見出し画像

「そこが知りたい! 入管法改正案」について その5 原則収容主義からの転換どころか、監視を市民に担わせ、従わなければ罰金


「そこが知りたい! 入管法改正案」の「2 現行入管法の課題(入管法改正の必要性) (2)課題②(収容を巡る諸問題)」では、原則として送還までの間収容する、なので「送還忌避者」については長期収容が生じる、解放を求めてハンストや治療拒否などの問題が起きているなどとしています。

人ごとみたいに言ってんじゃねえよ!

そもそも、原則収容主義(=全件収容主義)という解釈がおかしいのですが、その点、詳しくはこちらの論文や、書籍をご覧下さい。

大橋毅・児玉晃一「全件収容主義」は誤りである

入管の解釈に従っても、仮放免を活用すれば、長期収容は回避できます。かつては、当局も1年を超えたらやばいと考えて仮放免が認められていました。

仮放免に関する主な通達・指示(難民支援協会作成)

ところが2018年2月28日に、悪名高き仮放免指示が出されます。これによって、刑務所から出所した人や難民申請者の濫用と当局が認めた人については、原則として仮放免が許可されないことになりました。

長期収容の原因をつくりだしているのは自分たちなのに、何を人ごとのように言っているのでしょうか?

「収容に代わる監理措置」では原則収容主義の転換にはならない

この点に関しては、既にnoteに書いたところですが、連続性もあるので、ほぼ同趣旨になりますが、ここでも書いておきます。

「そこが知りたい!入管法改正案」「4 入管法改正案の概要等 (3)収容を巡る諸問題の解決」では

➀ 収容に代わる「監理措置」制度を設けます。
 親族や知人など、本人の監督等を承諾している者を「監理人」として選び、その監理の下で、逃亡等を防止しつつ、収容しないで退去強制手続を進める「監理措置」制度を設けます。
 「原則収容」である現行入管法の規定を改め、個別事案ごとに、逃亡等のおそれの程度に加え、本人が受ける不利益の程度も考慮した上で、収容の要否を見極めて収容か監理措置かを判断することとします。

としてあります。

確かに、収容令書による収容段階も、退去強制令書が発付された段階でも、収容をするのか、監理措置に付して収容をしないのかを選ぶことにはなりました(法案39条2項、52条8項)。
でも、今の法律も

39条1項
 入国警備官は、容疑者が第二十四条各号の一に該当すると疑うに足りる相当の理由があるときは、収容令書により、その者を収容することができる。
52条5項
 入国警備官は、第三項本文の場合において、退去強制を受ける者を直ちに本邦外に送還することができないときは、送還可能のときまで、その者を入国者収容所、収容場その他出入国在留管理庁長官又はその委任を受けた主任審査官が指定する場所に収容することができる。

とあります。太字にあるとおり、「できる。」と書いてありますから、収容しないこともできるんです。収容するかしないかの選択肢はあるんですよ、法律上は。
でも、出入国在留管理庁は「できる。」と書いてある条文を捻じ曲げて、「しなければならない。」と解釈し、「原則収容主義」とか、「全件収容主義」という建前を主張し続けてきたのでした。
なので、収容するか、監理措置をして収容しないか、という選択肢ができたことは、実は現行法と変わりがないのです。
そして、実務上も、オーバーステイの方が在留特別許可を求めて自ら出頭した場合には、形式上収容令書を発付し、その場で仮放免許可をして拘束はしないことは一般に行われています。収容令書段階の監理措置は、この実務運用を追認したものにほかなりません。

収容か監理措置かは主任審査官の思うがまま

「そこが知りたい!入管法改正案」では、「逃亡等のおそれの程度に加え、本人が受ける不利益の程度も考慮した上で」判断するとされ、法案も、

「(主任審査官は)容疑者が逃亡し、又は証拠を隠滅するおそれの程度、収容により容疑者が受ける不利益の程度その他の事情を考慮し、容疑者を収容しないでこの章に規定する退去強制の手続を行うことが相当と認めるとき」(2021年法案44条の2第1項)

