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「学習する組織」と5つのディシプリンについて

ピーター・センゲの「学習する組織」を読み始めました。今回は序論と第1章の「われに支点を与えよ。さらば片手で世界を動かさん」から自分の理解をまとめてみます。

なぜ組織に学習が必要か?

歴史的にはヘンリー・フォードやビル・ゲイツのように、カリスマと言われるような経営者を持つ企業が世界をリードしていた時代もありました。しかし、現代はVUCA(※)と言われるように、世界はより複雑で変化が早くなっています。1人の有能な経営者が全体の戦略を考え、ほかの人を従わせるようでは企業が立ち行かなくなっているのです。

※VUCA:Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)の頭文字をとり、これまでの常識が通用しないような現代の特徴として使われています。

現代の企業は環境の変化に対応できるレジリエンス(柔軟性)を持つ必要があります。そのために、経営者1人が会社をどうするかを考えるのではなく、組織内のあらゆるレベルで人々の決意や学習する能力を引き出す方法を見つけることが求められるのです。

学習する組織とは?

この著書で学習する組織とは「目的を達成する能力を効果的に伸ばし続ける組織」とされています。継続性が強調されている点では「学習し続ける組織」の方がより意図にあっているかもしれません。組織とは多くの個人が複雑に互いに影響しあって構成されているものであり、「組織」と「個人」の両方の視点で学習を考えることが必要です。

元来、私たちは学ぶことが大好きな生き物です。赤ちゃんは生まれつき好奇心旺盛な優れた学習者で、誰かが教えなくても歩き方や話し方をひとりでに学んでいきます。学習する組織ではトップダウンの指示ではなく、一人一人が赤ちゃんのように内発的動機から学ぶ姿勢があるべき姿とされます。そこには楽しさだったり、自身の成長を感じるたびに喜べるようなポジティブなイメージがあります。

そして、互いに信頼し合い、互いの強みを引き立たせ合い、互いの限界を補い合うことで、個人の目標よりも大きな共通の目標をもち、とてつもない結果を生み出す人たちの集団。これが学習する組織のイメージです。このためには、複雑な相互の関係・影響をシステムとしてとらえ、その全体をどう良くしていくかというシステム思考を一人一人が持つことが必要になります。

ディシプリンとは?

ディシプリン(discipline)は「学習する」という意味のラテン語「disciplina」を語源にもち、「あるスキルや能力を手に入れるための成長プロセス」とされます。ピアノやスポーツなど、どんな分野でも天賦の才をもつ人もいる一方、誰でも実践によって熟練度を高めることができます。このように体系化された実践による成長プロセスがディシプリンです。「学習する組織」には5つのディシプリンが欠かせないと述べられています。

1つめ:システム思考

先にも述べた通り、組織やビジネスは多様な要素が目に見えない構造で繋がっており、関連する行動が相互に影響し合う複雑なシステムです。そして、互いへの影響が完全に形として現れるまでに何年もかかる場合もあります。

私たち自身もそのシステムの一部として織り込まれているため、変化のパターン全体を捉えることが難しくなります。そこで、自分たちに見える範囲を切り取り、そこに焦点を当てて考えがちです。しかし、全体を見ずに部分を良くしようとしても変化を起こせず、自分たちの最も深刻な問題が全く解決しないと感じてしまいます。

システム思考は、このようなシステムのパターンの全体を明らかにしようという試みです。そしてシステムを効果的に変える方法を見つけるための概念的な枠組みです。とある実験によると、幼い子どもたちはシステム思考をすばやく学習することが明らかになっているそうです。

2つめ:自己マスタリー

自己マスタリーとは自分の仕事に熟達し、求める結果を常に実現できる状態のことです。これには自分の価値観にしたがって感性やスキルを粘り強く磨き続け、他人にはない独自の境地に達するニュアンスがあります。例えるならば、芸術家が作品に取り組むかのように人生に向き合うことであり、自身の生涯を通じた学習に身を投じることによってそれを実現するのです。

学習する組織では自己マスタリーは欠かすことができない基盤のような要素です。組織の取り組みや学習能力は、構成メンバーのそれらより高くはなり得ません。継続的に私たちの個人のビジョンを明確にし、それを深めることが必要です。

しかし、このようにして人々の成長を促す組織はほとんどなく、膨大な数の人材が未開発のままになっています。就職したときはやる気に満ち溢れているが、30歳になる頃にはごく一部をのぞいて出世街道から外れ、週末に自分にとって大事なことをやるために「時間を費やしている」というのです。組織と個人の関係の中で自己マスタリーを確立させ、自分にとって本当に大切なことを実現するために人生を生きることが大切です。

3つめ:メンタル・モデル

メンタル・モデルとは私たちがどのように世界を理解し、どのように行動するかに影響を及ぼす、自分の中に深く染み込んだルールやイメージのようなものです。私たちは多くの場合、メンタル・モデルや、それが自分の行動に及ぼす影響に気づいていません。しかし、例えば気さくに声をかけたくれた人に対して「明るく外交的な人だ」とポジティブに感じる人もいれば「初対面から図々しい」とネガティブに感じるなど人それぞれのメンタル・モデルがあります。

