【架空の世界のモノガタリ②】
【架空のお話#2】
これはどこかの世界の架空の物語。
とある小国に一人のアスリートがいた。彼の才能は世界で通用できるほどに長けていた。
しかし彼の国は貧しく、満足な練習もできなかったが、様々な人に支えられ、彼は力をつけていった。
国民の後押しもあって彼は唯一のオリンピック選手になった。彼は国の英雄だった。
国民は彼に自分を投影し、政府は全面的に彼を支援し応援した。
彼の国にとって「参加することに意義がある」という言葉は、そのままの意味で実感されるものだった。
パンデミックが起こった。
どんな病気かわからない。
人類が経験したことない混乱が起こった。
オリンピックを開催するかしないか、世界の意見が割れた。
世界的な感染を抑えるには、止めるという選択肢もあった。
これを逃せば、彼は肉体的にも年齢的にも次のオリンピックには出れないだろう。
しかし彼は、ただ自分ができる事を黙々と続けていた。
「充分な対策をして開催する」
開催国が声明を出した。
「これで我が国の英雄が活躍する場所ができた。我々の国とは違って開催国は先進国だ、きっと安心で安全なのだろう」
各国が参加を検討する中、彼の国の政府は参加を決めた。国民は歓喜した。
不安が払拭されたわけではない。リスクはまだまだ大きかった。
しかし彼は、ただ自分ができる事を黙々と続けていた。
出発当日、多くの人が彼を見送った。マスクで表情はうかがえないが、皆期待と羨望の目で彼を送り出した。
彼は何人かのクルーと共に彼の地へ立った。ここで世界中のアスリートが平和のためにスポーツで対話するのだ。彼は少し興奮した。
到着すると、ある部屋に案内された。ここで2週間様子を見るという。
練習も制限されるどころか、小国故に特別枠も取ってもらえずただ待機するしかなかった。
しかし彼は、ただ自分ができる事を黙々とやり続けた。
数日後、彼は戦っていた。
充分な対策と医療態勢の中、彼はアスリートではなく人間として戦っていた。
未知のなにかと戦っていた。
彼は力を尽くして戦った。
しかし彼は力尽きた。
国民は悲嘆に暮れた。我らが英雄が負けてしまったのだ!
彼の国は就学率が低かった。ニュースだって見る余裕のない日々を送っていた。
だから開催国が、実は自国民を助けるのに精一杯で、彼にまで充分な医療が届かなかった事を知らない。
彼は祖国に無言の帰宅をした。しかし感染の危険があるために、誰一人彼の顔を直接見る事なく彼は埋葬された。
国民は悲しみ、憤り、打ちひしがれた。
何に向かって怒れば良い?
開催を強行したIOC?
なし崩しに開催した開催国?
彼を国益としか考えてなかった政府?
熱狂して送り出してしまった自分達自身?
答えは出るはずもなかった。
考えれば考えるほど出口はなかった。
怒りは分散された。
ある者はIOCに対して抗議の声を上げ、
ある者は無策にも参加表明した政府に対してデモを起こした。
ある者は開催国のある地域の民族というだけで、黄色人種を排除し始め、
ある者は手のひらを返し、冷静に今回の事を理解し、それらを擁護しようとするものを迫害し始めた。
国は混乱した。
もともと貧しい生活の中で暴発の火種は存在した。
長い混乱の時代が続いた。
既にきっかけがなんだったのか、わかる者はいなくなっていた。
これはどこかの時間軸の、ある小さな国の架空の物語。
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