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セッション定番曲その62:Little Wing by The Jimi Hendrix Experience, etc.

ロックセッションでの定番曲。腕に覚えのあるギタリストがリクエストして、イントロを弾き始めると一気に空気感が変わります。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:イントロクイズ

冒頭の12フレットのダウンアップストローク一発で、この曲だと分かる特徴的な出だし。その後フレットを幅広く使ってイントロが演奏されます。原曲のスタジオ録音版の長さがたった2分半しかないことから、この30秒以上のイントロ部分がいかに重要視されて書かれたか分かります。

イントロクイズで出題されたら、ロックファンとしては絶対に早押しして正解したいですね。「ダッ、キキューン」!

ポイント2:Jimi Hendrixの歌

Jimi Hendrixについて書かれたものは無限にあるので、ここではその「歌」について。一般的な意味での「上手い歌」では決してありませんが、楽器を弾きながら歌う人ならではの演奏との一体感が素晴らしいと思います。いくら「歌唱力のある人」がJimiの曲を歌ってもJimi Hendrix自身の歌には適わないということ。何よりも当時の英国人ミュージシャン達はその歌声に「ブルース」を感じたのではないでしょうか。

彼の呟くような語るような歌い方では、何より歌詞の内容がとても大事になります。それを伝える為のギターであり歌。Bob Dylanもそうでした。

現代はカラオケの普及で「歌の上手いヒト」はとても増えましたが、それとは別に「説得力のある歌」を歌える人が増えているかというと・・・。

ジャムセッション現場では、楽器を弾く人もどんどん歌いましょう。変に分業制が進んでしまっていますが、自分のパート以外のことをやってはいけないなんてルールは無いし、どのパートでも自分より上手い人が参加しているのは当たり前なので、「自分にしか出来ないこと」をやりましょう。楽器を弾きながら歌う人の歌には(本人は苦手意識があっても)ちゃんと説得力があります。その曲をどう解釈しているかが表われます。

歌うことで楽器演奏にも良い影響があるし、またバッキングに回った際にも「歌う人」の感覚が分かるので、アンサンブルがより良くなるはずです。

ポイント3:原型?

本格デビュー直前の1966年に録音したこの曲が「Little Wing」の原型という説があります。

Curtis Mayfield風のスイートなソウルバラードで平凡な曲ですが、自由に動き回るギターなど確かに面影がありますね。逆に言うと、この後のわずかな期間でJimiはロック的な曲作りや演奏に進化出来たということですね。

ポイント4:小さな羽

この歌詞のイメージを理解する為には、いくつかの前提を理解する必要があります。

まずは1960年代のカウンターカルチャー界を席巻したドラッグカルチャーです。当時は違法なモノとまだ合法だったモノだったものが入り混じっていて、アルコールとは異なる酩酊状態の中でパフォーマンスをしたり創造活動をしたりと様々な実験が行われていました。英国でいきなりスターになったJimiの周辺にも彼にドラッグを勧める輩が沢山いて、精神的にリラックスしながら幻想の世界に浸ることで、曲を作ったり歌詞を書いたり。この曲の歌詞には明らかにその影響がみられます。

Well she's walking through the clouds

Butterflies and zebras, And moonbeams, And-a, fairytales
That's all she ever thinks about

Riding with the wind

などなど、夢見心地の表現が並んでいます。
歌われているのは、人間のかたちをした妖精か、妖精のかたちをした人間か・・・。自分を救ってくれる優しい女性。輝く笑顔。

もうひとつは1960年代には(今では想像も出来ないくらい)大きな影響力を持っていたBob Dylanです。デビュー当初から「詩人」として評価され、そのまでのポップ音楽の陳腐な歌詞マナーから逸脱した「ちゃんとした歌詞」を書いて歌う人でした。今となってはなかなかその衝撃を実感することは難しいですが、古いジャズスタンダードやロックロール、ポップスなどの甘ったるい、紋切型の歌詞と聴き比べてみると、Bob Dylanの歌詞、そのに籠められた現実的なメッセージの強さと革新性が分かります。彼も「Blonde on Blonde」の頃になるとドラッグカルチャーに浸った歌詞を書くようになっていました。

