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「言葉の周辺」

「言葉の周辺」其の一

 そもそもわたしは言葉を知らない。これは空気の波、振動、変容なのか。言葉を知らぬことは、やはり具合が悪い。知っている方がもっと具合が悪いとも言える。今ここに喋っていることを書いてはいるが、これが本当に言葉かはよく分からない。語彙が豊富になると病気の人が増える。少ない言葉しか知らなければ、本当は幸せかもしれない。しかし、そう単純でもなさそうだ。言葉の周辺から言葉を感じてみる。考えが発生するのかもやはりあやしい。しかし言葉で考えているので仕方がない。
 象形文字なら、わたしはよく理解しているようにおもう。観たものを絵にしてみて、他者へ伝える。一番説得力がある。言葉を知らなくてもおおよそ伝わる。あるがままの形をそのまま表現する。潔く清々しい。それでも、ある象形文字は何を表しているのか分からないことも多々ある。その方が多いかもしれない。あるがままに成る前には相当な時間と生き物の進化、奇跡的なことが起こったことは間違いない。
 周辺をみることは、言葉以外の交流の仕方をみる必要がある。イルカが超音波を発して交流していることや、「目的地への道順を教えてください。」と聞かずとも、ハトたちは磁覚をつかって目的地まで飛んでいく。木々もどうやらお互い会話をしているらいしいのだ。否、しているに違いないのだ。詰まるところヒトは言葉に対して漠然と、また暗黙の了解のなかで、一義的に言葉の単語そのものを信じてしまっているきらいがある。秋の虫たちだって、色々な方法で発音し交流している。どうもイルカや鳩、木々に虫たち、彼らをほんの少しばかり観察していると、毎年変わっているが全く変わらぬ姿勢で交流の仕方が超越的であることに気がつく。無駄が一切ないのだ。やっぱり潔く清々しい。風が通り抜けて本来の空気の波を感じる。


「言葉の周辺」其の二

 2時間弱集中して10枚くらい水彩画を描くと、気持ちが妙な領域に落ちる。膜とも泡沫とも違う、自己離脱を本能的に感じている何かなのか。虚脱感。脱力感。その感覚から生まれる抜けた感じも出るのではともおもう。はい、そうです此処が言葉の外ですよと、何処からともなく囁きが聞こえてくるようですよ。
 とまぁ、言葉で考えていること自体が嫌であるとか、面倒なことよのぉ〜とか、嗚呼、余りある時間だと、理解不能な辺境に忘れ去られた余裕、余剰、その不和。
 自己を捨て切ったところ、ほらやっぱりバッサリ切ったらどうだね?何千年も前からおっしゃられているというのに。全く、空ですね。空。空隙が振動してますよ。ほら、見上げれば鳥の羽ばたきひとつづつが、全ての予兆。全ての前夜であると。風神さまがね、団扇でも良いですよ、一振り、風を起こしなさった。感覚も観念も、その一振りでしなやかに、スローモーションで消え失せるのです。はぁ、何と潔き。極め付けの清々しさ。責任責務は一切無し。全ての外へ飛び出て呼吸せんといかんぜよ、諸君!と、お地蔵さまが言うはずもないが、聞こえてくるで、仕方ないではありませんか。
 今日一日一回でも、美味い味噌汁と白飯を食せたならば、それを幸せと言わずして何を幸せというのでしょうか。そのあったかい出汁のきいた味噌汁で身体が芯から温まる感覚。心がほぐれます。分かれてしまっても、食することでまた解れて一時繋がっている。これが生命の現象です。白飯の美味さにほっぺが落ちる。お米一粒を噛みしめながら、縄文時代の家族の団欒を想像する。国家も貨幣もない。あるのは野生と恋愛、そして少しの争い。村が徐々に形成されていく気配を焚き火の煙で燻す。気配のない都会では言葉の煙ばかりが充満して鬱屈し虚無に堕ちる。言葉の外へ出て、私もあなたも今食べているお米自体に成り切ってごらんなさい、食べてるのか食べられているのか。それすらも何にも分かっちゃいないのです。虚無もひっくり返して出来る新しいメビウスの輪を作って遊ぼう。いくら足掻いてみても虚しい、空しいとつぶやくのをひと段落させて、空の隙間で遊んでみるしか、やることなし。
 今年の秋は落ち葉がはらりと落ちる度に、落ち葉そのものに名もなきご先祖さまを投影している日々で御座います。蟻を見るなり、その蟻がわたしなのだとおもい、団子虫を手のひらに置いてみれば、感じるはずのない団子虫の体温を感じようと試みたり、石を見つければ、机に並べたりと、例外なくわたしのような無知無能なヒトは、蟻に成り切ることも心許ない。ほぼ失敗です。それでもしかし、味噌汁と白飯のために今日もただひたすらに絵を描く以外の能がないのでございます。見るにたえない乱文乱筆をお許しくださいね。言葉の周辺のはずが、ずいぶんと沼にはまったようであります。
 風呂にでも入って汗を流しましょう。だから言葉さんもたまには、いやいや毎日お風呂にでも入ってほぐれてもらった方が良いなと思っています。

 ではまた。

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