白昼夢

目を覚ますと部屋にいた。音楽が流れている。聞いたことのある曲だ。たしかタイトルは…。

目を覚ますと大学にいて、目の前には大学時代の友人がいた。学舎の隣にある庭で彼と立ち話をしていた。黒く焼けた肌に、爽やかな笑顔からは白い歯が覗いていた。彼は私に何してたの?と聞いた。私は答えあぐねた。私はここで何をしていたのだろうか。

目を覚ますと部屋にいた。音楽が流れている。先ほど聞いたのと同じ曲である。その音はどうやら枕元のレコード盤から流れているらしい。たしかタイトルは…。

目を覚ますと目の前にテーブルがあって、私はイスに座っていた。テーブルの向こう側には知った顔が三人いる。一番右にいる青い服の女性は、私と仲の良い友人だ。二人で食事に行ったこともある。はて、彼女は青い服を着ることがあったかどうか。あとの二人の顔は見たことはあるのだが、誰だったかはどうにも思い出せない。誰なのだろう。

目を覚ますと部屋にいた。音楽は止まっていた。胸が重たく、非常に気分が悪かった。机の上のコーヒーカップに手をやり、口の中に少し流し込む。ひどく冷めていた。少し汗ばんだ服を着替えながらぼんやりとしていたが、私はあることに気づいて、思わず家を飛び出した。路地を曲がり、大通りを通って、山へと続いている住宅街を駆け抜けた。最初は勢いに任せて走っていたが、疲れたのか次第にペースはゆるみ、やがて完全に徒歩に変わった。しかしながら私は止まることなく、そのまま歩き続けた。まだ、ずっと歩いている。

(あとがき)
実際に私が夢に見たことを膨らませて書きました。
タイトルは、ずっと頭の片隅に浮かんでいた江戸川乱歩の「白昼夢」から取りました。

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