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たわしと散歩する紳士「たわしおじさん」に迫る

2015-07-13

あなたは、彼をご存知だろうか。


池袋や渋谷の都会の街中で、「たわし」にリードをつけてペットを散歩するかのように歩いている男性である。

何を言っているんだと思ったあなた、ネットで「たわし」と入力してみてほしい。
するとすかさず検索候補に上がってくるのは、
「たわしおじさん」の文字。
そう、彼の目撃情報は今ネット上で話題を集めているのだ。

しかし、一体どうして彼はたわしを引いて歩いているのだろうか。

そこで私は思い切って、彼に直接お会いしてその理由を伺ってきた。
今回のブログは、そのインタビューの様子をまとめたものである。




6月某日。

雨の中帰宅を急ぐ人々が行き交う池袋。
約束の時間に、彼はたわしを引いて現れた。
そこから取材場所へ移動するため、駅構内を彼の少し後を歩き人々の反応を観察する。
彼とすれ違うたびに聞こえる「たわし」の3文字とシャッター音。
しかし、彼はそれに一切動じずに歩き続ける。


ーーあの…どうして たわしを引いてるんですか?

「ペットだからです」

ーーペット…なるほど。犬やネコではなくてたわしを選んだのはどうしてですか?

「たわしは楽だからね。餌いらないしフンしないし、いなくなってもペットロス症候群にならないし。それどころか道を掃除してくれちゃうし」


白菜を引いた男が僕の人生を狂わせた

実はたわしを引く以前にも、大根・長ネギ・サンダル・トウモロコシなどを散歩させていたというたわしおじさん。
そんな彼がペット以外のものを散歩させるきっかけとなったのには、ある人物との出会いがあったという。

「2006年の夏、新所沢でドライブしていたら、交差点である男性が目に留まったんですよ。真っ黒な服を着て、スラッとしたその男性は手にリードを持って信号待ちをしていて。そして信号が青に変わって彼が歩き出して、何かを散歩させてるなってリードの先を見たら、白菜がつながれていたんですよ」

ーー白菜…ですか。

「炎天下の中、リードでつながれた白菜はボロボロと葉っぱが崩れて、スルスルとなめくじの跡のように地面に水分を残しながら無表情で散歩させる外国人男性を見て。友人たちと、なんだったんだ!?って」

しかし、そのあまりの衝撃に、本人に声をかけることはできなかった。
後悔した彼は、当時流行していたmixiに白菜男に遭遇したことを投稿し、さらに白菜男の目撃情報を募るコミュニティを開設し調査に乗り出す。

「つまり、彼を見たことによって、俺の中に彼がインストールされたわけなんだよね。一度見ただけで、ここまで俺の人生を狂わせるとはひどいやつだ(笑)」


白菜散歩した人見ませんでしたか?

さらに、新所沢の駅構内の売店やロータリーのタクシー運転手、商店街の八百屋さんなどへ白菜男の聞き込み調査を始める。

「白菜を散歩した人を見ませんでしたかって言ってもね、まず理解してもらえない」

👨🏻「だから、ごめんなさい、犬やネコを散歩させるみたいに、リードに白菜つないで散歩させてる人を見ませんでしたか?」👵🏼「は?」👨🏻「いや、だから、あのもちろん僕もペットっていうのは犬ネコ動物っていうのはわかってるんですよ、でもあえて白菜を散歩させて歩いて…」👮🏻「はァ?」


「まあそりゃそうだよね、見てないとわかんないよね。もうじゃあ見せるしかないよね。百聞は一見に如かずということで、自分が白菜男と同じことをして、実物を見せようと思ったんですよね」


それでトウモロコシを引いてみた

白菜は崩れるから、と数ある野菜の中から、手ごろで持ちのいいトウモロコシを選択。
トウモロコシ「トモコ」にリードをつけ、いざお散歩デビュー、原宿・明治神宮前へ。

ーーちなみにどうして原宿を選んだんですか?

「原宿だったらアリかなって。いきなり地元所沢でやるのは抵抗あったから」

しかし、彼は明治神宮前で立ちすくんだ。

「バッグからトウモロコシ取り出すまでの、この躊躇。いや、できないよね、これやっちゃったら、何かが変わっちゃうよねって悩んだもんね。でもどんどん日が落ちて暗くなってきたら、せっかくここへ来た意味がないよね。俺は白菜男を探すためにやるって決めたんだから、やるしかないよね」

覚悟を決めた彼は、鞄から「トモコ」を取り出し、リードを持って歩き始めた。
照れたりニヤニヤしては負けだと自分に言い聞かせ、白菜男と同じように平然を装った。

「竹下通りの人がブワッと割れたもんね」

「外国人が オーマイガー!って言うのを初めて聞いたよね。人が割れていくから、ど真ん中を歩けるんだよね。あれは快感だった」


そして、そのまま再び新所沢へ。

しかし、結局白菜男の目撃情報は得られなかったという。彼の正体を掴めなかったため、トウモロコシを引くのはやめようかとも思った。
しかし、そんな彼に人々から思いがけない反応が寄せられる。

「今日会社で嫌なことがあったけど、トウモロコシを引いてるおじさん見て元気になった!ありがとうトウモロコシおじさん!っていうSNSでの投稿を見つけて。
あ、俺トウモロコシおじさんなんだ、って。
これってもしかしたら、暗い顔して歩くサラリーマンをフッと笑わせるような力があって、ペットは犬ネコっていう枠をぶっ壊すことで、新しい何かが見えてくるんじゃないかと思ったんだよね」

