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10年以上前、携帯小説サイトでハマっていた小説の話

以前、記憶の整理兼日記としてnoteに公開していた内容です。
読みやすいようにする為に、多少当時の状況を省略して書いている部分があります。
当時サイトを利用していた方ならお気付きになると思いますし、ご指摘を頂くかもしれません。
円滑な筋運びの為の必要な省略、かつ、大筋にはあまり関係の無い事実である、という判断の上の省略ですので、目を瞑って頂けると有難く存じます。


2000年代初頭。携帯小説文化が第二次ブームを迎え、数年経った頃。
ガラケーヘビーユーザーだった私は、言わずもがな携帯小説サイトのいち読者だった。
私が利用していた携帯小説サイトは当時その名前を知らないものは居ないほど規模が大きく、毎日のように新しい小説が生み出されていた。

とはいえサイトで作品として成り立っている携帯小説なんてものは少数。閲覧数とブックマーク数で決まる、ランキングの上位の小説達だ。
ランキング外の大多数─さほど読んだわけでもなく、一概には言えないが─その中の殆どは小説と呼ぶには稚拙なものばかりだったように思う。
どこぞの高校生のエッセイからどこかで見たことがあるような展開の恋愛小説、2chコピペorSSまとめ小説やブーン系小説まで存在していた。
本文に画像を挿入出来る機能もついており、ネットで有名な面白い画像だけを貼り付けたおもしろ画像集なんて題の小説も沢山あった。
または女作者の自慰行為を文字や画像で記したいかがわしい小説と題して、実際の本文は読み手を嘲笑うなど、いわゆる「釣り」スタイルの小説なども散見された。
古き良きインターネット、無法地帯だった。



とにかくその頃の私は2chの文化が好きだった(最悪)ため、読んでいた小説の8割が2chのコピペまとめだった。

だが携帯小説サイトに蔓延るコピペまとめなんて大体が似たり寄ったりな内容で、300P近いコピペまとめを数十冊徘徊しても新規ネタに巡り会えるのはごく僅かに近い。
同じ小説サイトにもなるとコピペまとめをコピペしたコピペコピペが大量発生する為、そうなるのも仕方が無かった。定番のコピペは何回読んでも面白いが、それでも飽きる時はある。


そういう時は違うジャンルの本を読んだ。
私は昔から怖いものが好きで、ホラージャンルの小説なんてものはとにかく大好物だった。

ホラージャンルと言えど区分は様々。
都市伝説検証系の小説は特にホラージャンルにおいてランキング上位だったように思う。
今でこそYouTuberのネタにされそうな都市伝説検証ネタだが、結局文字から動画へと形を変えただけで、既に十数年前からそういう馬鹿みたいなことをする人間は沢山いたのだ。
特にひとりかくれんぼの検証なんてのは定番中の定番で皆がやっていた。飽和状態だった。
都市伝説検証系のネタはとにかく話題性があるから皆がやる。そしてどうせ何も起こらないだろうと思いつつも「もしかしたら…」を期待して皆が読む。
かくいう私も皆の中の一人だった。

結局何も起きなくて検証終了なんてのはザラで、なんなら検証途中に更新が止まることも多々あった。

携帯小説は市場で出回る小説のように、話が完結した状態では公開されない。

基本的に連載形式である。
各々が各々のタイミングで文章を書き、公開する。それを更新と呼ぶ。
素人が趣味で行っているものが殆どが故に、ある日急にパタリと更新が途絶える。これは検証系小説問わず携帯小説あるあるだった。

よくある最後だ。
結末を迎えられなかった小説をいくつも読んできた。これも携帯小説ならではと言えるだろう。
そんな曖昧さもまた、携帯小説という文化を輝かせていたのかもしれない。



さて、当時の私にはホラージャンル小説の中でも群を抜いて好きだった作品がある。

その小説は、携帯小説というものを逆手にとったなかなか面白い設定だった。

まず主人公が書き手本人であるということ。
この小説は日記であり、今これを書いている自分は、謎の館に閉じ込められている。
これを読んでいる誰かに助けて欲しい。
そう、読者に呼びかける形で物語は始まる。

その謎の館には、怪人・幽霊・獣人・怪異・悪魔等 伝説上の化け物から果ては神まで、大小様々な化け物がひしめき合っていて、自力では脱出出来そうにない、と文章は続く。

閉じ込められたのは主人公だけではない。
様々な年齢の男女、計数十人が一室に身を潜めているというのだ。
彼らは口を揃えて、「とある場所を通過して気を失い、気づいたらここにいた」と言う。
それは主人公も同様。

