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美しく老ゆ vol.1

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美しいものは美しく枯れてゆく
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記事一覧

「美しく老ゆVol.1」もくじ

1 【写真集】「死して尚咲く花」

2 【詩】「枯れてゆくことについて」

3 【イラスト】「無題」

4 【短編小説】「夜と朝をつなぐ青」

5 【写真集】「死して尚咲く花 #2

6 【短編小説】「老木と雲」

7 あとがき・作品解説

枯れてゆくことについて

枯れてゆくことについて

美しいものは美しく枯れてゆく。

むしろ、枯れてゆく時、美しいものの美しさは初めて露わになる。

生命力の彩りがこぼれ落ちてゆく時、美しく燃える心臓は初めて透けて見えるのだ。

美しく老いた目はそのまなざしで見て来た美を宿している。

美しく老いた口元は100の言葉よりも深長な微笑みを湛える。

人はあまりに大きなものを前にすると、言葉を失う。

海の美しさをただ「美しい」としか言い表せないように

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【短編】「夜と朝をつなぐ青」

老人はベランダから通りを眺めていた。

妻のいなくなった家は足腰の弱い老体にとっては途方もなく広く、今から一年前に家を引き払って、この古い小さなアパートの2階に越して来たのだった。

しかし、2階を選んだのは間違いだったかもしれない。老人の足腰は日に日に歩き方や立ち上がり方を忘れてゆき、階段を上り下りしようものなら、半日もかかってしまうのだった。

外への用事はすべて家政婦に任せて老人は一日を部屋

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【短編小説】老木と雲

晴れ渡った空のあちらこちらに小さな雲が浮かんでいた。

今にも消えてしまいそうな小さな雲たちは、実際に消えてしまうものもいたが、様々に形を変えながらもかろうじて形を保ちながら、風まかせに空を漂っていた。

海を一つ越えて、小さな島に辿り着くと、島の中央に大きな山が見えた。

雲たちは風が吹くままにその山に向かって流れて行った。しかし、風は山にぶつかるとそこで吹くのをやめてしまった。流されて来た

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「美しく老ゆ」あとがき・作品解説

※無料で最後までご覧いただけます。

あとがき不老不死に本当に憧れている人ってどのくらいいるのだろう。

僕は飽きっぽい性格なので、いつまでも続くものにはあまり興味がない。どんなにおもしろいテレビドラマでも7話くらいで見なくなってしまう。同じようにだらだらと続く若さに少しばかり倦んでいる気持ちがある。

もちろん同時に若さを惜しむ気持ちもあるのだが、早く歳を取りたいなという気持ちが少なからずある。

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