となりました。太字の部分が2021年法案から追加されたものです。
外国人の受ける不利益の程度も考慮されるよう明文で書いてもらった、わーい、と喜ぶべきかというと、全くそんなことはありません。無意味です。だって「その他の事情」に、そんなことは当然含まれているのですから。一つも良くなっていません。
退去強制令書段階の監理措置も「逃亡し、又は不法就労活動するおそれの程度その他の事情」だったのが(2021年法案52条の2第1項)、「逃亡し、又は不法就労活動するおそれの程度、収容により容疑者が受ける不利益の程度その他の事情」(2023年法案52条の2第1項)となっただけで、全く同じです。
結局、主任審査官(地方出入国在留管理局長とか次長が指名されています)が、「その他の事情」を考慮して「相当と認めるとき」でないと収容されてしまうのです。現行法が「できる。」としている収容を、全件、原則としてしなければならないと捻じ曲げて解釈してきた彼らにフリーハンドを与えてしまうのです。どこが原則収容主義からの転換なのか、さっぱりわかりません。

報告義務も過料の制裁も残る

また、「そこが知りたい!入管法改正案」では、「監理措置に付された本人や監理人には、必要な事項の届出や報告を求めますが、監理人の負担が重くなりすぎないように、監理人の義務については限定的にします。」とされています。

確かに、2021年法案では、監理措置を付するには監理人を選ばなくてはならず、その監理人は解放された外国人の生活状況などを入管に報告する義務があり(2021年法案44条の3第5項、52条の3第5項)、それを怠ったり虚偽報告をした場合には過料といって、まあ罰金みたいなものを科される可能性がありました(2021年法案77条の2第3号・4号)。
2021年法案の2021年法案44条の3第5項、52条の3第5項は以下のとおりで、監理人であれば全て生活状況を報告(届出)なければなりませんでした。

監理人は、法務省令で定めるところにより、被監理者の生活状況(中略)を主任審査官に対して届け出なければならない。

この点について、「そこが知りたい!入管法改正案」では、「限定的にします。」と述べていますが、条文は以下のとおりです。

「主任審査官は、被監理者による出頭の確保その他監理措置条件等の遵守の確保のために必要があるときは、法務省令で定めるところにより、監理人に対し、当該被管理者の生活状況(以下略)の報告を求めることができる」(2023年法案44条の3第5項、52条の3第5項)

もうわかりますよね。
確かに2021年法案では全ての監理人に義務付けられていたのが、2023年法案ではそうではなくなっています。でも、主任審査官が必要があると認めたときは報告義務を課すことができるのです。全件について「必要がある」と判断するのは目に見えています。これに対して不服申立の手続もありませんし、訴訟するのも難しいでしょう。
そして、過料の制裁は残ったままです(2023年法案77条の2第3号・6号)。


3か月毎の見直しも期待できない

さらに、「そこが知りたい!入管法改正案」では、「収容の長期化を防止するため、収容されている者については、3か月ごとに必要的に収容の要否を見直し、収容の必要がない者は監理措置に移行する仕組みを導入します。」とあります。

しかし、一度監理措置にしないと判断した主任審査官が3か月後に考えを改めるとは考えにくいです。さらに、その判断を同じ入管の上司である長官が覆すとも思えません。そもそも、3か月の間に被収容者は監理措置を認めてくれ!と請求して判断を仰ぐこともできるのです(2023年法案52条の2第4項)。
さらに、現行法では収容令書は原則30日間、「やむを得ない事情」がある場合にもう30日間延長ができますが(入管法41条)、この延長が内部手続で認められなかったという事例は聞いたことがありません。

英国の移民専門弁護士とかつて話をしたときに、日本では収容するかどうかを決めるのも入管、仮放免で解放するかどうかを決めるのも入管だと言ったら、呆れ顔で、こんなことを言いました。

