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「収容に代わる監理措置」での入管の目論見

昨晩、2023年入管法案は2021年と中身同じで、収容に代わる監理措置も、少し変わったように見せかけて、実際には廃案になった2021年と同じということを書きました。

今日は、その狙いについて考えてみたいと思います。

「原則収容主義」からの脱却アピール

まずはこれですね。良いこともしているのだよ、というアピールです。これを鵜呑みにしている報道も目につきます。

実務は、自分たちが楽になるだけ

ですが、昨日も書いたとおり、収容するのか、監理措置にするのかは、主任審査官に委ねられています。要件も「その他の事情」を考慮して主任審査官が「相当と認めるとき」とされています。
2021年法案で散々批判された監理人による入管へのチクリ(生活状況報告義務)も、主任審査官が「必要」と認めたときとされました。

現在も、在留特別許可のために出頭申告した方については手続上は収容令書を発付しますが、即時仮放免許可をしています。退去強制令書が出された場合も、事情により仮放免を継続したり、収容したりしています。「収容に代わる監理措置」ができても、現状の運用と同様にすることが可能なのです。

では、どこが違うかというと、現在、仮放免された方々に対しては、入国警備官が動静監視をしています。しかも、法律上の根拠なしに。

監理措置制度ができれば、この監視の役割を民間人に委ねることができるのです。

過料や刑事罰による威嚇

そして、監理人が報告をしなかったり、虚偽報告をした場合には、過料の制裁(罰金みたいなもの)を課すことができます。
現在の法律では、仮放免された方が何らかの理由で入管に出頭できず、「逃亡」したとして仮放免を取り消された場合は、納めていた保証金は没収されるだけです。ところが、法案が通ってしまうと、監理措置で外に出られた人が逃げた場合には、保証金の没収だけではなく、刑事罰にも問われることになります(2023年法案72条3号)。
さらに、就労についても、現在、仮放免中で仕事をしたのが発覚した場合には仮放免が取り消されて収容されてしまうのですが(それ自体、間違っています)、2023年法案では就労許可無く働いた場合は刑事罰が科されることになります(法案70条1項9号、10号)。

国連の勧告に従わなかった理由

このように、「収容に代わる監理措置」は、これまでの実務運用をほとんど変えず、自分たちの裁量で収容するかどうかを決められ、面倒だった動静監視を過料による脅しを背景に民間人に押しつけ、刑罰によって無許可就労や逃亡も防止しようというものなのです。

今より厳しくしているだけではないですか。

こうしてみると、効果的な司法審査を導入せよとか、上限を設けろという国連勧告を無視した理由がわかります。

司法審査を入れてしまったら、これまでのように自分たちの掌の上で全てが決められなくなってしまいます。上限を設けたら上限を超えた方のコントロールができなくなってしまいます。

「収容に代わる監理措置」の真の目論見は、これまでの実務運用を殆ど変えず、民間人に監視の役割を負わせ、刑罰をもって被収容者を従わせようというものなのですから、自分たちがコントロールできない領域をつくるのは、その目的と相反することになってしまうのです。

結論


「収容に代わる監理措置」は、外国人の自由を拡大するための「改正」ではありません。現行の実務運用を温存しつつ、入管が楽するために監視の役割を民間人に負わせ、刑罰をもって外国人を従わせようとするものなのです。

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