表現者になりたかったJimi Hendrix、音作りの面では自分のギターでいくらでも表現することが出来た、では歌詞はどうするという場面で、敬愛していたBob Dylanを参考にしたのだと思います。

ポイント5:2分半

原曲はたった2分半しかありません。
プロデューサーのチャス・チャンドラーはいつまでも弾き続けるJimiを指導して「3分以内のコンパクトな曲」にまとめ上げることを要求していたようです。短期的にはそれが当時のシングル盤のスタイルだったりラジオのオンエアー適性だったりに向いていたということですね。


この曲もギターソロがノッてきて、これからというタイミングでフェードアウトしてしまいます。残されたライブ録音でも4-5分の演奏が多いので、ちちょっとイメージが違いますね。今セッションでやるとしたら延々とギターを弾き続ける感じになりますよね。

チャス・チャンドラーの影響力が薄れた次のアルバム以降は長尺の曲やらジャムセッションをそのまま録音したようなものも増えますが。

ポイント6:Jimi Hendrixの音

エフェクターを掛けた揺れる音、ステレオの左右に素早く振った音、素早いトレモロピッキング、トレモロレバーでゆっくり音程を変えた(下げた)音、そして何より極端に歪ませた音。ライブステージでは(初期の)ライトショーも使い、「疑似ドラッグ体験」を再現していました(観客や関係者の中には疑似じゃない連中も沢山いたと思いますが)。うまく効くと視覚がストロボライトのようにチカチカして、色彩豊かになって、それが音の揺れと同期して、幻想的な世界に没入していける・・・

そんな中で聴く幻想的な歌だから不思議な説得力があったのでしょうね。

基本的には今でもドラッグカルチャーの無い、クリーンな日本の環境では、この当時の「体験」を本当に理解、実感するのは難しそうです。

ポイント7:発音のポイント

はっきりとクリアに歌えばよいという歌ではないのですが・・・

With a circus mind that's running round
circus」はどちらの母音も口を大きく開かない音です。

「running round」はちょっと口が回らなくなる歌詞ですね。「R」音が続けて出てきます。

Butterflies and zebras
「zebras」は「zíːbrəz」で「z」音が特徴的です。

Riding with the wind
文頭の「Riding」の「R」音はちゃんと出しましょう。

「wind」の「w」音は唇を思い切り尖らせてから出すとうまくいきます。直前の「the」からの切り替えというか口の動きを素早く。

ポイント8:様々な演奏

まずは本人のライブ演奏、どこまで未加工のものかわかりませんが。
ゆったりとしたテンポで、噛み締めるように歌っています。
ギターソロの中での音色の切り替えが素晴らしいですね。


もうひとつの有名なアレンジとして、Derek & The Dominosのスタジオ録音版があります。Jimiの死後まもなく発表されていますね。キーボードとギターのダビングでの分厚い音、Eric ClaptonとBobby Whitlockの熱いデュエット。このイントロとエンディングは分かりやすいので、セッションではこのバージョンも人気です。


Derek & The Dominosのライブ録音版。ギターがEricひとりな分、キーボード(オルガン)の音が目立ちます。


Stingが歌うバージョン。分厚いオーケストラアレンジになっています。
キーも上がっています。


Stevie Ray Vaughan & Double Troubleによるもの。歌抜きのインストで、ギターがたっぷり聴けます。


The Corrsによるアコースティックアレンジ


Gil Evansによるオーケストレーション版、Jimiがもう少し長生きしていたら、マイルスと一緒にやるのも聴けたかもしれませんね。


■歌詞

Well she's walking through the clouds
With a circus mind that's running round
Butterflies and zebras
And moonbeams
And-a, fairytales
That's all she ever thinks about
Riding with the wind

When I'm sad, she comes to me
With a thousand smiles she gives to me free
It's alright, she said, it's alright
Take anything you want from me
Anything, anything
Fly on, little wing

Yeah, yeah, yeah, yeah, little wing


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