なんだったんだろう、男木島。

草むらの中を進んだら、本当に、一軒の小屋が建っていた。
ここは、本当に、カフェなのかな?

戸惑っていると、おじさんがひとり、あらわれて。
「こんにちは!…カフェ、やってるんですか?」と聞いたら、そうだと言う。
どうぞどうぞと言われるがままに、小屋の中へとおじゃました。

香川の港の近くに4泊くらい宿を押さえ、毎日のようにフェリーで違う島へと出かけていくというひとり旅をしたのは、もう数年前の話。
小豆島、豊島、直島、犬島。あのあたりには、たくさんのやさしい島がある。

そんな中でもダントツに不思議だったのが、男木島だった。

男木島に着くなり、レンタサイクルを拝借。
そこのおばちゃんがとても親切で、サイクリング用の地図とともに「自転車で軽く一周まわれる島だから、楽しんでおいで〜」と明るく送り出してくれた。それだけでもう、うきうきする。

瀬戸内に浮かぶ島々はアートで有名。もちろん男木島にもオブジェが点在している。

訳がわからないままにオブジェの写真を撮ったりしながら、サイクリングコースの看板に従って島を巡っている、はずだった。

一箇所、看板の指す方向がおかしいなと思った。今まで広い道だったのに、突然細くて斜面の方に矢印が向いている。いや、でも看板がそう言うのならば、と思い、そっちに進んでいった。

道は次第に細くなっていく。いつの間にかコンクリートの舗装ではなく土の道に変わっていた。緑が生い茂り、道の脇は斜面。とても自転車を飛ばすような道ではない。そして、人の気配が一切なくなった。

そうだな、これはただの、山道だ。

そう認めた時、よほど引き返そうと思った。でもせっかく来たし、引き返すのはもったいない気がしたのでそのまま突き進む。結局その後、道が二股に別れたのだけれど、どちらも階段というまさかの展開。どうせなら降りる方がいいなと思い、電動自転車を担いで階段を下っていった。

下った先には、広い道と、灯台と、海。

あの安心感は忘れられない。よかった、生きてる。

港のある方へ戻って、ちょっとお茶でも飲みたいな。
広い道の安心感に浸りながら港方面へと走っていたら、道端に、学校の教室にあるような椅子が置いてあるのが目に入った。しかも、何か書いてある。

「カフェ → 」

あまりに唐突だった。矢印の方を見ると、ただの草むら。でももう一度見たら、けもの道のような、細いけど踏みならしてある地面がひとすじ延びていた。その脇にはお手製と思しき柵のようなものもある。

気づいたからには、行くしかなかった。

おじさんに迎えられて入った小屋は、まさかのオーシャンビューだった。

聞くと小屋は全部手作りだという。小屋の中には他にも、木から彫り出したスプーンがあったり、干し柿が吊るしてあったり。2階には泊まれる部屋もあった。
小屋の反対側から外に出ると、さまざまなハーブや野菜、果物が植えられていた。これも全部おじさんが育てている。

小屋に戻ると、「せっかくだから」と、自家製のハーブティや山葡萄のジュース、あけびのシャーベットなど、自慢の作り置きを惜しみなく振る舞ってくださった。シンプルすぎる、究極のごちそうだ。

ハーブティをのんびり飲みながら、お互いの暮らし方、生きること、頑張るということ、あれやこれや話が止まらない。本当にいろんな話をした。

(このカッティングボードも、テーブルも、全部作ったとのこと)

あれ?なんか携帯が鳴ってるな。そう思って見ると、不在着信の山。

おそるおそるかけてみると、港のレンタサイクルの方からだった。
「やっと出た、心配したよ。あと20分で最終便出るけど大丈夫?」

大丈夫なわけがない。というか、そんなに時間が経っていたとは。2時間は軽くおじさんと話していたことになる。おかしい、おかしいけど、現実。

おじさんは、泊まってもいいよと言ってくれたけど、もうホテルは取ってあるから戻らないわけにはいかなくて。慌ててお別れの挨拶と、今度は泊りにくるねと約束をした。

広い道に戻ると、港に勤めているお兄さんが、道沿いに停めてあるわたしの自転車を見つけたところだった。
「はやく、はやく!でもここからは5分くらいだから、飛ばさなくても大丈夫だよ〜」

お兄さんと、おじさんが手を振ってお見送りをしてくれるのを背中に、港まで自転車を飛ばした。
本当に5分くらいで着いた。そこでもみんな心配してくれていて、大変に申し訳ない気持ちとともに、あたたかさを感じた。話もそこそこに、自転車を急いで返却して船に飛び乗る。乗ったらすぐに出港。危なかった…

なんだったんだろう、男木島。
矢印に振り回されてばっかりだ。でも、矢印に従って良かった。矢印の通りで合っていた。カフェのおじさん、元気かな。港のおばちゃん、お兄さん、元気かな。

こんなに不思議な思いが残る島は、今のところ男木島だけ。キツネにつままれた感覚というか、なんだか腑に落ちない。また行きたいし、行ったらこの感覚がなくなる気がして行きたくない気もする。

でも、会いたいからまた行こう。

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こけちゃん

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