小原 康平

日本でアニメのプロデュースに携わって、2010年にアメリカへ渡り映画大学院(AFI)を…

小原 康平

日本でアニメのプロデュースに携わって、2010年にアメリカへ渡り映画大学院(AFI)を卒業。2019年から再び動画配信事業者にてアニメの企画開発を担当したのち、この度アメリカへ再移住しました。(2023年9月〜)

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伝えるに足る表現行為

『誰にも見せないことを前提にはじめたブログを公開したら、「スキ」や「Like」の数が途端に気になるようになってしまった。』 という冒頭部分だけを記した下書きが、2年以上も一覧の下のほうで眠っていました。 一度、パンドラの箱を開けてしまったら戻れないんだ、とでも言いたげな含み。 表現行為には、大きく二種類の出発点があるのだと思います。 自分のために残すものと、他人に向けて綴るものと。 「伝わる」あるいは「伝えるに足る」表現とは、その両方をバランスよく備えているのだと思

    • 『シビル・ウォー(原題)』:シリアスな社会派ドラマ、に見せかけたド根性戦争サスペンスな記者物語

      背景 アレックス・ガーランドといえば、ダニー・ボイル監督とのタッグで名を挙げた英国出身の小説家、脚本家、監督。小説『ザ・ビーチ』を執筆し、レオナルド・ディカプリオ主演の映画化(2000)でボイルと初めて絡んだ。同作は酷評されたが、タッグはゾンビ映画の名作となった『28日後…』(2002)で開花し、その脚本でゾンビ・パンデミックものの定義を塗り替えた。 その後『サンシャイン 2057』(2007)『わたしを離さないで』(2010)とSF作品の脚本執筆に徹するガーランド。『ジ

      • 『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』:23年の隠れた名作アニメ

        『Teenage Mutant Ninja Turtles: Mutant Mayhem』(2023年)★★★☆。 見る気にならなければ、見ない理由はいくらでも並べられる。が、見たら驚かされる。23年の隠れた良作。 先入観 絵作りは『スパイダーバース』の後追いや二番煎じと言う者もいるだろう。「ニンジャタートルズはいろんなシリーズ作りすぎ」と、ニコロデオンの節操のなさをなじる者もいていい。どれも先入観としては当たっている。 そんな先入観をしっかり裏切ってみせるのが、セス

        • 『ゴジラxコング 新たなる帝国』:頭カラッポの方が(怪獣プロレスの)夢詰め込める

          『Godzilla x Kong: The New Empire』(2024年)☆・・・。 近年でも稀に見る知能指数の低さで…そんなことを恥じ入るべくもなく。どこまでも怪獣プロレスに徹する1時間51分。もうCHA-LA、HEAD-CHA-LA。 日本に限らず、アメリカの観客が『ゴジラ-1.0』をとびきり楽しんで評価するのも、わかる。ハリウッドがこれだけ割り切った代物を作っていると知れば、わかってあげられる。これは見紛うことなきモンスター・パルーザ的WWEで、怪獣映画に知性

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          『デューン: 砂の惑星 PART 2』:超級大作映画による娯楽と芸術の両立

          『Dune: Part Two』(2024年)★★★★。 難解なものを、難解さを残したまま、見たいものにする。 ドゥニ・ヴィルヌーヴの『DUNE 砂の惑星 パート2』が1.9億ドル(およそ288億円)の超大作映画で冒険しているのはこの点だ。 プロット上、疑問符が確実に上がる些事にはじまり。箱に手を入れると何かの適正が見られるとか、人間コンピュータが脳内でいろんな計算ができるとか(これは考えてみれば50-60年代の昔に戻っただけだけど)、全身を包むスーツが老廃物から水分補

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          『ゴーストバスターズ:フローズン・サマー』ウェルダンだが加齢臭にじむフランチャイズ続編

