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売れるなどして。

もっと認められたい。
もっといい暮らしがしたい。
もっとモテたい。
もっと親孝行がしたい。

などと、思うエンターテイナーの諸君は
売れるなどして境遇を一変するよう心掛けましょう。

と、書いてあった。

なるほど、そうか。
と思いながら雑誌をマガジンラックに戻した。

就職面接の直前に雑誌を読むのもどうかと思ったけど
リラックスするのは良いことだし
同じく待合室で控えているライバルたちに
お、こいつ余裕だな
と、思わせることでプレッシャーを与えられる。

しかし、雑誌の内容は全く頭に入ってなかった。

早く家に帰りたい。
家に帰ってテレビが観たい。

クレイジージャーニーが観たい。
クレイジージャーニーを観る時間が、この世で1番のストレス解消だ。
だってあの人たちの日常を観てると、
僕がこんな小さい都市の、小さい会社の、小さい待合室で
採用面接を前に感じているプレッシャーなんて
本当にどうってことないってくらい簡単に吹き飛ばしてくれる。

僕がこの世で1番ストレスなのは
情熱大陸を観ているとき。
なぜ、すでに最前線を走っている人の、さらなる苦悩や栄光を見せられなきゃいけないの?
それってあまりにも酷じゃない?
こんな小さい都市の、小さい会社の、小さい待合室で、のどをカラカラにしてる人間なんて
もう、待合室ごとそのままゴミ箱に捨てられちゃえばいいと思わされる。
ひどい!ひどすぎる!

そうか、僕自身も売れるなどして状況を変えていかなきゃいけない。
会社に採用されることが売れることなのかはわからないけど
就職活動を売り手市場、買い手市場などと表現するからには
あながちハズれちゃないだろう。

あぁ、でもダメだ。

僕はMen In Blackという映画を観てしまったばかりに
こういう時、自分の一挙手一投足を必要以上に意識してしまう。

座る姿勢も、泳ぐ目線も全て見られてるんじゃないか。
もう待合室から採用試験は始まっているんじゃないだろうか?

監視カメラの向こうにトミーリージョーンズがいて、
「あの坊やにはお帰り頂こう」なんつって、僕は切り捨てられるんじゃないか?

ああ、目の前にいる女の子。
明らかにシャツのデザインが派手すぎる。
そんなフリフリみたいなのがついてるやつ着てくるかね?フツー。
この子はダメだな。
いや、逆に「なかなか粋なお嬢さんじゃないか」的な評価を受けて合格しちゃうかも。

俺は大丈夫か?俺は大丈夫なのか?なう。
ああ、もうダメですわ。俯瞰が何周もしちゃって
もう視点がはるか上空、宇宙空間まで行っちゃった。
宇宙空間から自分を俯瞰しちゃってるから、もはや小さすぎてよく見えないんです。
しょうがないからピザ買いに行こう。
なんかピザプラネットってありましたよね?宇宙に。
なんかの映画で観たんすよ。

僕はイタリアンソーセージが好きなんです。
日本のソーセージと少し違いますよね、概念が。
ゴロっとしてて、食べ応えがあって。
イタリアンソーセージのピザを観ながらクレイジージャーニーを観るのが1番の楽しみです。
そんな生活を獲得するため、御社への就職を希望しました。
以上です。
よろしくお願い致します。

一瞬の沈黙の後、最も年老いた面接官がボソリとこぼした。

ほほう、なかなか粋な坊やじゃないか。

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