「助けて欲しいが、助けを求めようにもこの館が日本のどこにあるのか分からない」
「毎日色々な化け物に誰かが殺されている」
「何人か死んだ後、またしばらくすると数十人が館に飛ばされてくる」
「今これを読んでいるアナタもいつかこの館に来るかもしれない」
「だから、私たちが隠れているこの部屋があることを分かっておいてもらう為に。そして、どんな化け物がいるかを知っておいてもらう為に、この日記を書いていきたいと思います」と言って小説は進んでいく。
勿論うろ覚えなので原文ママではない。
だがおおよそこうだった。

よくある形式の書き方だ、と言われればそうかもしれないが、厨二病をこじらせていた当時の私には、この小説の設定は衝撃的だった。
「劇中の世界がどこかにあって、書き手は異世界からこの内容を発信してるのかもしれない」という、空想であるはずなのに空想ではないかもしれないという可能性が私の厨二心を多いにくすぐった。

舞台は化け物だらけの館。その為、内容のほとんどは人が死にまくるスプラッタホラー。
先程書いたように、出てくる化け物もなんでもありだった。ハエ男、死神、喋る人面瘡、白蛇神、悪魔メフィストフェレス、妖刀、致死率99%の病、意志を持った植物、吸血鬼の始祖カーミラ……ティラノサウルスまで出てきた時なんかは流石に笑っちゃったね。

1本の繋がった長編というよりは、1匹の化け物に対して1話という風に話が進む。連作短編小説みたいな感じだといえば良いだろうか。

基本的には主人公が身を潜めるベースルームと呼ばれる部屋に化け物が襲撃→人が死ぬ→退治、の流れである。しかしそれも様々な怪物が出てくるので全く単調にならず面白い。
(食料庫に行ったり館を散策したりする場面もあるのだが、基本人間側には武器が無いので、大体逃げるか死ぬかになる。)

総ページ数2300P以上と、1P500文字程度の短文だったとしても中々の密度と長編具合なのだが、面白さ故にページ数など全く気にならなかった。
次ページへのボタンを押すのが真夜中になっても止まらなかったのは良い思い出である。
むしろページ数が残り少なくなっていくことにどれだけ絶望したか。更新が待ち遠しくてたまらなかった。

物語が進むにつれ、主人公の隠されていた能力が徐々に開花していったり、人外異種間の争いに巻き込まれたり、銀河鉄道で旅をしたり、館に突如銃を持ったFBI的な特殊部隊が現れたりなど…
スプラッターホラーというジャンルで一括りにするには勿体ないほど、考えさせられたり感動させられたりもして、とにかく面白いのだ。


化け物だらけの館では毎日誰かが死ぬかもしれない危険に晒されている。
それは主人公も同様で、話の終わりには大体決まってこう書かれていた。

「また明日、生きてたら続きを書こうと思います」

物語に収拾が付かなくなったり、書くことに飽きたりして、急に更新を止めたとしても物語としておかしくない形を取る作者は設定が上手いな〜と幼稚な頭ながらに感心したものである。
(勿論信じてはいたが。)

設定もさることながら話の展開の仕方やキャラクターの豊かさも魅力的で、この作品は他の都市伝説検証系小説と並ぶホラージャンルランキング上位作品だった。


しかし沢山の人々の心を惹き付けたこの小説は、残念なことに、携帯小説ならではの最後を辿った作品でもあった。




2011年3月。東日本大震災1週間前の更新を最後に小説は二度と更新されなくなった。
作者のプロフィールに書かれていた唯一の個人情報である居住地が東北の海沿いであったことから、「もしかしたら震災の被害にあったのでは」と、そんな噂が読者の間でまことしやかに囁かれた。

更新が途絶えたあと、ひと月、ふた月、半年、と日が経つに連れ、噂は現実味を帯び、やがてほとんどの読者がそれを真実だと思い始めた。
作者の掲示板や作品のレビューは作者を慈しむ声で溢れたが、一方、不確かな情報で生死を決めるのは些か不謹慎では無いかと憤る者も多数いた。
そう記憶している。


主人公…いや、書き手は、化け物の館で立派に戦い抜いて、そして命を落としたのかもしれない。
それが空想めいた事実なのかもしれない。

それとも本当は館なんて存在していなくて、実は作者は自分と同じ日常の中にいて。
そして、ほんの少し、執筆が嫌になってしまっただけで。
分身である作者は本当は今も生きていて、またどこかのサイトで携帯小説を書いているのかもしれない。


真実は誰にも分からない。


数年後、その携帯小説閲覧サイトはスマートフォン普及の波に押しやられてか、他社の閲覧サイトに移行するという形で閉鎖された。
移行手続きをした小説達は移行先のサイトでも読めるようになったが、手続きをしていない大多数の小説は消えてしまった。
無論、そのホラー小説も。

どこに行ってももう読めなくなってしまった小説のことを、この時期になるといつも思い出す。

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