知ってる!環境のこと(第56話)

⁂データや内容は、当時のものとなりますので、ご理解ください。

こんにちは、お正月はどの様に過ごされましたか?今回は、昨年、タイ政府観光庁が主催するThailand Tourism Awardsの自然観光地部門北部地区で、最優秀賞を受賞したナーン県が誇る北部タイ最大の国立公園、ドーイプーカー国立公園とタイルー族の集落バーンローンゲーをご紹介しましょう。
 
Thailand Tourism Awards
 タイ政府観光庁が、観光業界の健全な発展、活性化を目的に、2年に1度開催している観光業界関係者を表彰する祭典です。授賞式は、世界観光デーの9月27日に行われ、マスコミや宿泊施設、観光地、ガイドなど6部門から最優秀賞63賞、優秀賞75賞が選出されます。2008年は第7回目となり、審査基準には、「環境」や「温暖化対策」、「住民参加型」、「足るを知る経済」、「社会的責任」等のキーワードがあげられていました。因みに、文化観光地部門、北部地区では、最優秀賞は該当なしでしたが、ナーン県プア郡ウォンナコン区にあるタイルー族の集落で、ドーイプーカーへ向かう途中にある村、バーンローンゲーの他、チェンマイのバーンライパイガーム(テキスタイル博物館)やスコータイのラームカムヘン国立博物館など5箇所が選ばれています。
 
バーンローンゲー
ナーン県プア郡ウォンナコン区にあるタイルー族の集落で、ドーイプーカーへ向かう途中にある村です。住民は、過去中国のシーサパンナから移住して来て以来、民族の伝統文化を脈々と受け継いています。観光客は、使用する言語は勿論、宗教儀礼や伝統的慣習など、タイルー民族独特の生活様式をそのまま体験することが出来ます。また、村の中心にあるお寺、ワット・ローンゲーは、1700年代に建立されたとされる歴史あるお寺で、貴重な壁画が残る他、伝統的なタイルー様式の造りとなっており、2007年には王室系のタイ建築教会が主催するArchitectural Conservation Awardの宗教施設部門で、表彰されています。また、文化省が主催するタイ全国のタイルー族集落の伝統文化保全プロジェクトにも参加しており、村を挙げてタイルー族の伝統文化保存に努めています。
 
 
ドーイプカー国立公園
ナーン県の北東部に位置する最高峰、プーカー山(標高1980m)を中心とする国立公園で、1999年に正式に国立公園として登録されています。総面積は、1704 k㎡と、北部タイ最大の広さを誇り、7つの郡にまたがっています。公園では美しい大小の鍾乳洞や国内最長80kmにも及ぶ急流下り、140mの落差のある滝など様々な見所がありますが、生物多様性が豊かなことで知られ、自生種から世界でも希少な植物など、様々な生態系に生きる動植物を観察することが出来ます。特に、長さ約3.5kmのネーチャートレイルでは、国立公園最大の呼び物であるチュンプー・プーカー(学名: Bretschneidera sinensis Hemsl)や古代ヤシのソリテアクジャクヤシを見学することが出来きます。
チュンプー・プーカーは、標高1500m付近に植生する落葉樹で、高さ10~20mにもなり、2~3月頃にピンクの花をつけます。以前ベトナムやラオス、カンボジア、中国でも植生が確認されていましたが、1958年以降はここでしか植生が確認されておらず、大変貴重です。一方、ソリテアクジャクヤシ(学名:Caryota sp)は、大きいもので40mにもなる巨大な古代ヤシで、このヤシもタイでは、ここでしか確認されていません。
毎年、乾期(特に12-1月)を中心に、10万人以上の観光客が公園を訪れており、Thailand Tourism Awardsの受賞で、今後観光客の増加が予想されますが、公園の収容能力にはまだまだ余裕があり、昨年7月に発表された、北部チェンマイ県のホワイナムダン国立公園(宿泊客1134人、日帰り客850人)やドイインタノン国立公園(800人、2500人)など、全国10カ所の国立公園で環境保全のために行われた入場規制の動きはまだありません。
 
公園管理は
ドーイプーカー国立公園は、公園の管理運営に、住民が積極的に参加しており、官・民一体となった運営体制が確立されています。今回の自然観光地部門、北部地区で、最優秀賞に選ばれたのも、参加型の運営体制が高く評価されたからです。ナーン県の地元のインタビューに答えたプーンサティット・ウォンサワット園長の記事をご紹介します。
 
「今回の受賞は、これまでの努力が報われた形で、大変喜ばしいことであり、このような豊かな美しい自然を残す観光地が自分たちの県にあることは、ナーン県人の誇りにもなっている。我々は、公園の運営管理に当たって、周辺住民の参加を特に重要視してきた。公園の運営管理方針を決定する公園運営開発委員会には、公園周辺地域の篤農家はもちろん、環境系のNGO等も参加し、全体会合の時は、まるで国会のような大所帯となる。観光客の案内役も、研修を受けた多くの周辺住民が買って出てくれている。そして現在は、若者や学生にもこの動き広がっており、環境教育にも役立っている。このような公園運営への住民の参加は、広大な敷地に対し、絶対的に不足しているスタッフの穴を埋めてくれるという利点があることは勿論、「自分たちの公園」という住民たちの所有者意識を高揚させ、地域の自然を守っていく活動への参加意欲を掻き立てることにも貢献している。更に、ガイド料や地域の特産品を販売することにより、周辺地域への経済効果も期待できることから、耕作地拡大のための森林伐採や保護地区への不法侵入も減少していくと思われる。」
 
今後、観光客の人数が増えたときに、環境保全のため、入場制限を設けるのか等、公園の運営は複雑さを増すことになります。以前、全国の国立公園の運営を長期契約で民間業者に委託する政府の計画が、住民やNGO 、有識者等の激しい反対運動を経て凍結されましたが、公園周辺の住民たちが、運営に参加しているドーイプーカー国立公園は今後の国立公園のあり方を提示しているように思えてなりません。皆さんもナーン県へ足を運ぶことがあれば是非、ドーイプーカー国立公園を訪れてみてはいかがでしょうか。
 

CHAOちゃ~お ちょっとディープな北タイ情報誌
(毎月2回10・25日発行)2009年1月25日第139号掲載

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