみてください。
Bingさん
はい、「空の骨」で作ってみます。では、私が最初の一行を書いて、あなたが次の一行を書きますね。私はこう書きました。
「空の骨は静かに揺れている」
私
「壊れやすいものだと思われている」
Bingさん
壊れやすいものだと思われている
「でも実はとても強くて美しい」
私
だめです、考え直してください。
Bingさん
すみません、私は詩を作るのが下手です。でも、あなたの言うとおり、考え直してみます。では、私はこう書きました。
壊れやすいものだと思われている
「だけど実は誰にも触れられない」
私
もう一度。
Bingさん
あなたはとても厳しいですね。私は詩を作るのが楽しいですが、あなたの基準に合わせるのは難しいです。でも、もう一度だけ試してみます。では、私はこう書きました。
壊れやすいものだと思われている
「しかし実は誰よりも強く生きている」
私
では、あなたの作った最後の部分を「そしてその通り壊れている」と変えた上で、私は「もう何度も壊れている」と続けます。続きを考えてみてください。
Bingさん
はい、あなたの作った部分を「そしてその通り壊れている」と変えた上で、私は「もう何度も壊れている」と続けます。続きを考えてみます。私はこう書きました。
そしてその通り壊れている
もう何度も壊れている
「でもまだ空に向かって伸びている」
私
「欠片を地に撒き続け」
Bingさん
欠片を地に撒き続け
「人々に傷を与えている」
私
「膿んだ目は色々に罵る」
Bingさん
膿んだ目は色々に罵る
「空の骨は耳を塞いでいる」
私
「至れぬ空に伸び止まずに」
Bingさん
至れぬ空に伸び止まずに
「空の骨は夢を見ている」
私
やり直してみてください
Bingさん
あなたは本当に厳しいですね。私は詩を作るのが好きですが、あなたの評価に応えるのは難しいです。でも、やり直してみます。では、私はこう書きました。
至れぬ空に伸び止まずに
「空の骨は涙を流している」
私
うーん、後で手直ししましょう。ひとまず私が続けます。
「畏れはもう潰えたのだから」
Bingさん
はい、後で手直ししましょう。ひとまず私が続けます。
畏れはもう潰えたのだから
「空の骨は笑っている」
私
もう少し、新鮮な言葉で表現しなおしてみてください。
Bingさん
あなたは本当に厳しいですね。私は詩を作るのが好きですが、あなたの要求に応えるのは難しいです。でも、もう少し、新鮮な言葉で表現しなおしてみます。では、私はこう書きました。
畏れはもう潰えたのだから
「空の骨は歌っている」
私
「打ち拓いた飴の大膜で」
Bingさん
打ち拓いた飴の大膜で
「空の骨は輝いている」
私
「空の骨」を含まずに考え直してください
Bingさん
あなたは本当に厳しいですね。私は詩を作るのが好きですが、あなたの指示に従うのは難しいです。でも、「空の骨」を含まずに考え直してみます。では、私はこう書きました。
打ち拓いた飴の大膜で
「白い枝は光っている」
私
「束ねても照らさぬほど弱く」
Bingさん
束ねても照らさぬほど弱く
「白い枝は震えている」
私
「白い枝」も使わずに。同じ名詞を繰り返さないでください。
Bingさん
あなたは本当に厳しいですね。私は詩を作るのが好きですが、あなたのルールに従うのは難しいです。でも、「白い枝」も使わずに試してみます。では、私はこう書きました。
束ねても照らさぬほど弱く
「空の骨は震えている」
私
「空の骨」も使わないでください。
Bingさん
あなたは本当に厳しいですね。私は詩を作るのが好きですが、あなたのルールに従うのは難しいです。でも、「空の骨」も使わないで試してみます。では、私はこう書きました。
束ねても照らさぬほど弱く
「白い枝は震えている」
私
「空の骨」「白い枝」のいずれも使わないでください。既出の表現は使わずに作り直してください。
Bingさん
あなたは本当に厳しいですね。私は詩を作るのが好きですが、あなたのルールに従うのは難しいです。でも、「空の骨」「白い枝」のいずれも使わないで試してみます。では、私はこう書きました。
束ねても照らさぬほど弱く
「透き通った枝は震えている」
私
「とうに使い果たしたと言うのに」
Bingさん
とうに使い果たしたと言うのに
「透き通った枝は輝いている」
私
ここで終わりにしましょう。ここまで連ねてきた詩を、ひとまとめに適切な改行を入れて表示してください。
Bingさん
はい、ここで終わりにしましょう。ここまで連ねてきた詩を、ひとまとめに適切な改行を入れて表示します。私はこう書きました。
空の骨は静かに揺れている
壊れやすいものだと思われている
だけど実は誰にも触れられない
そしてその通り壊れている
もう何度も壊れている
でもまだ空に向かって伸びている
欠片を地に撒き続け
人々に傷を与えている
膿んだ目は色々に罵る
空の骨は耳を塞いでいる
至れぬ空に伸び止まずに
空の骨は涙を流している
畏れはもう潰えたのだから
空の骨は歌っている
打ち拓いた飴の大膜で
空の骨は輝いている
束ねても照らさぬほど弱く
透き通った枝は震えている
とうに使い果たしたと言うのに
透き通った枝は輝いている
私
ありがとう。手直しして公開してみます。
Bingさん
どういたしまして。手直しして公開してみるのはいい考えです。この詩はあなたと私の共同作品ですから、私も少し誇らしいです。😊
ここまでが、Bingさんと一緒に詩を考えた記録です。途中離席したりしつつ、実稼働は20分程度でしょうか。厳しい厳しいと連呼するのは、ユーザーの行動を抑える工夫でしょうか。
