『ドライブ・マイ・カー』を好きになれない理由

 濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が快挙を成し遂げました。多くの批評家やレビュアーは絶賛に次ぐ絶賛を書き連ねており、それらを目の当たりにするたびに僕の中の何かが急激に冷めていくのが分かります。とにかく、このビッグウェーブに飲まれないように、そして自分の中の違和感を忘れないように書き残して置こうと思います。

※途中、作品の結末に触れる箇所がありますので、ご注意ください。未鑑賞の方は読まないほうがいいと思います。

1.巨匠の名前出しすぎ
濱口竜介監督は才能があり、類まれなるインテリジェンスを持っている気鋭の作家であると思います。僕が読む記事では影響下の映画監督の名前を目にすることが多いです。エリック・ロメール、ジャン・ルノワール、ジョン・カサヴェテス……。(濱口監督はカサヴェテスで卒論書いているみたいですね)何にも影響されていない人など居ないので、こういう影響下の監督などを挙げるのは分かりますが、インタビューなど読むたびに、「あ、そうなんすね……」と心の距離がスーッと離れていってしまいます。なんか、もっと創作にあたり自分の中のバックボーンとなるテーマや、自分の表現したいことはこれだ、というものはないのかな、と思ってしまいます。あと、才能がある人だと思うので、前述した巨匠たちの手法や映画論の型を覆して新しい映画を作る、くらい気概が欲しいと思ってしまうのです。

2.もう、そういうの飽きた
『ドライブ・マイ・カー』は技工の面で言えば、作中劇を使用して、テキストが人物に及ぼす作用を中心に演劇論を展開、メタ的に物語を構成するという要素が大きいと言えると思いますが、ストーリーラインの概略は傷ついた男女が出会い、彼らの魂が癒やされていくという、あまりにありきたりなものです。(まあ、略しすぎですけど……)話にツイストがなさ過ぎて、退屈に感じてしまいました。映像としても特に新しさや美学を感じず、途中何度か睡魔が襲ってきました。

3.ワーニャ伯父さんの呪縛
苦悩し、悶え、それでも生きて行こうと、そして不条理な死や罪を受け入れようとしたときに、一人の人間から絞りだされる生身の言葉があれば、少しは僕の心も動いたかも知れません。『ワーニャ伯父さん』の引用ではなく。自分が苦しんだときに確かに名作たちの言葉は力になりますが、自分なりの答えは、誰かの言葉を借りるのではなくて、自分の心からひねり出されるものではないでしょうか。『ワーニャ伯父さん』をモチーフに使うのであれば、それを超えてほしかったです。個人的には、こういったメタ的な作劇は映画を作中劇の中に閉じ込めるものではなくて、世界を逸脱するために使用されるべきなのでは、と思いました。僕が昨年のベストに挙げた、『愛について語るときにイケダの語ること』や『サマーフィルムにのって』のように。

4.その展開、あり?
岡田将生演じる高槻が、ある出来事をきっかけに事件を起こします。どんなものかというと、スキャンダルを起こして(自業自得)干された彼は町中で見つかると、「ほら、あの人……」みたいな目で見られます。ある夜、高槻のことを割と近距離からスマホで写真を撮っている人がいて、高槻はブチギレてそいつを追いかけて殺してしまいます。いやいや、われわれ一般人って、街中で芸能人見つけて、至近距離から無断でパシャパシャ写真撮るか? そんなやつばっかりじゃないと思いますけど。そしてそれだけでそいつのことを殺すか? こういった無理のある展開が、伏線でもなんでもなく、最後、西島秀俊演じる家福がワーニャ伯父さんを演じるための出来事としてだけ配置されて、さすがに強引すぎないかと思いました。“死”が重要なテーマなのに、便利な道具のように利用するんですね。家族の死と他人の死の扱いの落差にも違和感を覚えます。

5.服
なんか、岡田将生の服装、絶妙にダサくないですか?

 最後の方はやや適当になってしまいましたが、すっきりしたのでここらで筆を置こうと思います。とにかく、天の邪鬼の僕としては「いやいや、僕はこの映画のこと好きじゃないですよ」と言いたかっただけです。絶賛の嵐の中で、この映画が“好き”で“傑作だと認めている”ことが前提になっちゃうのが、少し嫌だったので。

 僕は自分の主張やテーマがはっきりとしている人、それらを映画論に奉仕させず、多少不格好になっても言いたいことを言い切るような作家性を持った監督の方が好きだなぁ、と思いました。好き嫌いの問題なんですけどね。どうもこの映画は真面目な優等生のような印象を受けるので、僕の大学に行っていないことに起因する〝優等生〟的なるものへのコンプレックスも働いているのかも知れません。だとしたらダサいことこの上ないのですが、それでも無名の僕だからこそ、しがらみ無しで好き勝手書けるので書いちゃいました。ああ、自分と意見が違う友達と、お酒を飲みながらこういう事をあーだこーだ話したいなあ。

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