          『Ghostbusters: Frozen Empire』(2024年)★★・・。 コアファンに牙を剥かれて炎上した2016年公開の女性版から素早く身を翻し、旧キャストのみならず監督までを血筋と縁故で固めたリブートシリーズ『ゴーストバスターズ』。 ↑ からの。↓ 通算3作目『アフターライフ』(2021年)に続く本作『フローズン・サマー』(2024年)は前作の物語を継承した、完全なるフランチャイズ作品。 当時から変わらないプロトンパック、ゴーストトラップ、ECTO-1、

          『ゴーストバスターズ:フローズン・サマー』ウェルダンだが加齢臭にじむフランチャイズ続編

          『落下の解剖学』幾重に重なるテーマ性、高い技術力と表現力

          『Anatomy of a Fall』(2023年)★★★☆。 法廷ドラマ、というより法廷ミステリーか。ジュスティーヌ・トリエ監督(『愛欲のセラピー』『ヴィクトリア』)が脚本も共著したオリジナル作品として、ヨーロッパの各賞を席巻している。 フランス南東部はグルノーブルで人里離れて暮らす3人家族。夫・サミュエル(サミュエル・タイス)の転落死に他殺の疑いがかかり、容疑者として起訴されることになる、妻で小説家のサンドラ(サンドラ・ヒュラー)。 その嫌疑が、果たして正しいか否か

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          『ボーはおそれている』重度不安障害の世界にひたる、笑いの2時間59分

          『Beau is Afraid』(2023年)★★★☆。 これは大事な映画だ。湧き上がる恐怖をちゃんと笑い飛ばせれば、面白さが倍増する。 重度な精神疾患者の目線を、驚くほど壮大なスケールで再現する。それが本作の核だ。心優しいからこそ、生活に支障をきたすレベルの不安障害を抱えた男が、母にまつわる出来事をきっかけに珍道中に巻き込まれる。 途中、精神疾患の原点と思しき原体験の切れ端がたびたび割り込んできては、主人公ボー(ホアキン・フェニックス)の現実と混ざり合う。その現実は、

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          『コカイン・ベア』愛嬌あるバカバカしさ

          『Cocaine Bear』(2023年)★★☆・。 このバカバカしいプレミスに、錚々たる製作陣が並ぶ。 『ピッチ・パーフェクト』続編や『チャーリーズ・エンジェル』リブート作のエリザベス・バンクス監督作、『スパイダーマン』のアニメーション長編シリーズや『LEGOムービー』などのフィル・ロード&クリス・ミラーのコンビがプロデュース。 アイス・キューブの息子のオシェア・ジャクソン・Jr、失敗作扱いだがスター・ウォーズのスピンオフでハン・ソロ役を務めたオールデン・エアエンライ

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          『雪山の絆』現実からメッセージを引き出す手腕

          『Society of the Snow』(2023年)★★★☆。 J.A.バヨナ監督作といえば、ディザスター・サスペンスが印象的。 タイでの津波被害を生き抜くイギリス人家族のドラマ『インポッシブル』は、津波の猛威で生き別れた家族が再会するまでの物語だった。水流や流木による怪我の仕方に至るまで生々しく描写した点が特徴的。タイで大勢が亡くなった天災をイギリス人視点で描くことに引っかかりはあるが。 『雪山の絆』はその手腕を存分に活かすディザスター・サスペンスであり、実話に基

          『雪山の絆』現実からメッセージを引き出す手腕

          『ザ・ホールドオーバーズ(原題)』居残り学生と嫌われ教師の冬休み

          『The Holdovers』(2023年)★★★★。 快作。 一見既視感のあるプレミスだが、神はディテールに宿る。 アレクサンダー・ペイン監督、ポール・ジアマッティ主演といえば『サイドウェイ』のタッグチームだ。 そのコンビが、1970年のニュー・イングランドにある全寮制男子学校でのひと冬を描く。休みのあいだ、実家に帰れない数名の学生たちを泊まり込みでお守りする嫌われ教師と、母親に帰省を拒まれた問題児との関係を中心に展開する。 監督の演出はともすれば古臭いが(じわり

