見出し画像

団子じゃなくて花(新鮮ではない)

3年間、派遣社員として働いた会社を退職した。業績が悪化してもう契約できないと言われた。そうだろうな、と思った。誰も会社のことは特に考えていない。各人は自分のことしか考えてなくて、全然連携を取らなくて、ものすごく小さな組織なのに情報共有がされない会社だった。話が進まないことこのうえなかったが、風通しがわるくてものごとが堂々巡りをしているのを見ているのはおもしろかった。





わたしが最終出勤日の今日も、各人がそれぞれ生もののお菓子をぽつりぽつりと持ってきた。お菓子はチリではないけれど、やっぱり積もれば山になる。シュークリームとクレープとクリームパンと生クリーム入りどら焼きとロールケーキ1本が昼休みの間に積みあがった。無理やて。食えんて。どうしろと。もう少し話し合うとか連名でひとつ、とかにしてくれないか。してくれないのか。




気持ちはうれしいけどいやがらせと紙一重なのよ




今まで勤務して退職してきたいくつかの会社は、最終日に退職する人や異動する人がみんなの前で簡単な挨拶をした。全員揃わなくても、形だけでも挨拶があった。有志で花や寄せ書きを送った。今回はそれがひとつもなかった。だからわたしは帰るときに「お世話になりました」と勝手に挨拶して、用意してきたお菓子を空いているデスクの上に置いた。事務所にいた数人が「ああ」とか「うう」とか「どうも」とかもごもご言って立ち上がり、「ありがとうございました」とか「お元気で」とか「近くに来たら遊びによってよ」とか各人が口々にいろんなことを言った。



よらないよ?そんなにわかりやすい「心にもないこと」言う?
ちょっと笑いそうになってしまったのをこらえた。いい笑顔が出てたと思う。




帰りに挨拶に倉庫に寄ったら、倉庫のボスが「これ会社から」と薄くて重いものを手渡した。なんで常務が渡さないのかと思ったけど、ありがたくいただいた。帰宅して見てみたらカタログギフトだった。きっと常務が倉庫ボスに「なんか適当に用意しといて」と丸投げして、こまったボスがカタログギフトにしたんだろうな。




なんというか、会社全体に人を大事にするとか人に親切にするという気持ちがないんだなあ。なるべくお互いの仕事に触れないようにして、押し付けあって、面倒なことは自分以外の誰かがやらないだろうか、と遠巻きにしている。そんな空気を知らないわたしが入社してすぐに、誰かの仕事を手伝ったり、やりましょうか?と声をかけると「ええっ。いいんですか?」と驚かれたものだった。そしてその反応にわたしが驚いたものだった。反対に「自分の仕事だから結構です」と言って抱え込む人もいた。ほんと、いろいろな経験をした。

あとは、あれだ。この会社の人たちは自分たちが花なんかもらっても全然うれしくない人たちなんだ。そこは共有されちゃってるんだろうと思った。花で腹がふくれるものか、と思っている。だから腹がふくれるものをあげることがこの人たちの正義なのだろう。確かに絶対崩れない道を10センチくらいの歩幅で歩く感じの仕事っぷりだった。よいわるいではなく。本当に。




涙一滴出ない最終日ではあったけれど、わたしはやっぱり花がないと物足りない気持ちになったので、最寄り駅に最近できたおしゃれな花屋さんに寄った。変わった蘭の花とスイートピーを全部で4本買った。40代くらいの落ち着いた男性が包んでくれた。そして「あまり新鮮ではないんですがチューリップを一輪つけておきます」と言った。「もう明日くらいに花びらが落ちちゃうかもしれないんですけど」と。




それがものすごく、ものすごくうれしくて、お礼を言ってお店を出たらちょっと涙がにじんでしまった。わたしのためにもチューリップのためにも、男性の気持ちがとてもうれしかった。新鮮じゃないのはこちらも一緒。うちへおいでよチューリップ。




自分の自分による自分のための花




3年の間に、低きに流れやすいわたしは多分親切成分とか大事成分がずいぶん抜けてしまったと思う。それを取り戻していくのが当面の目標。カタログギフトはパートナーと話して佃煮のセットをもらうことにした。パートナーは確実に花じゃないタイプの人だけれど、わたしが花を大事に思っているのはわかっている。それでいいと思っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?