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<他区事例②>渋谷区、江東区の学校改築はどうなっている?

文京区の学校改築は、狭い敷地内に仮校舎を建てる方法(自校方式)で改築(建替)を進めているため、非常に工期が長くなっています。しかし、他の区も同じかといえばそうではありません。

前回のnoteでは、文京区近隣の千代田区、港区、新宿区、豊島区、中央区の事例を紹介しましたが、どの区も他校方式(他の土地に仮校舎を建てる)で実施していました。そのため、工期は短くて済んでいます。

今回は、長期的な計画のもとに進めている渋谷区と江東区の事例を紹介します。


■渋谷区

渋谷区は長期的な視点から、これからの学校施設の考え方を示し、新しい学校づくりの整備方針を公表しています。

改築計画のロードマップを公表

渋谷区も、学校施設が老朽化し、改築や改修を迫られているのは文京区や他の区と同様です。しかし、考え方や進め方は文京区と全然違って悲しくなるほどです(渋谷区がしっかり考えられている、という意味で)。今後の改築スケジュールや方針は、ロードマップにわかりやすくまとめられています。

ぜひPDFをダウンロードしてじっくりご覧いただきたいですが、ポイントとなるところを引用します。まず、2041年まで見据えた長期的な視点で区内の学校施設の改築スケジュールが立てられています。

注目してほしいのは、どの学校も仮校舎期間が3年となっていることです!!なぜこんなに短いかと言うと、他区と同様に他の土地に仮校舎を整備する他校方式だからです。

渋谷区は文京区と同様に仮校舎を建てる土地を探すことは難しいと思うのですが、現在は青山病院跡地、スポーツセンター敷地内の一部に仮校舎を建てることを予定しています。また、小中一貫校となる場合は、どちらか使わない方の学校(例:猿楽小学校は、鉢山中学校新校舎で小中一貫校となる予定で、一貫校に移転後の猿楽小学校を仮設校舎として活用)を仮校舎として活用します。

建替優先順位について

建替の順番は以下のように書かれています。

令和2年度策定の「渋谷区学校施設長寿命化計画」では、各校の老朽化状況等に応じた建物評価点を 算出し、建て替えの優先度を設定しています。これを基礎としつつ、仮校舎整備のための敷地等の確保の状 況に応じて、順次、建て替えに着手する計画としています。
例えば、都有地である青山病院跡地の活用については、借用期間に制限があるため、当該期間中に仮校 舎を整備し、これを起点として周辺の学校の建て替えを進める予定です。

渋谷区立小学校・中学校建て替えロードマップ

つまり、青山病院跡地は都の持ち物ですが、仮校舎活用を用途に都から借りています。借用期間に制限があるため、青山病院跡地を使える学校を優先的に建替をしていく予定になっています。

そして、青山病院跡地から離れた学校については以下の記載があります。スポーツセンターの敷地の一部を活用するようです。

学校建て替えには、仮校舎の整備が必要となりますが、青山病院跡地の仮校舎から距離が離れる学校 については、区有施設の中で最も大きな敷地面積を持つスポーツセンター(テニスコート部分等)を仮校舎敷地として活用する予定です。また、運動場の一部分を授業等で使用する場合があります。スポーツセンターをご利用の皆様には、学校施設開放等による代替場所の確保に努めていきます。

自校方式となっている学校はどうする?


そして、現状のロードマップを見ると、4校が敷地内に仮校舎を建てる自校方式の予定になっています。しかし、以下の記載があり、自校方式のデメリットを認識していることから、他校方式を模索していくと思われます。

解体工事等の大きな振動や騒音を伴う工事による影響を考慮し、可能な限り、学校敷地とは異なる場 所に仮校舎を整備し、学校敷地内でのローリング整備になる学校が最小限となるよう、検討を進めます。

自校方式が前提の文京区となぜここまで違いがあるのでしょうか。

<余談>
ちなみにですが、渋谷区のHPは情報設計がしっかりしていて、欲しい情報にすぐにたどり着けて素晴らしいです。導線もわかりやすく、デザインやフォントなどのUIも圧倒的に優れています。他区は同じフォーマットのHPと思われますが、とにかく探しにくくて閉口しました。ぜひ渋谷区のサイトづくりを見習ってほしいです!!!!

