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詩|何にせよ愛にいきつく(改)

つぶれた祠の裏で
待ち合わせたつもりが
このおかしな磁場のせいで
やっぱりうまくいかない
生きていればよくあることね
まして
あなたのような人とであればなおさら

線路沿いの道を歩いていたら
今年初めてのあげはを見つけた
三月の日曜日 半袖でもいいぐらいの陽気
この街に降り注ぐ
しあわせそのもののひかり
誰かが繰り返し繰り返し弾くピアノの音

わたしは空っぽなんじゃなくて、
空白を抱えている
空っぽを、抱えることを、選んでいる

これはこれで悪くない。

手持ち無沙汰で立ち寄った喫茶店の窓際で
アイスコーヒーを待つ

「何にせよ愛にいきつく」
尊敬している詩人からの返信はそう結んであった
結局のところ 
わたしは諸手を挙げて降伏するしかない
その真実に逆らわず生きるのがいい
感情を無視したり捻じ曲げたりそんなのは
無意味というよりたぶん不幸、
それから不健康を呼んでしまう

何にせよ、愛に、いきつく
わたしは頭の小箱から言葉の破片を取り出す
昔よく食べた小箱入りのキャラメルみたいに
つるんとしたパラフィンに包まれた言葉の破片が
この頭のなかに いくつか詰められていて
それは解けないなぞなぞみたいに
わたしを退屈からしばらく遠ざけてくれる
抹茶とミルクのマーブル模様のそれを一粒
取り出して 口に含む

感情は自由
ただし 行動は 制限がつく
大人だからね

テーブルの占いマシンに100円硬貨を入れて
くるくるに巻かれたおみくじを開く
大人になったら
占いなんかみないと思っていたのに
いくつになるまで気にしちゃうんだろうね
わたしは誰かのせいにしたいんですきっと、
諦めるにせよ進むにせよ

運命って軽率に変わるから
接触する時のちょっとした角度の違いで

薄い文庫を一冊読んだら
もう帰りの電車の時間
あなたはたぶんまだ眠りのなかね
河津桜の下を一緒に歩きたかったな
ビール片手に、コロッケでも齧りながら


あなたはどうですか、
線路の向こうの夕焼けに
呼びかける声の先で
酔っ払った春の夜が
寝返りをうって
桜の花びらにまみれ
流れついたたくさんの愛を
堰き止めている

そろそろ起きて

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