「入管は彼らを収容したくてしている。そんな入管に出してくれと言ったって出すわけないじゃない。」

全くおっしゃるとおりで、ぐうの音も出ませんでした。ちなみに英国では、収容は入管にあたる国境庁のみで行えますが、入管収容からの解放(保釈)は入管から独立した移民難民審判所が判断します。
ですから、入管内部による3か月毎の見直しは形骸化することが目に見えています。


収容に代わる監理措置による入管の目論見

収容に代わる監理措置を導入した入管の目論見は、以下のとおりでは無いかと思います。

「原則収容主義」からの脱却アピール


まずはこれですね。良いこともしているのだよ、というアピールです。これを鵜呑みにしている報道も目につきます。

実務は、自分たちが楽になるだけ

ですが、先に書いたとおり、収容するのか、監理措置にするのかは、主任審査官に委ねられています。要件も「その他の事情」を考慮して主任審査官が「相当と認めるとき」とされています。
2021年法案で散々批判された監理人による入管へのチクリ(生活状況報告義務)も、主任審査官が「必要」と認めたときとされました。

現在も、在留特別許可のために出頭申告した方については手続上は収容令書を発付しますが、即時仮放免許可をしています。退去強制令書が出された場合も、事情により仮放免を継続したり、収容したりしています。「収容に代わる監理措置」ができても、現状の運用と同様にすることが可能なのです。

では、どこが違うかというと、現在、仮放免された方々に対しては、入国警備官が動静監視をしています。しかも、法律上の根拠なしに。

監理措置制度ができれば、この監視の役割を民間人に委ねることができるのです。

過料・刑事罰による威嚇

そして、監理人が報告をしなかったり、虚偽報告をした場合には、過料の制裁(罰金みたいなもの)を課すことができます。
現在の法律では、仮放免された方が何らかの理由で入管に出頭できず、「逃亡」したとして仮放免を取り消された場合は、納めていた保証金は没収されるだけです。ところが、法案が通ってしまうと、監理措置で外に出られた人が逃げた場合には、保証金の没収だけではなく、刑事罰にも問われることになります(2023年法案72条3号)。
さらに、就労についても、現在、仮放免中で仕事をしたのが発覚した場合には仮放免が取り消されて収容されてしまうのですが(それ自体、間違っています)、2023年法案では就労許可無く働いた場合は刑事罰が科されることになります(法案70条1項9号、10号)。

国連の勧告に従わなかった理由

このように、「収容に代わる監理措置」は、これまでの実務運用をほとんど変えず、自分たちの裁量で収容するかどうかを決められ、面倒だった動静監視を過料による脅しを背景に民間人に押しつけ、刑罰によって無許可就労や逃亡も防止しようというものなのです。

今より厳しくしているだけではないですか。

こうしてみると、効果的な司法審査を導入せよとか、上限を設けろという国連勧告を無視した理由がわかります。

司法審査を入れてしまったら、これまでのように自分たちの掌の上で全てが決められなくなってしまいます。上限を設けたら上限を超えた方のコントロールができなくなってしまいます。

「収容に代わる監理措置」の真の目論見は、これまでの実務運用を殆ど変えず、民間人に監視の役割を負わせ、刑罰をもって被収容者を従わせようというものなのですから、自分たちがコントロールできない領域をつくるのは、その目的と相反することになってしまうのです。

結論


「収容に代わる監理措置」は、外国人の自由を拡大するための「改正」ではありません。現行の実務運用を温存しつつ、入管が楽するために監視の役割を民間人に負わせ、刑罰をもって外国人を従わせようとするものなのです。今より厳しくしているだけです。


本来あるべき改正は、2022年11月3日、自由権規約委員会で勧告されたように、収容はどうしても必要な場合に最小限度に留めること、その判断は司法審査に委ねること、収容期間の上限を設けることです。

収容に代わる監理措置では、原則収容主義から転換したことにはなりません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?