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《第10回SCCしずおかコピー大賞 独りごと反省会。》 vol.55

課題6:令和の静岡県につけるキャッチコピー
・新年号発表の日も茶を摘んでいました。

今年の夏も暑かった。台風も近づく中、すでに秋の気配を感じる今日、『夏も近づく八十八夜〜』と歌われる、お茶摘みの頃を想像してみる。

この歌は、「茶摘(茶摘みの歌)」という題名で、

1912年(明治45年)に刊行された『尋常小学唱歌 第三学年用』に初出し、2007年に「日本の歌百選」に選ばれている。

という情報が、各地のお茶屋さんHPやwikipediaで確認できる、作者不明の唱歌らしい。

新茶といえば八十八夜。静岡県では気候の関係もあり、4月中旬から5月末くらいまでに新茶(一番茶)の茶摘みを行うのが、恒例の行事になるらしい。なかでも節分などと同じ雑節の一つ「八十八夜」は、立春から数えて88日目にあたり、春から夏に移り変わっていく節目の日であり、お茶農家が縁起を担ぎながら茶摘みを行う目安の日にもなっている。
出典:茶活HP「お茶摘みの【八十八夜】2020年は何月何日? <5月1日(金)>」(詳細はリンク先参照)

そのことを知る作者は、風物詩を使ったコピーを書いたのだ。

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静岡県といえば、お茶と富士山。双璧の一つをもってきたのは、『静岡県に』という課題に応えてのことと想像できる。そして、現代の若者らしく、改元の発表・変更に大きな感慨も期待もないことを、さらりとコピー化したのだ。それは、現代を生きる人の大半が、年号が変わったところでじぶんの生活は変わらないという現実を、コトバに出さなくても理解しているからだろう。

私自身も同じくで、グローバル化した政治や経済、流通・情報などのインフラによって、一つの国だけで世の中が何とかなると想像しにくくなってきている。また、当時あった何も成し遂げずに政策看板ばかり変える長期政権による失望から、年号変更くらいではどうにもならないという倦怠感も充満していたようにも思える。(オリンピックに向かていくためにも政府やマスコミは、歓迎ムードを醸成しようとしていたようですが。)

そういうモヤモヤした気持ちが、新年号発表の日でさえも例年と変わらない1日という機能的価値をマイナスに見立て、空虚さを勤勉さに隠した情緒的でニヒルなコピーを書かせたのではないだろうか。

確かに、リアルな心情は表現されているのかもしれない。コピーを書くとき、リアルの追求というのも必要な条件にはなる。だが、私個人としては本作品は推せない。一つは、新年号発表日(改元日)と2019年の八十八夜は重なっていない。実は5月2日が八十八夜だったのだ。茶摘みのスタートとされる八十八夜の前でも、状況により茶摘みをすることはあるだろうから間違ってはいないと思うが、静岡県の風物詩的なコピーとしては改元日との関係性の曖昧さが否めない。そして、もう一つ。コピーから滲むポジティブさの不足を感じてしまうからだ。

若者は未来を目指して生きていく。令和の到来を特別歓迎していなくとも、時間が進んでいく限り、未来への希望を見つけ出してコトバに込めて欲しかった。私も元専門学校の非常勤講師。全ての学生に対して、次の時代を牽引していく期待を持っている。この作者には、早速過去を語ることから始めるのではなく、未来を語るコピーアイデアを見つけ出して、静岡県民に未来へのビジョンを提案するような思考チェンジをしてほしかったように思う。

やはり、コピーはポジティブな気持ちにさせてくれるものが好まれる。コンテストのような場合は、特にそう思う。昨年以上に低迷する世の中でポジティブなビジョンをどう描いていくのか? もしかしたら、第11回SCCしずおかコピー大賞はポジティブな表現勝負になるのではないかと、本コピーは教えてくれているのかもしれない。


※コピーの版権・著作権等の使用に関する権利は、静岡コピーライターズクラブに帰属します。
https://shizuokacc.com/award/

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