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「僕とみんなの往復書簡」を終えて #3 承

いざ、便箋を目の前にすると、どうしていいか分からなかった。

一番最初に手紙を書いたのは、確かドライフラワーでアクセサリーを制作しているmichiの亜希ちゃんだったような気がする。なぜかというと、会って打合せをする最初の一人目だったからという単純な理由だった。

まず書き出しをどうしようか。
「こんにちは」いや読むのが昼間とは限らないし、「こんばんは」も同じ理由でおかしいし、「久しぶり」も会って打合せをした後に手紙を渡す訳だから、もはや久しぶりでも何でもない。色々と考えた末に書き出しを何にしたかは、もはや忘れてしまったのだけど手紙を見返すのはやめておく。

よく知っている友人(本当は、知っているようで、知らないことだらけなのだけど)にとはいえ、誰かに手紙を書くなんてこと、かれこれ15年近くしていなかったから、特定の人に宛てて文章を書くというだけで中々筆が進まなかったのを覚えている。

けれど、亜希ちゃんを好きになる理由はたくさんあった。
音楽が好きで、楽しい場所が好きで、お酒が好きで、人が好きで、笑顔が可愛い。それでいて、michiの作品には、普段会って話すときとは違う感情が込められている気がして、そのギャップにやられてしまった。

「そうか、相手の好きな部分を書けばいいのか。」

そう考えると、何だか気が楽になった。

それぞれの作家さんとの出会いや直近で会った日のことなど、振り返って思い出しながら書く手紙は何だか楽しかった。
出会った場所、そのとき一緒にいた人達、季節、当時の自分の状況、それぞれが今と違って懐かしく、段々と便箋は文字で埋まっていった。

しかし、それからが大変だった。

何の気無しに、作家さん全員と手紙のやりとりをすると決めてしまったけれど、手紙を一通書くのにどれくらいのエネルギーが必要か僕はまだ分かっていなかった。便箋2枚に納まるように文章の構成を考えて、その中で言いたいことを全部詰め込むのは至難の業で、慣れないうちは1通書き終えるのに3時間〜4時間くらいかかってしまう。

白状してしまうと、最初の1通を書き終えたあと「これをあと15回繰り返すのか」と途方に暮れた。

当初の予定では、2週間で16組の作家さんに手紙を書くつもりだったけれど、誤算も甚だしく、蓋を開けてみたら最後の一人に書くまで1ケ月かかってしまった。それでも手紙を書く行為は楽しく、ついには「今日は手紙を書く日」と決めたりして、1日に3通書くなんて日があったのを覚えている。

イベントを企画をしていて、何が心苦しいかって、参加してくれる作家さんへの連絡が事務的なものになってしまうこと。出店作品はどれにするか、当日来れる日はあるのか、いつまでに会場に送ってほしいとか、そういったやりとりが自然と増えていく。全員が友人や知人のはずなのに、最近見た映画の話とか、どこかへ行った話とか、そういったどうでもいい話はし辛く、何だか間が悪いというか「いやいやその前にイベントはどうなってるの?」と思われてるような気がしてしまう。これは、僕が気にし過ぎなのだろうか。

しかし、幸いにも今回はその不安が無かった。メッセージでの事務的なやりとりだけでなく、手紙があったからだ。

やはり、メッセージと手紙とでは、受け手側のスタンスが全く違うように思う。うまく言葉では言い表せないのが悔しいし、作家さん達がどう思ってくれていたかは分からないが、なんだか漠然とした安心感があるのだ。僕自身、イベントに向けて着実に進んでいる気がしていたし、作家さんの気持ちもイベントに意識が向けられている実感が湧く。きっと、参加してくれた作家の方々も、そういう気持ちになれたのではないかと勝手に思っている。

しばらくすると、作家さんからの返事が届き始めた。

郵便屋さんの原付の音に心を踊らせ、毎朝郵便受けを覗くのを楽しみにしている自分が、いつのまにか出来上がっていた。

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