白菜男を探すためにはじめた行動が、
次第に彼の人生を変えていくことになる。


進化を遂げてゆくリード先

「トモコには夏を過ぎると浮気された。いつものようにスーパーへ行くと、もうトモコは待っていなかったんだよね。もう寒いから、あなたとは一緒にいたくないのって。ひと夏限定の恋人だったのかトモコーー!って傷心していたところに現れたのが、寸胴なトモコと違ってスラッと美白のネギミで。しばらくはネギおじさんだったんだけど、彼女体臭がキツくて。あとネギは初音ミクに持っていかれちゃって。じゃあ大根だってなったけどそのままだとアスファルトで天然の大根おろしになっちゃうからサンダル履かせて、これぞまさに大根足……」

そんな出会いと別れを経て、現在はたわしの妖精「たわっしー」に落ち着いている。


僕はたわしをなくせば普通の人だからね

ーーこうしてたわしを引いて歩くことで、絶大な宣伝効果があるって仰っていましたが、でも街で無断でお写真撮られたり、Twitterで拡散されたり、常に人から注目され続けているのって疲れちゃったりしないんですか?

「うーん、いざって時はたわしを引っ込めるだけで、僕は普通の人に戻れるので。
まあマントとかつけてる時はダメだけど(笑)
会社へ通勤するときは、たわしさえなくしてしまえば、普通に街へ溶け込めるので。
まあ目立つから信号無視とかはできないし、常にいい姿勢でいなきゃとは思いますけど、僕はバカなことを楽しいからやっているだけなので」


僕が変なことをやり続けていたら、
社会はもっと優しくなるんじゃないかな

ーー楽しいからか~。どうしたら周りの人の目を気にせず、自分のやりたいことを貫けますか?

「まずそもそも、ちょっと変な人だったり、生き辛さを感じる人や普通に生きられない人、いろーんな人がいて、そういう人達に対して社会って優しくないよねっていうのがあって。
でも、その優しくないっていうのがあればあるほど、彼らはもっと生き辛くなっていく。
でも、そういう人達もありだよねっていう目で、みんなの器がもう少し大きくなったりするとみんなが生きるのが楽しくなると思う。
だからこそ、あえて変なことをやり続けているっていうのはあるよね。

質問の答えになっているかはわからないけど、
もっと社会が、自分と違うものに対しての許容度、もっと寛容になっていくといいんじゃないのっていう思いがあって、そういう使命感みたいなものがあるからこそ人の目は気にならないんじゃないかなあ」


このリードは面白い人を引き寄せる

ーー所沢でゴミ拾い隊としても活動されているそうですが、たわしを引くことで今までよりも人とのつながりが多くなったなっていう実感はありますか?

「そうだね、こういうのを見て面白いなとか、
何だこれーとかって好奇心旺盛で寄って来てくれる人っていうのは、おそらく自分と異質な他の人とか自分がわからないものに対して興味を持てたり、少なくとも寛容だよね。
そういう人っていうのは、これ以外にも面白いことを収集している可能性もあって。だからすごく面白い人が多いんだよね。
逆に、なんか変な人だから近寄らない方がいいぞって人はこれを散歩していることで離すことができる。

だからこれはある意味 “面白い人ホイホイ”なんだよね。巨大な人間ホイホイなの。
引いているだけで面白い人を引き寄せる、だから実は皆さん釣られているんですよ」

ーー釣られたんですね、私(笑)

「そういうことです(笑)」

「だからほら、あなた釣られましたよねって言っても、あーやられたーってニコニコ笑ってくれるような人が多いでしょ」


枠を壊した先に新しい何かがある

ーーでは最後に、悩める現代人に一言お願いいたします。

「今悩んでいることっていうのは、もしかしたら自分が今まで作ってきた枠の中だけで悩んでいるんじゃないかなって思うんです。
自分の今までの経験から不可能だと判断している前提の中だけで、可能性を探るっていうことをやっているのではないかと。それは完全に行き詰まるわけですよ。
過去の自分には無理だ出来ないよっていう固定概念をほんのちょっと崩した上で、新しいものを探ると、もしかしたらそこには新しい解決策や、今まで気づかなかった可能性があるんじゃないのっていうのがひとつ。

あともうひとつ悩んだときにするといいのは、
何かをしなきゃいけない、こうあるべきだって枠を一旦ぶっ壊して、やらなきゃいけないこと、期限に迫られていることも放棄して、自分が好きだった、楽しいなって思うことをやってみたら何かが変わるかなって気はしますね。それは何かの役に立たなくてもいいし、非生産的なことでもいい。
これから家に帰るまでに、ひとつでもやりたいことが浮かんだらそれをやってみたらいいと思いますよ。

今までの自分の枠をちょっとだけでもぶっ壊してみようよってことで、
過去を引きずるより たわしを引きずれ」




写真=かおりやまこし
撮影協力=月の砂漠(アラビアレストラン)

#インタビュー #取材 #たわしおじさん #たわし

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こいぬまめぐみ

臨床心理M1/手書きの「こいぬまフォント」による日記や、一見結びつかないような点と点を結びつけて展開していくような文章を書きます。✒︎共著『でも、ふりかえれば甘ったるく』(PAPER PAPER)発売中。

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