生き残る

私は生き残りたいと思っていた。
ガンと闘うテレビを見れば、ガンになりたくないな。と思い、交通事故のニュースを見れば、車には気をつけようと思う。地震が来たら身を守るために机の下などに隠れ、窓などは開けて逃げ道を確保し、揺れがおさまってから、外に出る。台風の時は、三階建以上の鉄筋の建物に行く。この方法があっているかどうかは別として、大体の動き方は自分の中で決めている。

私は、死ぬのが怖い。
もし、誰か知らない人が刃物を持って家に侵入してきたら、椅子で応戦して窓から逃げようとシュミレーションしている。

黒い服を着た、軍隊みたいな人に銃で追われる夢を見ると、決まって路地裏を駆使して逃げ、隣の家の屋根裏部屋で息を潜めた。
クラスメイトが諦めてやられる中、私は最後まで逃げて隠れた。ただ夢だと、走るのがとても遅い。スローモーションくらいのスピードでしか走れない。それでも必死に逃げればやられる事はなかった。

私は、クラスの友達に夢の話をした。
その友達は、夢の中で もういい 。と諦めていた。私はその手を引っ張り生き残るんだと一緒に逃げた。逃げる時にスローモーションになるのはよくある事らしく、わかる〜って笑った。
話を聞いていた友達は、現実でも生きなくていいと思うだろうな。1人だけ生き残ったら嫌だし。と言った。私はそんな考え方をする人もいるんだ!と驚いた。生き残りたいと思う事は、はごく当たり前の考えだと思っていた。

また、違う友達は物心がついた頃から、いつ死んでもいいと思っている。と言った。
死にたい訳ではないらしいが、生きてるから生きてるという感覚らしい。私はとても不思議で、家族がうまくいってないのか?など、質問をしてみたが、特に大きな不満はなく仲良く暮らしている。物心ついた頃から死んでもいいと思っているから、理由はない。と言っていた。
悲観してる感じもなく、そんなに生きたいとか思う事ある?と不思議がっていた。

私は常に生き残りをかけた戦いをしていた。
私の家はサバイバルだ。物心ついた頃からどう動くかで、今後を左右する事を知っていた。おばあちゃんの機嫌を損ねたら夜のおかずはなしになり、お米と味噌汁だけになりかねない。
おじいちゃんの機嫌を損ねたら、湯のみが飛んでくるかもしれないし、母親が怒りだしたらヒステリックでたまったもんじゃない。

私は私の与えられた環境を生き抜く為に、知恵を使い生き延びてきた。
中学校の帰り道、立ち話をしてしまって門限の18時をすぎた時は、玄関で待ち構える母親に、参考書を探していたと嘘をついた。

部活をして帰ると、どうしても18時を過ぎてしまう。なんでこんなに遅いんだ。と凄い剣幕でまくしたて、学校に抗議の電話を始めてしまう。18時を1分たりとも過ぎることが許せない母親だった。本当にクレイジーだ。
18時半までになら確実に帰って来れるからと、門限の延長を求めたが否決された。
私は、部活に行ってるフリをして友達の家や図書館で過ごし、18時までに家に帰るようになった。

しかし、私が駆使する知恵を脅かす存在がいた。それが姉だ。
姉は、参考書を探していた。と嘘をつく私に、なんの参考書なのか。持っている友達がいるかもしれないから詳しく教えて。と言い、たじろむ私を見て、嘘なんじゃないかと追い詰めた。

部活に行っているふりをしている私を、スーパーの近くで目撃したと、あろうことか、みんなで晩御飯を食べてる時に言い出した。
今日は自由参加だったから自由にしてた。と苦しい言い訳をして自分の部屋に逃げた。

決まっていつも、嘘の矛盾点を指摘するのが姉だった。それなのに、もっと上手に嘘をつきなよ。バカなんじゃないの?と嫌味を言いう。
困った時はお互いに一緒にいたことにしよう。と、姉に言われた時だって、私は心当たりのない、お姉ちゃんと一緒だったんでしょ?には全て、うん。と答えた。

ある日、私は門限18時を5分過ぎてしまったので、姉とすぐそこの自動販売機でジュースを買っていたことにしようとした。姉は、行ってないよ?ここに居るし。ねぇ。と母親と顔を見合わせた。姉よ...私を庇う気はないな。私は怒られる覚悟を決めた。確かに、私のつく嘘は下手であり、姉の裏切りは見事だった。

姉は上手に、狭いこの家という社会を渡っていた。私はなんとか生き延びるのが精一杯だった。

世の中は、死にたくないと思い生きる人。死にたいと思い生きる人。上手に生きる人。下手なりに生きる人。さまざまである。

そして私は、今日も生き残りたい。と思いながら生きている。私にとって毎日はサバイバルなのだ。
必ず道に迷うの私にとって、これから乗る電車さえもが、サバイバルなのだから。

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