          『ザ・ホールドオーバーズ(原題)』居残り学生と嫌われ教師の冬休み

          『アメリカン・フィクション』インテリが逆差別と衆愚に挑むとき

          『American Fiction』(2023年)★★★・。 ハイブラウな映画だ。 物書きの苦悩、特に世間との感覚のズレを感じる男の憤りと、その私生活。そこへ一石を投じる行動が、思わぬ出来事のドミノ倒しを呼ぶという、シニカルなコメディ。 パーシヴァル・エヴェレットの2001年の小説『イレイジャー』を原作に、今をときめくライター、コード・ジェファーソンが監督デビューした本作。 これ、いくつかの映画を足して割ったかのような構造になっている。 アレクサンダー・ペイン『サイ

          『アメリカン・フィクション』インテリが逆差別と衆愚に挑むとき

          『ナイアド 〜その決意は海を越える〜』老いてこそ人生を楽しめる

          『NYAD』(2023年)★★★・。 年寄りがスクリーン上で頑張る姿にはどこか見え透いたアジェンダを感じてしまうものだが、キャラクターに尋常ならざる精神力や、若者顔負けのフィジカルが伴うと話が変わってくる。『ナイアド』に、有無を言わせぬ共感力が伴うのはそのためだろう。 2009年を皮切りに、60歳をゆうに越える高齢でキューバ沖からフロリダまでの130kmを単独泳破することに挑戦した遠泳スイマー、ダイアナ・ナイアド(アネット・ベニング)。 もともと競泳選手で、26歳のとき

          『ナイアド 〜その決意は海を越える〜』老いてこそ人生を楽しめる

          『フェラーリ』栄冠の代償、速さの対価

          『Ferarri』(2023年)★★★・。 実話に基づく人物の生涯を追うのでなく、1957年のひと夏に物語を絞ったのは『フェラーリ』の切り口の肝。 伝記ものが数十年分のめぼしい転換点を切り貼りするのとはまた違った、登場人物たちのスナップ写真を見ているような鑑賞感がある。 2時間あまりで、元レーサーで起業したエンツォ・フェラーリ(アダム・ドライバー)の二重生活、直面する経営難とテコ入れ策、共同経営者であり妻のラウラ・ドミニカ・ガレッロ・フェラーリ(ペネロペ・クルス)との愛

          『フェラーリ』栄冠の代償、速さの対価

          『TÁR/ター』:「アーティストなら人をクズ扱いしても許されるのか」への解

          『TÁR』(2022年)★★★☆。 公開:2022年11月17日(北米) IMDB | RottenTomatoes | Wikipedia リディア・ター(ケイト・ブランシェット)はソシオパスだ。業界のトップで活躍しながら、周囲への心理的虐待と性的搾取に勤しむ、架空のアーティスト。近年よく見られるようになった、権威を嵩にかけた抑圧と転落の一部始終が、彼女を中心にして展開する。 トッド・フィールド(『イン・ザ・ベッドルーム』『リトル・チルドレン』が脚本と監督を手掛けた本作

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          『ソルトバーン』持てる者、持たざる者の暗部(と局部)を露わにする怪作

          『Saltburn』(2023年)★★★・。 公開:2023年11月17日(北米→全世界) IMDB | Rotten Tomatoes | Wikipedia 恐ろしい。『太陽がいっぱい』(1960)あるいは『リプリー』(1999)に次ぐようなソーシャル・クライマーの暗躍。それを、2006年のイギリスを舞台に語る。 主人公のソシオパスぶりが激しい。激しくて、何度か鑑賞を止めかける。 オックスフォードの新入生、オリバー・クイック(バリー・クーガン)。根暗でおとなしい彼が

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