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1-3 薬の投与経路と特徴(経口)

ADME(アドメ)

薬物動態学とは、生体に投与した薬物の体内動態とその解析方法について研究する学問を言います。
つまり、投与した薬物が体内に入ってから、出るまでの過程のことを体内動態といいます。

体内動態は、過程の頭文字をとって、ADME(アドメ)と称します。

A:吸収
投与された薬物が、全身循環血液中に移行する過程のこと

D:分布
薬物が、全身循環血液中をめぐる中で、組織に移行する現象のこと

M:代謝
薬物・毒物などの生体内物質を、分解・排泄するための反応
※幾つかの反応があるが、全体的に、脂溶性が高いものは体内に蓄積されるため、水溶性を高く変換して、排泄しやすくする反応と言える

E:排泄
薬物又は代謝物が体内から除去される反応

(詳細は、次回に)

経口投与の体内動態

投与から全身循環血液中へ移行するまで

薬物の投与経路として、最もよく用いられるのが、経口投与(内服薬)であるため、経口投与した薬の体内動態について、説明します。

経口投与した薬が体内で、どのような道筋を辿るのでしょうか。

①内服した後、消化管内を移動します

その過程で、蠕動運動によって、錠剤は小さく砕かれ、溶解・懸濁状態になった後、粘膜から吸収されます。

また、酸に不安定な薬など、一部の薬は胃酸で分解されることもあります。【内服薬の薬効を左右する重要な過程の一つ】

②ほとんどの薬は、小腸粘膜で吸収され、血管内に移行します。

※吸収部位として、重要な部位。薬は小腸、水分は大腸と覚えておきましょう。(もちろん、例外の薬もあります)

③門脈から肝臓を経由し、肝臓代謝を受けます。【内服薬の薬効を左右する最も重要な過程】

④肝臓を経由した後、全身循環血液中に入り、全身を巡ります。

その中で、目的の標的臓器や部位に到達した薬が薬効を発揮します。

目的以外の部位で効果を示すと、副作用の原因にもなります。

目的部位で効きすぎるのが、副作用の原因になることもあります。


※経口投与の重要な特徴

薬物が吸収された後、全身循環血液中に入るまでの間で、分解や代謝などの影響を受けて、薬物の移行量が減少します。これを、「初回通過効果」と言います。

特に、肝臓での代謝が大きく影響します。肝臓で受ける初回通過効果を指して、「肝初回通過効果」と言います。

全身循環血液中移行した後

④薬物が全身循環血液中をめぐる中で、「分布」「代謝」「排泄」の影響を受けます。

※これは、ADME の順番に、一つづ順番に影響を受ける、というイメージでは訳ではなく、全身循環をめぐる中で、同時に影響を受けていると理解してください。

分布

血液中から組織への移行しやすさを表す過程のこと

具体的にイメージするのが難しいかもしれませんが、
“組織への移行しやすさ”や“残りやすさ(蓄積性)”を表す過程です。

代謝

全身循環血液中をめぐる中で、肝臓に運ばれた薬物が化学反応を受けること

前述のように、全体的に、化合物の水溶性を高めるように変換されます。
その結果、
・水溶性が高められた薬物は、腎臓から排泄されます
・一部、胆汁中に排出される薬物もあります
→胆汁中に排出された薬物は、腸内細菌によって胆汁と引き剥がされ、再度、吸収される場合もあります(これを、「腸肝循環」といいます)
→この場合、腸肝循環があると薬効が長く続きます。
腸肝循環する薬は、抗菌薬投与によって腸内細菌の数が変わった時や胆管結紮などによって、薬効が変わる可能性があります。

排泄

薬物またはその代謝物が、体外へと除去される過程のこと

主な排出過程としては、腎臓からの排泄、つまり、尿中に薬物が排泄されるものです。

他にも、糞便中や呼気・汗・唾液・爪など、さまざまなところに排出されます。
例えば、違法薬物の使用歴を調べるために、毛髪鑑定が行われるように、毛髪などにも薬物は排出されます。乳汁中にも移行するため、授乳婦への薬物治療には注意が必要です。

