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旅10-僕らのことばがアイラ・ウエーブであったなら

『僕らの言葉がウイスキーであったなら』は、村上春樹さんの小説。彼の、アイラ・スコッチ&アイリッシュ・ウイスキーへの想いが写真付きで語られている。是非一度本を開いてみてほしい。それを捩ったこの本文は、僕のアイラ島日記であります。

“Islay” 皆さんはこれが読めますか?
「アイスレイ」…ではありません。答えは“アイラ”。スコットランドの言葉。アイラ島はスコッチの産地。スコッチ島。人に「僕はウイスキー好きなんだ」というが、正確にはスコッチ、更に正確にはアイラ・スコッチ好きなのだ。ピート(泥炭)と潮の香りが。ということで、僕ら3人はアイラ島へ向かったのであった。
僕ら3人とは僕の他にナガトモ君とユウコさん。実は今回ブダペストからロンドンに飛んだのも、ナガトモ君とこの島に行くことにしたからだった。「ロンドン行くよ。アイラ島への行き方わかる?」とメールし、トントン拍子でアイラツアーが決まった。ユウコさんとは、ナガトモ君でさえ会うのは3回目とのことだった。アイラ島へ行くことに乗り気になって同行することになったようだ。勢いがないと行けないくらい、この島は遠い。


朝の飛行機でグラスゴーへ。いいバスがなく2時半起きでちと眠い。
グラスゴーでプジョー308に乗り込み北へ。A82を北へ北へ。スコットランドは緑が美しい。緑だけなく、オレンジが美しい。氷河地形というのか。大地にはゴロゴロと尖った岩が転がっている。時たま車を降り、景色を見ながら写真を撮る。大地がオレンジっている。自然公園Glencoe。輝いている。キルトを巻いた男性。絵ハガキも購入。入り江付近では橋が架かっている。海の青と草の緑は日光で映える。途中でHaggisというスコットランド料理を食べる。スパイシーでグッド。くるっと大回りしたからでもあるのだが、夕方船が出る1時間以上前にKennacraigの港に到着。

辺りを散歩。車から見つけたウサギを探す。寒くなって車に戻り横になったら爆睡。車が動き出し目が覚める。乗船するのだ。乗船しても横になって眠る。睡眠不足が補われる。

アイラに到着。真っ暗。船から降りた車は一列になって暗闇を進む。疲れた。今日はおしまい? そんなことはないよ。君を忘れてないよ。レストランで“Bowmore Limited Edition 16yrs 51.8%”を頂く。やはり僕を迎えてくれるのは君だよな。グラスに注がれた“命の水”こと“ウイスキー”は美しき透明な樽の色で、最高のピートの香りがやってくるのは必然でありつつFantasticなのだ。

翌日。本日は日曜日。
残念ながら醸造所は全部閉まっているらしい。否、ツアーが開催されていないだけで、結局のところは観光客のいない、素の醸造所が見学できる好機だった。
この島の見どころはアイラ・スコッチだけではない。羊も牛もいる! 島中にいる! 彼らが居ない場所がないくらいいる。島は緑い。ホント、緑い。どこもきれいな緑色。青々とした緑。僕ら3人はまず南へ向かう。白い灯台。1825年に建てられている。ここにも赤い公衆電話がある。羊は僕らが寄ると逃げる。牛は、車が来てもゆっくりと脇に寄る。

BOWMOREへ向かう。島の幹線道路はちゃんと2車線。BOWMOREは白。このメーカーは僕の一番好きな銘柄であり、町の中心部にドーンとある。感慨深い。中には入れないが、建物の周りからピートを含んだ香りが漏れている。
島の南端へ。ここには3つの有名な醸造所がある。


LAPHROAIG、LAGAVULIN、ARDBEG。
LAPHROAIGは蒸留所のドアが開いており、中に人がいた。入ってもいいという。無料見学成功! 高温なので香りが漏れまくり。ついでに・・・、泥炭を頂いてしまいました。サハラの赤い砂、死海のつららに続く、My collectionの仲間入り。LAGAVULINにも入れた。この島の人はやさしい。拒否はされない。海のそばにどの醸造所も建つ。泥炭の産地と潮の香りは風味の素。BOWMOREと島の南部、ちょっと塩の匂いが違う。加えて、それぞれの醸造所の泥炭採掘場所、レシピ。そして寝かせ方。赤ん坊の寝かせ方以上に個体差を生む。それぞれの味。僕が昨日飲んだ16年モノ。こち亀・日暮さんの4倍眠っていたモノ。



北へ北へ。
今、アイラ島にはグリーンランドから3万羽のgooseが飛来中。一羽が飛び出すと、皆が大空へ。圧巻の模様。ビーチで夕日。今度は赤い。波は荒い。ナガトモ君と砂浜でかけっこ競争をする。子供みたい。(男2人と女性1人。何となく青春の1ページのような雰囲気でもあるが、その後関係が深まったとかなんてことが全くない。)
気持ちイイ。そういえば彼とはこの7月にも錦帯橋の下で泳いだっけ。そして、夜はもちろんシングルモルト。んー、僕の表現力不足が否めない。この体験は直に語りたい。アイラ・スコッチを傾けながら。

表題にある、“アイラ・ウエーブ”。
狭い道を車がすれ違う時にする、
ふっと掌を上げる挨拶のこと。
車がすれ違いざまに起こる“波”は優しく、
吹き付ける空気の“波”は清々しく、
アイラ島の海岸に寄せられる“波”は荒々しく、
そして
喉元を通り過ぎる“波”はそれらを凝集した彼らのことばなのだ。

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