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[連載3]アペリチッタの弟子たち~プロローグ~3.消えたアペリチッタ

毎晩夢にでてくるようになった魔法使いアペリチッタの書いた本、という体裁で語られるこの連載は、ことば、こころ、からだ、よのなか、などに関するエッセーになっています。

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3 消えたアペリチッタ 
 
 その日、ウクレレの練習前、アペリチッタは3人に語った。
 
 ぼくは、ウクレレを練習し始めてから、ぼく自身が変わってきたことを感じている。
 外からみている君たちからはみえないかもしれないけどね。
 ウクレレなど音楽は、言葉の到達出来ない脳の場所に働きかけるのか?言葉で伝わることが伝わらないけれど、言葉で伝えることができないことを伝えることが時にできるようだ。
 例えば、重症の認知症で、言葉が伝わらない人にも「パーソナルソング」は脳に届いて効果を発揮する、っていう映画、みたことないかな?
 同じように、ぼくにもなんらかの効果が出てきたようだ。
 その最初のはじまりは、ぼくが寝ると、夢の中にウクレレの先生がでてくるようになったことだった。
 それは、続き物の夢だった。
 そして、その先生は、ぼくにウクレレを夢の中で教えてくれるだけでなく、ぼくに、今の世の中の秘密について少しずつ教えてくれた。
 その先生=彼にいわせると、今回のコロナ禍は、今の魔法使いではない、別の魔法使いが、代わって、新たに自分が世界を支配しようと起こしたひそかな戦争だ、という。
「これはまちがいない」と、彼は言い切った。
「なぜなら、その『新たな魔法使い』とは、今、こうやって君の続き物の夢にでてきておしゃべりしている私、だからだ。私が、その張本人だからだ」
 
 相変わらず上手とはいえないアペリチッタのウクレレ演奏だったが、予兆はあった。
 公園の色、におい、空気が違っていた。
 鳥がその公園に集まりだし、その数は、どんどん増えていった。
そして次に世界が波打ちはじめた。
 世界が巨大なカーテンになってしまったようだった。カーテンのひだのひとつひとつが、もりあがったりひっこんだり、さざ波のように揺れていた。
 そのさざ波は、公園のベンチや、その周りを囲む家の壁、窓、そして公園にいる4人の上にも広がっていった。誰もが、体の中をさざ波が走りぬけていくように感じた。縮んでしわがよっては、またひきのばされ、しまいに自分の体がバラバラになってしまう気がした。
 この音は、空気の振動?波?これが、感動?
 これは香水?魔法?トランス状態?
 今や、多くの波は重なって、とても強く大きな、一つの波となり、その波の底をのぞきこむことができるようになっていた。
 一瞬あいたその波の底に4人の姿が見えたと思うと、その次の瞬間、それぞれ違う谷間に4人はわかれ・・・気が付くと波は収まり、すべては変わってしまった。
 その次の瞬間、あたかも木立に突風が吹き抜けたようだった。まわりじゅうの枝がむちのように折れ曲がり、きしむような音をたててあたり一面に葉っぱがとびちった。公園の中心が、つむじ風の中心になっているらしく、オレンジ色の枯葉が地面から舞い上がり、みんなのまわりをぐるぐる回った。
それから突然すべての動きが止まった。
 そしてまた、ほんの少しずつ、また音が聞こえるようになってきた。宙ぶらりんになっていた葉っぱが地面におちるたびにサヤサヤという優しい音がした。
 葉っぱがすべておちると、木立の中に一人の男がたっていた。一瞬、ディスカスの姿が、その男に重なったが、その魚影が見えたのは、ほんの一瞬でしかなかった。
 そして、その男の姿も、徐々に消えていった。
 
                *
 
 その日は、アペリチッタがその開催にずっと反対していた東京五輪の開会式の日だった。反対に対して強硬という答えがくだされた「めでたい日」だった。
 コロナウイルスのパンデミックは第5波を迎えていた(注2)。
 アペリチッタは、ずっとそこにいて、感じ、考えていた。
(彼は夢の中でこう語ったんだ。
「君のウクレレ演奏が上手になり完成されたとき、ぼくは、夢の中でなく現実にこの世界に姿を現すだろう」と。
 そして、とうとう、今、その時がきた。
 ぼくは、彼が新しい世界をつくるお手伝いをしようと思う。
たとえ、ぼくが「アペリチッタ」という彼の名前を名乗り、現実の世界で魔法を使い、その結果ぼくを処罰しようとする人がやってきたとしても、ぼくは負けない)
 期待と不安のまじった気持ちで、アペリチッタは、徐々に大きくなる風の音に耳をすまし、動き出した光景に目を凝らしていた。
 声が響いた。それは、『彼』の声なのかどうかは定かではなかったが。
「この名もない小さなまちが、悪魔による世界支配のおわりのはじまりの地に選ばれた幸運に、みな感謝するといい」
 だが、そのほかの3人、シュン、マコト爺さん、ダイゴ医師にはその声は聴こえなかった。
 そのとき、この3人にとって起こったことは、アペリチッタの姿が目の前から消えた、ということだけだった。
 そして、その男の立っていた地面の上には3冊、本が残されていた。
 それは、消えたアペリチッタが書いた本なのかどうかは定かではなかった。
 だが残された3人、シュン、マコト爺さん、ダイゴ医師には各々、1冊ずつその本をとり、家へともちかえったのだった。
 
 そして、これからみなさんに紹介していく文章は、著者不詳、あるいはアペリチッタが書き残した、この本の中に書かれた文章にほかならない。

 

   
 
 

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