■江東区

江東区は、廃校になった旧大島南小学校と旧南砂西小学校の2校を仮校舎として活用し、順次改築を進めています。例として2校挙げますが、今後も改築・改修が予定されています。

第二砂町小学校

改築(建替)or改修:改修
自校or他校:他校方式
仮校舎期間:8ヶ月、2018年8月〜2019年3月
改築中の対応:旧南砂西小学校を仮校舎として活用

第五大島小学校


改築(建替)or改修:改築(建替)
自校or他校:他校方式
仮校舎期間:2年4ヶ月、2016年4月〜2018年7月
改築中の対応:旧大島南小学校を仮校舎として活用

↓今後の予定

江東区の他校方式へのこだわり


江東区の計画で注目してほしいのが、「スクールバスによる通学」と書かれていることです。江東区は約43平方kmと、文京区の約11.3平方kmと比べると4倍近く大きい区で、この面積を2校の仮校舎用地でカバーするためには、通学にスクールバスが必要になるということです。

スクールバス使用の是非にはさまざまな意見があると思いますし、道の狭い文京区で同じことができるかと言うとそれはまた別問題だと思うのですが、それだけ江東区は他校方式にこだわっていることの表れだとも言えます。

江東区は以下のページに「常設の仮校舎を利用した学校の改築・改修」についてまとめています(下方にあります)。

ここでなぜバス通学を利用してまで他校方式にこだわるのか記載されています。抜粋して引用します(多少編集しています)。

メリット1.良好な教育環境の確保
仮設校舎は工事現場と隣接する校庭に設置されることが多く、授業中も騒音や振動を受ける可能性があります。また工事現場に出入りする工事車両等にも注意を払わなければなりません。
こうしたことから、工事現場から離れた環境に移ることで、教育環境の快適性・安全性を確保します。

また、仮設校舎を設置すると校庭の利用可能面積が減少し、体育の授業や外遊び等が制限されます。仮校舎は通常の学校と同等の設備・校庭を備えており、工事期間中も通常と同水準の環境で教育を受けることが可能です。

メリット2.工事期間・費用の縮減
常設仮校舎を活用した工事では、敷地内のプレハブ校舎の設置・撤去及び工程上の制約がないため、工事期間が短縮されます。

メリット3.中・長期的な改修計画の策定
多くの改修事業を滞りなく計画的に実施していくためには、中・長期的な改修計画が必要不可欠となります。区内二か所に有する常設の仮校舎をリレー形式で使用することを計画策定の軸とすることで、長期間にわたる明確な計画の策定が可能となります。

メリット4.快適な工事環境の確保
仮校舎を活用した工事では、校庭全面を工事で利用できるため、工事を安全かつ円滑に進めるために必要なスペースの確保や、大型重機を工事に採用することが容易になります。敷地面積の小さい学校の多い都市部の工事においては、工事の進行を左右する重要な要素となります。

江東区HP「学校施設の整備・充実」

このように、江東区のサイトには、私たちが小日向台町小学校が8年もの工期をかけて自校方式で改築すると聞いたときに抱いた疑問点や課題と、他校方式による解決が、まさにそのまま掲載されています

まとめ

前回のnoteに引き続き、他校方式にこだわって改築や改修を進めている渋谷区と江東区の事例についてまとめました。

渋谷区も江東区も他校方式で実施するにはさまざまな困難があったと思います。その中でも、「できない」ではなく、「なんとかしてできる方法はないか」と考え、計画を練りだしてきたことが伝わってきます。子どもたちの学習環境、住民の生活環境を考え、できるだけ影響が少なく、短く済むように知恵を絞っている渋谷区と江東区の進め方を見ると、行政の仕事とはこういうことだよな、と感じてしまいます。

↓江東区は仮校舎用地が2ヶ所だけでどうなのか?と感じましたが、「江東区立小中学校の改築・改修に関する基本的な考え方」で震災以降、遠くの学校に通うことへの不安の声があることを認識し、さらに検討を進めるとの記載がありました。


他区の事例を調べていると、文京区の自校方式を前提とした進め方で、子どもにも近隣住民にも、影響が大きく、長期に及ぶ工事を当たり前のように進めていることに、怒りを通り越して悲しくなってきます。



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