組織においてもメンタル・モデルは形成されています。時代遅れの組織慣行に新しい仕組みを取り入れたいと思っても、その多くが実践に移されないのは、強力な潜在的なメンタル・モデルと対立するからです。

変化し続けるビジネス環境において継続的に適応し成長できるか否かは、組織としての学習にかかっています。そして組織学習とは自分たちが共有するメンタル・モデルを変えるプロセスだと言えます。

メンタル・モデルに働きかける第一歩は鏡を内面に向けること、すなわち無意識のメンタル・モデルを浮かび上がらせ、厳しく精査できるようにすることです。組織では探求と主張のバランスがとれた対話(=学習に満ちた会話)によってメンタル・モデルを認識します。そのような会話では、人々は自分自身の考えを効果的に表出させ、その考えが他の人の影響を受け入れるようにします。

4つめ:共有ビジョン

リーダーシップの分野では何千年も前から「私たちが作り出そうとする未来の共通像を掲げる力」が核と考えられています。組織全体で深く共有される目標や価値観や使命なくして、偉大さを維持し続けている組織はほとんど思い当たりません。

真のビジョンがあると、人々は卓越し、学習する。それはそうするように言われるからではなく、そうしたいと思うからです。リーダーはたとえ心からの行為であったとしても、ビジョンについて指図することは逆効果です。

しかし、多くのリーダーは組織を活性化する共有ビジョンにはつなげられない個人のビジョンしか持っていません。共有ビジョンの実践には、言われてやるのではなく、真のコミットメントと参画を育む「将来像」を掘り起こすスキルも含まれます。

5つめ:チーム学習

スポーツや芸能、ビジネスにおいてもチームの英知が個人の英知に勝る例がたくさん存在します。チームが真に学習するとき、チームとして成果が出るだけでなく、個々のメンバもチーム学習がなかったら起こり得ないような急激な成長を見せます。

チーム学習はダイアログ(dialogue=対話)で始まります。それは本当の意味で「共に考える」能力です。ギリシャ人にとってディアロゴス(dia-logos)は「個人では得ることのできない洞察をグループとして発見することを可能にするような、グループ全体に自由に広がる意味の流れ」を意味しました。

ダイアログのディシプリンには学習を阻害するチーム内の相互作用パターンに気づく方法を学ぶことも含まれます。阻害要因に気づき、それを浮かび上がらせれば、学習を加速することができます。

5つのディシプリンの連動 - システム思考

これら5つのディシプリンは1つの集合体として展開することが非常に重要です。これは容易いことではありませんが、非常に大きい見返りを得られます。

そのためにシステム思考のディシプリンが必要です。システム思考によって各ディシプリンがばらばらの新しい組織戦略や流行の組織変化に陥ることなく、すべてを融合して一貫性のある理論と実践の体系を作ることができます。システム的な方向付けのもとに、各ディシプリンが相互に関連し合っていることを考えることができます。

最後にシステム思考は「自分自身が世界から切り離されている」という見方から「つながっている」とする見方へ認識を変容させることとあり、学習する組織の核心にあります。例えば組織のビジョンでは全体的なつながりが見えないと実現性を信じられなかったり、「実現できる」と言いながらも「目の前の現実はほかの誰かが作り出した状況だ」と潜在的に考えることで自分を裏切ってしまいます。学習する組織は「いかに私たちの行動が私たちの現実を生み出すか、そして私たちはいかにそれを変えられるか」ということを人々が継続的に発見し続ける場となります。

章タイトルの意味

「われに支点を与えよ。さらば片手で世界を動かさん」とはアルキメデスの言葉です。「支点」と言っているのは彼がてこの原理を発見したためで、地中海の覇権を賭けたポエニ戦争に巻き込まれてローマ軍の攻撃を受けた際、てこの原理を用いた投石機などで包囲したローマ艦隊を苦しめたそうです。

著者がアルキメデスの言葉を引用した意図は「自分ごと化する」ということでしょう。自分と無関係にところで生まれた途方のないようなものに見えても、すべてはつながっており、システムを理解した上で自分自身と接点を持たせることで、それを変えることができる。当事者意識を持つよう認識を変えることがすべての始まりと言っているのだと思います。

補足:システム思考を取り上げる目的

こちらの動画にて著者であるピーター・センゲのシステム思考に関するメッセージを聞くことができます。ここではアメリカの食文化の例を上げています。アメリカ人は元々、食べ物の産地など気にしていなかったが、近年の騒動から「私たちの食べ物はどこから来ているのか」「どんな人たちの手を経て私たちのところに来るのか」と心配するようになりました。途方もなく全体的な相互に関連し合った世界に住んでいるのだという認識が高まっているのだと思う、とのことです。

センゲ氏は「問題はこういった認識のほとんどが恐怖の感情の中で起こっており、システム思考は単純に言えば、このような認識を取り上げて希望や可能性という感情を持つように変換することだ」と述べられています。

まとめ

ピーター・センゲ氏の著書「学習する組織」より、学習する組織とその実践のための5つのディシプリンについて概論をまとめました。

第1章ということで実践的な内容はまだまだですが、ここに書かれていることを自分の環境に当てはめるだけでも、多くの気づきが得られるのではないかと思います。


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