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11-1 女性ホルモン


薬物治療の原則

女性生殖器の疾患に関連して、女性ホルモンに関連する薬剤を使用する時の基本的な考え方には、次のようなものがあります。

性ホルモンの産生が低下している場合

性ホルモンの産生が低下しており、不足している場合には、そのホルモンを補充・増強させます。

産生が低下したために起こる状態には、更年期障害や骨粗鬆症があります。

更年期障害の場合は不足したエストロゲンを補充したり、骨粗鬆症の場合は、エストロゲン受容体を刺激することで、作用を発揮させるような薬物を使います。

調節機構のバランスが崩れている場合

月経不順など、ホルモン調節のバランスが崩れている場合には、性ホルモンを補充あるいは抑制することで、ホルモン調節を安定させるような薬物治療を行います。

ホルモン依存性の組織増殖

ホルモンの刺激によって、細胞増殖を促進させる場合があります。子宮内膜症やホルモン依存性の悪性腫瘍にも、ホルモンの作用は悪影響を及ぼす場合があります。

この場合、ホルモン作用を抑えることで、組織増殖も抑制することができます。

そのため、ホルモンの分泌を抑制する、反対作用をもつホルモンを利用する、受容体刺激を抑制する、などを行います。悪性腫瘍の場合は、ホルモンが影響しているかを調べた上で、治療法を選択します。


そこで、まずは、ホルモン分泌の調節の仕組みについて、まとめます。


ホルモン

ホルモンとは、生体内の特定の器官の働きを調節するための情報伝達を担う物質をいいます。特定の器官で、合成・分泌され、血液や体液中で運搬され、別の特定の器官で効果を発揮する生理活性物質です。

細胞間の情報伝達には3種類あります。
(1) 神経伝達物質による刺激伝達
 シナプスで行われる。神経細胞の神経終末から、神経伝達物質が放出され、接続している神経細胞にある受容体が受け取る。極めて近距離の情報伝達。
(2) サイトカイン
刺激を受けて、細胞からサイトカインが放出され、周囲にある細胞が活性化等の影響を受ける。
(3) ホルモン
特定の器官で合成・分泌されたホルモンが運搬され、別の器官で効果を発揮する。遠距離への情報伝達を行っている。

細胞間の情報伝達についての復習

ホルモンのうち、化学構造上、ステロイド骨格を持つホルモンを総称してステロイドホルモンといいます。ステロイドホルモンには、副腎皮質ホルモンと性ホルモンがあります。

副腎皮質ホルモン

腎臓の上部にある副腎という臓器の、皮質(外側の部分)で作られているホルモンを総称して、副腎皮質ホルモンといいます。

コルチゾール・・・副腎皮質で合成される糖質コルチコイドの一つ。
糖質コルチコイド作用を参考にして合成された副腎皮質ステロイド薬は、抗炎症薬・抗アレルギー作用・免疫抑制作用などを持ち、臨床でも、非常に重要な薬の一つ。
(グルコース代謝に影響することから、糖質コルチコイド)

アルドステロン・・・副腎皮質で合成され、腎臓で作用する。
アルドステロンは、尿細管で水の再吸収(尿量をげんしょうさせる)に働いており、アルドステロンを阻害する作用を持つ抗アルドステロン薬(スピロノラクトン)は、利尿薬として用いられている。

性ホルモン

第二次性徴など生殖器の発達のほか、体内でさまざまな作用に関与しています。生殖器だけでなく、一部、副腎でも合成されています。

アンドロゲン・・・男性ホルモン
副腎髄質(外側)では、アドレナリン・ノルアドレナリンが分泌されている。
そのうち、性ホルモンであるアドレナリンは、男性生殖器の発育・維持や、第二次性徴、タンパク同化作用(アミノ酸からタンパク質を作り、筋肉の成長を促進する)に働いている

女性ホルモンには、卵胞で合成される卵胞ホルモンと、黄体で合成される黄体ホルモンの2種類があります。
卵胞ホルモンには、数種類あり、総称して、エストロゲンといいます。
黄体ホルモンは、プロゲステロンがあります。

体内にあるステロイドホルモンの例

女性ホルモン調節機構

体内でのホルモン分泌は、”足りない時に分泌する””多い時には減らす”という調節をするために、上位中枢から制御されています。女性ホルモンの調節機構の概要を表にまとめています。

(1) 視床下部から放出されるゴナドトロピン放出ホルモンが、下垂体前葉を刺激
(2) 下垂体ホルモンから、性腺刺激ホルモンであるゴナドトロピンが放出される
卵胞を刺激して、エストロゲンの分泌を促進するのが、卵胞刺激ホルモン(FSH)
黄体を刺激して、プロゲステロンの分泌を促進するのが、黄体形成ホルモン(LH)
・エストロゲンやプロゲステロンが十分量ある場合、上位中枢にフィードバックがかかり、放出ホルモンや刺激ホルモンの分泌が抑制される。
・エストロゲンやプロゲステロンが不足している場合、上位中枢にフィードバックがかかり、放出ホルモンや刺激ホルモンの分泌が亢進し、エストロゲンやプロゲステロンの分泌をそれぞれ促進させる。

女性ホルモン調節機構

月経周期とホルモン調節

卵胞期:
脳からの指令で、卵巣内で卵胞が育ち、エストロゲンの分泌量が増加します。エストロゲンの作用で、子宮内膜が厚くなります。(→着床の準備)

卵胞とは?卵巣で作られる卵細胞表面の細胞の集合体

排卵期:
卵胞が十分に成熟するとエストロゲンの分泌量は最大になります。 LH が一気に分泌され、排卵が起こる。(LHサージが排卵の引き金)

黄体期:
排卵を終えた卵胞は黄体に変化し、プロゲステロンを分泌する。
厚くなった子宮内膜を、受精卵が着床しやすい状態にする。基礎体温は上昇する

エストロゲン

卵胞で分泌される卵胞ホルモンを総称して、エストロゲンといい、体内に存在するエストロゲンには、3種類あります。エストロゲンは、主に卵胞から分泌されますが、一部副腎皮質でも産生されています。

  • エストロン(E1)

  • エストラジオール(E2)

  • エストリオール(E3)

エストロゲンは、エストロゲン受容体に結合して、生理作用を発揮します。3種類のうち、エストロゲン作用が最も強いのは、E2 です。

エストロゲン受容体は、全身に存在しています。
乳腺ではエストロゲン受容体にエストロゲンが結合すると、乳腺成長を促進し、子宮内膜では、エストロゲンによって子宮内膜の増殖が促進されます。
他にも、肝臓では、血液凝固因子産生作用に働いています。また、血中脂質に対しては、HMG-CoA 還元酵素阻害作用などの作用によって、脂質代謝を改善するため抗動脈硬化作用があります。
また、骨では、エストロゲンの作用により、骨吸収を抑制し、骨密度を増加させています。

女性ホルモン製剤

女性ホルモン関連の医薬品には、卵胞ホルモン製剤と黄体ホルモン製剤があります。

エストロゲン製剤

体内に存在する内因性ホルモンには、3種類があり、その中で、作用が最も強いのは、E2 です。
エストラジオールを改良して作られた合成ホルモンが、エチニルエストラジオール(EE)です。

黄体ホルモン製剤

体内に存在する黄体ホルモンは、プロゲステロンがあります。
それを元に作成された合成ホルモンには、ノルエチステロン、デソゲステロル、レボノルゲストレル、ドロスピレノンがあります。

記事はここまでです。
最後までご覧いただきありがとうございました。😊

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