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J-WAVEで出会った歌

奥さんは自宅勤務中によくJ-WAVEをかけるので、わたしもお付き合いして聴くことがあります。ある日、とても自分好みの歌声が聴こえてきました。ちょっと音程がうわずる感じの、独特の歌い方で、やさしいバラード。

J-WAVEはかけた曲をWebサイトに表示してくれるので、さっそく調べてみると、mikiさんというシンガーの「Smile, Smilin'」という曲らしい。

YouTubeで検索したら、ありました。でも公式ではなく、ファンの方があげた動画で、しかも8年前のアップロードなのに750回くらいしか再生されていない。ずいぶんマイナーな曲をかけたんだな。

YouTubeを再生してみる。うん、これこれ。心にしみるすてきな曲です。わたしのお気に入りになりました。しかし、キャプションに気になる一文が。

「きっと天国でも、いっぱいピアノ弾いて、歌っていることでしょう」

mikiさん、お亡くなりになったんですね。

本名の林美紀で検索すると、本人と思われるブログを発見。長く闘病されていたと分かり、胸がしめつけられる思いでした。

わたしは知らないうちに、彼女がこの世に遺した想いと向き合っていました。この曲をラジオでかけた人は、わたしのような出会いをしてほしくて、かけたのでしょう。

聴けば聴くほど、彼女が元気なころ、50人くらいの小さなライブハウスでいきいきと弾き語りしているような、目の前で真剣に歌っているような、そんなイメージが鮮明に浮かんできます。小さなライブハウスの中にある、おだやかな緊張感とか、空気が静かに震える感じとか、そんなものまで見えてくる。

一度も会ったことがないのに、二度と会えない切なさに満たされる曲です。


世間的には売れなかったけど、自分にとってはとても大切で、人生と強く結びついている。そんなアーティストが誰にでもいると思います。わたしにもいます。

hiro:nさんが好きだったのは2000年から2001年にかけてです。1994年に大学を卒業して電通に就職したけど1年で辞めて、そのあとタワーレコードの店員になってそれも1年で辞めて、そこから1年半、いまの奥さんと同棲を始めたけれど完全無職で引きこもり、ようやく立ち直って東大の別の専攻に入り直したものの、人生の目的を見失い、なんとなく大学に通ってなんとなく家でゴロゴロして、どうしようもない毎日を過ごしていたころ、ボケーっとテレビで高校野球の予選を見ていたときに、試合の合間に何度もかかって好きになりました。

hiro:nさんの声をきくと今でも、あの練馬のマンションのカーテンの隙間から入ってくる光の具合とか、冷房のきき具合までいきいきとよみがえって、虚しかった20代の自分を思い出します。それにしても、よく奥さんに愛想をつかされなかったものだ。偉大な人です。

電気キャンディが好きだったのは2007年から2008年ごろ。茨城大学に就職したばかりで、水戸で単身赴任していました。ニコニコ動画とYouTubeの草創期にあたり、毎晩毎晩、いつまでも動画を見ていた。慣れない授業の準備もあったのに、いつ寝ていたんだろう。

このときも人生の目標を見失っていました。就職も決まり、博士論文も提出して、妙な安定感が出てしまったというか、何をやりたいとか、何者になりたいとか、そういう野心がすっかり消えていた。

そんな状態で出会ったのが、「ポリリズム」でブレイクした直後のPerfumeと、電気キャンディでした。いとこどうしの2人組ユニットである電気キャンディは、アルバムを一枚しか残しませんでしたが、コード進行やメロディが自分好みでよく聴きました。メンバーのマリリンはその後、少年ナイフのメンバーとして長く活躍します。

就職して2年半、2009年の9月まで水戸でひとり暮らしをして、それから東京に戻って遠距離通勤になりました。水戸にいる間はずっとメンタルが低調で、たばこもいちばん吸っていたし、別居中だから夫婦のコミュニケーションもよくなくて、全体的にダメな時期でした。そんな時代に聴いていた音楽を聴きなおすと、当時のメンタルがよみがえります。

電気キャンディ以外だと、短編アニメ「peeping-life」が好きだったので、テーマ曲「さとりのしょ」ですね。不安定なメンタルが強烈にフラッシュバックします。

あとはやっぱりPerfumeですね。Perfumeは東京に戻ってからもずっと好きで、ファンクラブにも入っていました。その後ファンクラブは退会しますが、事務所の後輩であるさくら学院のファンになり、2021年に解散するまでずっと追っていて、Perfumeとの共演なんかもあったので、不調な時代とそこまで結びついていません。

でも、暗い部屋でパソコンにかじりつき、朝までPerfumeの関連動画をニコニコ動画で見続けていたあの日の空気は、はっきりとよみがえります。

音楽はおもしろいですね。その曲を聴いていた頃の人生の状況、部屋の雰囲気、抱いていた気持ち、いろんなものを一気に記憶の奥底から呼び出してきます。わたしの場合、よい時よりも悪い時のほうが、人生と音楽の結びつきが強いようです。悪い時のほうが、わたしは音楽に頼っていて、より音楽に耳を傾けているのかもしれません。

逆に言うと、最近はハマっているアーティストがとくにないので、よい時なのでしょう。これがもし、「最近〇〇が大好きなんです!」などと急に言い出したら、どうか私のメンタルを心配してください。


※今回のnoteを書くために林美紀さんのブログを再検索したのですが、見つかりませんでした。