※厳密には、尿中に排出されたものを、薬物が「排泄」された、と言い、他の経路には、薬物が「排出」された、と言います。

経口投与する医薬品の特徴

経口投与する剤型として、錠剤やカプセル剤があります。
錠剤は、次の二つに大別できます。
・素錠(裸錠):粉を圧縮して固めたもの ・・・いわゆる“ラムネ”型
・さらに周囲をコーティングしたフィルムコーティング錠・・・“マーブルチョコ”型

フィルムコーティング錠には、以下のような目的があります。
・服用しやすくするため:「糖衣錠」のような味をつけるものや薬剤の匂いをマスクする
・薬剤の安定性を向上させる:光や湿度に弱い薬を守る
→つまり、錠剤を割錠・粉砕すると、その目的が失われることを理解しておかねばなりません。(それでも、メリットの方が上回るのか)

カプセルは、次の二つに大別できます。この二つは、内容物の形状が異なります。
・軟カプセル剤・・・内容物が液状・ペースト状
・硬カプセル剤・・・内容物が粉状・顆粒状
軟カプセルは通常脱カプセルすることはありません(特別な目的以外では)。
硬カプセル剤は、容易に脱カプセルすることが可能ですが、中には、徐放など特殊な目的があるカプセルは、脱カプセルの可否を確認する必要があります。

また、特殊な製剤上の工夫が施された製剤として、放出制御型製剤があります。
特殊な工夫が施された製剤は、原則として、錠剤を割ったり、粉砕したり、脱カプセルしたりは、してはいけません。

腸溶性製剤

腸溶性製剤とは、その名前の通り、“腸”で“溶”ける製剤のことです。表面に、胃で溶けずに、腸で溶けるコーティングが施されています。

(蛇足ですが…なぜ、可能かというと、胃の環境は、胃酸の影響で酸性ですが、腸内はそれよりもアルカリ性の環境です。化合物が pH によって溶解度が違う性質を利用しています)

目的としては、主に以下の二つがあります。

・副作用を軽減するため

・薬効を得るため

①副作用を軽減するため

胃腸障害が問題となる可能性がある薬の場合、胃で溶解するのを防ぐことで、直接胃が薬物にさらされないので、副作用の可能性が軽減できます。

(ただし、全身循環血液中をめぐるなかで、胃にも到達しますので、完全に防げる訳ではありません)

例えば、アスピリン腸溶錠があります。胃腸障害の副作用を軽減する目的で、加工されています。

②薬効を得るため

胃酸で分解される薬の場合、コーティングによって、薬の成分が胃酸にさらされないようにすることで、薬の分解を守ることができます。それによって、本来期待する薬効を得ることができます。

例として、オメプラゾール腸溶錠があります。PPI(プロトンポンプ阻害薬)といって、胃酸分泌を抑える薬です。

他にも潰瘍性大腸炎の薬など、大腸に薬を届ける目的でコーティングする場合もあります。加工がないと、大腸の手前の小腸で溶けて、吸収されるので、全身循環血液中をめぐる中で、薬の一部だけが大腸に到達するだけになってしまいます。小腸で溶けないようにすることで、直接、大腸の内部が薬物にさらされるので、期待する効果を得ることができます。

徐放性製剤

徐放性製剤とは、“徐”々に薬効成分が“放”出されている製剤のことです。

(製剤の仕組みにはいくつかの種類があるので、この簡略図は必ずしも正しくはありませんが)例えば、表面には速く溶ける層があり、内側にはゆっくりと溶ける層があります。これによって、「すぐ効く」かつ「長く効く」ことが可能になります。薬効が長く続くということは、服薬回数が少なくて済むので、服薬コンプライアンスの向上に役立ちます。(薬を指示通り正しく服用できる)

