イラスト2

「先生、この人できません!」の呪い

投げゴマが嫌いだ。
お分かりいただけるだろうか。あの、白くて細い紐をコマにくるくると渦巻き状にまきつけて、勢いよく投げることによってくるくると回るタイプのコマである。
このあいだ、大学の講義でひさびさに投げゴマをみた。幼児教育の講義で、幼児が遊ぶ道具を実際に自分たちでも遊んでみようということで、私は数年ぶりに、投げゴマとご対面したのだ。正直、本当に嫌だった。グループの中ではみんな「なつかしー」みたいな感じで和気藹々としていたのだが、あの時の、腹の中が煮えくり返りそうなくらいの悔しさと怖さが蘇ってしまった。

それは自分が小学2年生のころであった。放課後児童館によく通っていた私は、学校が終わった今日も、てくてくと児童館へ向かっていた。
児童館では週に一、二回、外部の人が来て様々な「あそび」を教えてくれる会が開かれていた。(ある週はおてだま、ある週はけん玉など) 
外部の人といっても、今思えばおそらく近隣の大学の大道芸サークルみたいなのがボランティアでやってくれていた感じだったと思う。
今日も若いお兄さんたちが3人くらい児童館にやってきて、「あそび」を教えてくれるようだった。

「今日は、投げコマ大会をしまーす!」
若いお兄さんのうちの一人が声をあげると、児童館にいた小学生たちがワイワイと近づいてきた。私もお兄さんの方に近づく。そして、コマの回し方の説明がはじまった。
「この紐をコマの中心からはみでないようにぐるぐる巻いていきまーす」
自分も、お兄さんの見よう見まねで、一生懸命コマに紐をくるくると巻いていく。
しかし、お兄さんが巻いたように全然綺麗に巻けないのである。どうしてもきっちり巻けず、渦巻き状に巻いていってる紐が途中でぐにゃり、と緩んでしまう。
何回やってもコマに紐をうまく巻くことができず、ふと周りを見渡すと、自分意外の人が全員コマに紐を巻き、すでにコマを投げ、回しあって遊んでいたのである。中には自分より年下の子も器用にコマを巻き、回して遊んでいた。お兄さんたちも自分の方には目もくれず、他の子どもたちと遊んでいた。

この、自分だけできていない状況・・・。非常に焦る。
しかし、焦れば焦るほど手元はくるい、ぐにゃぐにゃと紐はゆがむばかり。
私はなんだか悔しくて悔しくてたまらなくなってしまい、泣き出してしまった。
さすがに一人だけ様子がおかしいと思ったのか、後ろから子どもたちの様子を見ていた児童館の先生が私に近づいてくる。
「どうしたの?うまくできない?」先生はやさしく私に声をかけてくれた。「お兄さんにもう一回コツを教えてもらおっか」そう言って先生は私の手をとり、子どもたちの中心で盛り上がっているお兄さんに声をかけようと、お兄さんの方へ向かっていった。
するとお兄さんはこちらに近づいてくる私たちに気づいたようで、私を見ながら指をさしてこう言ったのであった。

「先生、この人できませんwwwwww」

できません できません できません.....
「できません」というお兄さんの言葉は、小学2年生の私にズドーンと深く突き刺さり、こだました。
お兄さんは私にそう言い放ったあと、また子どもたちの輪の中心に戻っていった。
(あ 私できないんだ できないから、あの輪の中にはいれないのか)
となりにいた先生がなんともいえない表情をしたのを覚えているが、お兄さんが私に言い放った言葉のショックがでかすぎて、そのあとのことはよく覚えていない。多分そのまま泣きながら家に帰ったのだと思う。

それから私は、投げコマが、本当に嫌いになってしまった。
もしもあの時お兄さんが紐をうまく巻くコツを教えてくれていたら、紐をうまく巻けなくても、あの輪の中にいれてくれたら、多分ここまで投げコマを嫌いになることはならなかったはずである。

そもそも、「できない」という言葉にはかなり負のパワーが宿っている。「あなたはできません」そう言われるだけで簡単に心は弱ってしまうのだ。努力すれば出来ることも、他人からかけられたその一言で本当に何もできなくなってしまうのだ。

そんなことを思い出し、この間ひさびさに回しコマに手を触れた。
くるくるとコマに紐を巻いていく。冗談に聞こえるかもしれないが、本当に手が震えていた。数年ぶりに巻いたコマは、さすがに自分が大人になり、手が大きくなったからか、意外と綺麗に巻くことができた。
でもやっぱり、投げゴマは大嫌いだ。



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