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近づくたびに遠くなることの始まりとは

まだ、近くに畑や民家が多く、各駅停車しか止まらない街に、そのとき私は数年ぶりに降り立った。3回も乗り換えてやっとたどり着いた街は数年前と変わらずの街、ただ、違うのはそこに愛そうとする人が日々を過ごしているということだけ。


今では乗り換えなしで行ける街になり、ビルがたくさん建ち並び、乗り入れる鉄道会社が増え、私が愛そうとした人が住む街の面影が少なくなってしまった。スロープがある特徴的だったその街の駅は車を使って会う前の大事な待ち合わせの場所。

初めて2人きりで会うその日、日差しがまぶしかったのを覚えている。

どちらの出口か聞いておけばよかった。電話では改札出たところで待っていると言っていたのだけれど、2つの選択肢が私を迷わせた。目に見えたのは建物が少し多くある方の出口、とりあえずそちらに向かった。

階段を降り、辺りを見回してもそれらしき人はいなかった。また階段をのぼり、スロープが目立つ方の出口に向かった。

なだらかなスロープを降りた踊り場の辺りにあなたは笑顔で待っていた。

「やっと会えた」

気持ちが近づいた気がした。

この場所から始まった叶わぬ恋。
ここからあなたに近づこうとするたびに、心と身体の距離が遠くなっていくということはこのときは分からなかった。

改札前でもよかったのに、スロープの踊り場が、昼間の、いつもの待ち合わせの場所となった。きっと、目につかない場所がよかったのだろう。


改札口から数mの遠さ

早く近づきたいという気持ち

近くて遠い。