徐放性製剤の特徴として、名前の語尾にアルファベットなどがついています。このアルファベットには、非常に意味があります。

例えば、ニフェジピン(カルシウム拮抗薬であり、降圧薬などとして使われています)
・ニフェジピンカプセル(軟カプセル)
・ニフェジピンL錠
・ニフェジピンCR錠
があります。それぞれ、工夫が施されているので、1日の服薬回数も異なります。

徐放性製剤の取り扱い上の注意点として、分割・粉砕することはできないという点です。

[特殊製剤のことを取り上げている理由]

放出制御型製剤は、製剤からの薬効成分の放出を制御するように作られている製剤であるため、原則として、製剤を分割したり、粉砕したりすることは禁止です。

ですが、臨床では嚥下することができない人や経管栄養の人に対して、投薬するために粉砕などの措置が必要になる場面は多くあります。その時に、粉砕してしまう医療事故が実際に発生しています。 そのため、製剤の特徴を理解することが大切です。(実際には、事前に薬剤師に尋ねてほしいところです)

(参考)では、 ニフェジピンCR錠を経管投与したいときに、どうしたら良いか?

同じカルシウム拮抗薬でアムロジピンがあります。これも、1日1回投与の薬ですが、これは、作用部位に長く結合して、長く効くため、1日1回投与が可能な薬剤です(ゆっくり溶けるから、ではありません)。なので、実際には、経管投与が可能なアムロジピンへの変更などが検討されます。

放出制御型製剤を見分けるポイント
全ての薬の特徴を覚えることは大変です。ここでは、見分けるポイントをお伝えします。

① 製剤の名前に注意
製剤の名前に「〇〇錠」などとついているものには、注意をしてください。「除放」「CR」「L」など
ただし、中には「錠」という名前だが、実は徐放錠であり、分割・粉砕不可の薬剤があります。その時は、次のポイントがヒントになります。

② 製剤の外観に注意
錠剤を見ると、表面に溝が刻んでいる製剤があります。この溝を「割線(かっせん)」といいます。割線で割ると、有効成分も半分に割ることができる、という目安です。つまり、割線がある錠剤は割ることができる、と言えます。
割線がない、つるんとした製剤は、分割・粉砕してはいけません(原則)。

ゴーストピル

もう一点、放出制御型製剤について、臨床で遭遇する問題として「ゴーストピル」があります。
患者様から、「便をみたら、薬がそのまま出ていた」と、驚いて連絡されることがあります。患者様にしたら、薬が効いていないのではないか、と心配されます。
これは、放出制御型製剤で起こりやすい現象です。

放出制御型製剤の一つで、いわゆる、プラスチックのカゴの中に薬効成分を埋め込んでいる製剤があります。カゴの中から、成分がゆっくり放出されるように作られています。このカゴの部分がそのまま便にでることがあります。

通常、薬効成分が溶出しており、カゴの部分だけが残っているので、薬効には問題ないとされていますが、患者様は非常に驚かれます。 蠕動運動が弱い高齢者などでも起こりやすいので、きちんと説明して納得していただく必要があります。

包装から出すときの注意点

もう一点、臨床で遭遇する点として、パッケージから取り出す時に注意が必要なことを挙げておきます。

錠剤やカプセル剤はアルミ板の包装に入っています。これを PTP 包装といいます。 服用錠数が多く管理が困難な方では、PTP 包装から取り出して、服用時点毎にまとめる、一包化をすることがあります。

PTP 包装に入れてあると、光や湿度から薬を守る、という役割があります。そのため、不安定な薬の場合、包装から取り出すと成分が分解されたり、錠剤の外観が変化したりすることがあります。

PTP 包装の中でも、特に、遮光性が高いのか両面アルミの包装です。また、赤色のフィルムは、特定波長の光を吸収するため、不安定な薬を守るために、赤色のフィルムが使われていることが多いです。

◯アルミ包装・赤色フィルム:除包してよいか確認が必要

また、他にも、OD 錠や軟カプセルも、除包には注意が必要です。

薬が体に入ってから出るまでの運命は、ADME(アドメ)
経口投与の特徴:肝初回通過効果の影響

まとめ

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