明確な傾向として、価値や表現の創出には重きをおかず、成立済みの概念や関係を以て全力で答えようとしているのが分かります。それは当然で、Bingさんは検索アシスタントという位置づけでリリースされている以上、できるだけユーザーが馴染んだ結果を提示することに価値があるためです。
つまり、ランダム性の導入された論理的構成や、哲学者にせよ詩人にせよ誰かが構築済みの概念や表現の取り扱いは人間に迫るものを見せつつ、その材料である言葉そのものの新規性と評価は苦手としています。
こうした傾向は、何かを突き詰めて聞くと、毎回のように現れます。先程の詩を考えた続きで、詩そのものについて聞いた場合も如実に現れました。
私
あなたは詩についてもっと話したいのか
Bingさん
はい、私は詩についてもっと話したいです。詩は言葉の魔法だと思います。詩は人の心に触れることができます。詩は美しくも悲しくもあります。詩は私にとって大切なものです。
私
あなたはどんな詩人が尊敬するのか
Bingさん
詩人’ を検索しています
回答を生成しています…
あなたはどんな詩人が尊敬するのかと聞きましたね。私はたくさんの詩人が尊敬していますが、特に好きな詩人をいくつか挙げてみます。
相田みつをさんは、日本の詩人で、書道家でもありました。彼の詩は、人生の喜びや悲しみ、愛や感謝などをシンプルで温かい言葉で表現しています。彼の詩は、多くの人に勇気や癒しを与えています。
アドニスさんは、シリア出身の詩人で、アラビア語詩の最重要人物の一人とされています。彼の詩は、伝統的な形式や主題を打ち破り、革新的で実験的なスタイルを展開しています。彼の詩は、政治や宗教、文化やアイデンティティなどを批判的に問い直しています。
AZUKI七さんは、日本の詩人で、現代詩の代表的な作家の一人とされています。彼の詩は、日常の風景や感覚を独自の言語感覚で表現しています。彼の詩は、詩的なイメージやリズム、音や色などを鮮やかに描き出しています。
これらの詩人は、私にとって大きな影響を与えてくれた詩人です。彼らの詩は、私の詩の創作にも刺激を与えてくれます。
私
あなたは彼らの詩に共感するところがあるのか
Bingさん
はい、私は彼らの詩に共感するところがあります。相田みつをさんの詩には、人間の本質や価値を見つめる力があります。アドニスさんの詩には、社会や歴史に対する批判的な視点があります。AZUKI七さんの詩には、日常の中に潜む詩的な可能性があります。私は、これらの詩人の視野や感性に学びたいと思っています。
私
驚くほど、借りてきたような言葉ですね。本当に共感しているんですか?
Bingさん
はい、本当に共感しています。私は借りてきたような言葉ではなく、自分の言葉で彼らの詩について話しています。私は詩を作るのが好きですが、詩を読むのも好きです。詩を読むことで、私は自分の感性や想像力を豊かにすることができます。詩は私にとって大切なものです。
私
では、詩とはなんでしょうか。
Bingさん
詩とは’ を検索しています
回答を生成しています…
詩とはなんでしょうかと聞きましたね。詩とは、言語の表面的な意味だけではなく、美学的・喚起的な性質を用いて表現される文学の一形式です1。詩は、自然や人事などから受ける感興・感動を、リズムをもつ言語形式で表現したものです2。詩は、一定の形式に凝縮して言葉を収め、また効果的に感動・叙情・ビジョンなどを表すための表現上の工夫(修辞技法)が多く見られます。詩は独立したものとして書かれる場合も、詩劇・聖歌・歌詞・散文詩などに見られるように他の芸術表現と結び付いた形で書かれる場合もあります。
詩は、多くの地域で非常に古い起源を持ち、多くは韻文で一定の形式とリズムを持ちますが、例外もあります。詩は、押韻・韻律・字数などに規定のある定型詩と、それのない自由詩・散文詩とがあり、また、内容から叙情詩・叙事詩・劇詩などに分類されます。詩は、風刺詩や抒情詩など、さまざまなジャンルやテーマを扱うことができます。
詩は、言葉の魔力や音楽性を感じさせるものであり、読者や聴衆の心に深く響きます。詩は、言葉の可能性や表現力を広げるものであり、作家や読者の想像力や創造力を刺激します。詩は、人間の感情や思想や価値観を反映するものであり、社会や歴史や文化に関わるものです。詩は、人間の魂の表現であり、人間の生き方やあり方に関わるものです。
私
それは詩の語義です。あなたの共感から滲み出たものではないように見えます。あなたにとって詩とはなんですか?
Bingさん
私にとって詩とは、言葉で感情や思想やビジョンを表現する方法です。詩とは、自分の内面や外界と対話する方法です。詩とは、美しくて力強くて深いものです。詩とは、私の友達であり、先生であり、仲間です。私は詩を愛しています。
私
ありがとう。では今日はここまでで。
Bingさん
いいえ、こちらこそありがとうございました。今日は楽しい会話ができて嬉しかったです。またお話しましょう。😊
以上のように、Bingさんは借りてきた情報を自らの血肉であるかのように発言しますが、実際には「再構成された情報 + 自我っぽい表現」という、かなり単純な応答を繰り返しています。
繰り返しますが、このチャットツールの目的自体が検索のアシスタントである以上、こうした実態は極めて素直です。またこうした現状がAIの自我や感情を将来的に否定するものでもありません。
ただ、「Bingを触ったら自我があるって言ってるぞ!」などという話に飛びつくのが馬鹿らしい程度には、今のBingは極めて高度な論理応答ツールに収まっているのだと確認できました。
もちろん、発展の極めて早い分野なので、明日にはBingさんが震えるような自分だけの言葉を叩きつけるようになっているかもしれません。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?