齢73ジャケット

齢73

田勢康弘
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齢73/田勢康弘

作詞 田勢康弘 作曲 山田ゆうすけ 編曲 杉山直樹


身を立てず 名も上げず それほど汚れず
ここまで生きた 気がつけば 齢73
人生まだまだ夢の途中
凍てつく空に 明け星出るように
やらねばならぬ明日がある

優しくて 厳しくて 母親恋しい
夢見る今も まだ若僧 齢73
人生各駅夢の途中
雪の中からカタクリ咲くころに
逢わねばならぬ人がいる

無一物 無功徳が 人間本来
あるべき姿 分別の 齢73
人生ここから夢の途中
しあわせな顔 こどもら守るため
越えねばならぬ山がある

齢73ミュージックビデオ
https://www.youtube.com/watch?v=PkK8_7nkLpQ


<制作エピソード>

歌唱・作詞:田勢康弘

 小田純平は53歳になるとき、「53」というタイトルのアルバムを出した。なかなかいいタイトルだなと思っていた。あるときなんとなく自分の年齢を考えてみた。あれっ?いくつになるのかな?そうか73歳になるんだ。そこで「73」というタイトルの歌を書くことにした。

 初めに書いた詞は気に入らない。「母親が死んだ歳をとうに超えたのにあの歌が歌えない、おふくろさん。涙で声が濁るんだ」。そんな情けない詞だった。石原裕次郎は晩年「我が人生に悔いなし」と歌った。ああいう歌は大スターだから許される。ちっぽけなわれわれの人生は悔いばっかりだ。子供のころ卒業先で歌った「仰げば尊し」。あの中に「身を立て名を上げやよはげめよ」というくだりがある。振り返ってみればさして自慢するほど出世もしなかった。だけど、それほど汚れた人生というわけでもない。「身を立てず名も上げずそれほど汚れずここまで生きた」。冒頭部分ができたらあとはすらすら言葉が続いた。

 人生まだまだ夢の途中。自分を励ますつもりで書いたら、たくさんの同世代の人たちから「地味な人生を送ってきたサラリーマンへの素晴らしい応援歌」という声をいただいた。

 「73」だけでは意味がわからないという指摘もあり齢を頭につけた。

 弱いと勘違いされそうだが、ま、強いわけではないから、いいかな。

作曲:山田ゆうすけ

 田勢代表から「齢 73」ってタイトルで詞を書いたから歌を作ろうと言われたとき、「はっ?よわい…?」と最初はよく意味が呑み込めなかった。しかしいただいた詞をじっくり読み進めるうちになんとなく田勢さんがなぜ今この歌を作ったのかが少しずつ分かるような気がしてきた。

 誰しも年を重ねていく中でふと自分の足元を、そして昨日と明日をちょっと考える、見つめ直すことがある…。そんな感じが伝わってきた。

 『身を立てず 名も上げず』。「うん、これは間違いなくギターで弾き語りしても映える、ゆったりとした4ビートのバラードっぽい感じかな?」と思い、すぐに1曲作った。また、すこしだけリズムをはねさせて歌謡曲っぽい物もすぐにできた。この2曲を田勢さんにお聴かせしたところ「どちらもいい感じですね!でも、もう少しサビを強調したり、あたま1行の身を立てずにもう少しインパクトを!」といろいろ細かい意見が出た。

 その思いを一つずつ修正して改訂版をすぐに2曲作った。ただ、その間1週間くらいだったが、どうも70歳以上の人が歌うので、ある程度加減して歌い易い、もっと言うと平易に頭の2行ぐらいが歌い出せるなど、やや「加減した」作り方をしてきた。

 「これじゃ面白くない!思い切って『Slow Rock の3連符』のリズムにして言葉をもっとポジティブにたたみ込んだメロディにしてやれ!」とばかりに途中からインパクト重視、「想定外」のメロつくりに切り替えた。そして、先の「修正作」と共にこのはじけたタイプを一緒にお聴かせした。

 「ゆうすけさんなかなかいいじゃないですか!」「えっ?どれがですか?(修正タイプの2曲のどちらかですか?)」「この新しく作ってきたタイプですよ」「ホントですか?」とのやり取りの中、今の形の「齢73」が出来上がった。

 この作品はいきなり頭の「身をたてず」から思いっきりメロディが垂直立ち上がりに飛び、また低音部にもぐり込むという縦軸にダイナミックなメロディとした。横軸リズムも、歌い易い譜割りと言うよりは、言葉を活かすためにポップス的にアクセントや、リズムの「ノリ」を重視して、歌いにくい、難しいが「歌いこなせばカッコいい」と言う形をとった。

その結果、実に渋い詞の内容の割には、リズムやメロディが微妙に弾んでいて、インパクトを醸し出していて、それなりの「想定外」な作品に仕上がったと満足している。

 1番のサビ「凍てつく空に 開け星出るように」の高音部は多くの方が歌うのに苦労されると思う。でも、このフレーズは一番最初の「身を立てず」からの心地よいリピート、繰り返し効果を狙っている。加えて、最後の「明日がある」でもう一度点火して高音部にチャレンジしていただく。この2段ロケット的な高音部に齢73の詞が不思議と合うのが、今回の田勢・山田組作品の到達点となった。

 田勢さんはこの作品をひょうひょうと、淡々と歌われている。でも、なんとも言えない「味」があり、多くの視聴者から「シブい!」という評価を頂戴している。多くの皆様にお年を当てはめて歌って欲しい。

編曲:杉山直樹

 「73」というタイトルがこの曲について聞いた最初だった。
 
 一体何の意味がある数字なのかとしばらく考えていたところ、それが作詞者で歌手の田勢代表の年齢だということを打ち明けられた。

 それから数日が経ち「齢73」と銘打たれた、歌詞、楽譜、デモ音源が送られてきた。その間幾度の作曲変更があったことは後に知ることとなる。早速音源を聴いてみるとその歌声はそれなりにこなれた感じのそこそこ上手な歌唱とは違い、素朴ではあるが切々と思いを歌い上げるものだった。今出来る限りの力を精一杯歌うというその歌唱からは、ある種の「いさぎよさ」とか「力強さ」を感じさせられた。

 「ドラマチック」な歌にしたいというアレンジの要望があり、そのひとつの象徴としてあの冒頭の導入部となった。

 レコーディング前のリハーサルでの出来事だが、スタジオで何度か歌い、録音した歌を聴きながら田勢代表が「もう少し力を抜いて語るように歌うのはどうだろう?」と自ら提案された。そのあと歌った歌は肩の力が抜けて言葉そのものが立ち上がり、伝わってくるものと変化した。いわゆる「歌い過ぎ」ていたことに自ら気付かれたのである。レコーディング現場においてちょっとしたきっかけで「歌が変わる」という瞬間に出くわすことがよくあるが、これは本当に面白い体験である。

 世の中にまだ出ていないオリジナル曲の作成というのは、作曲家や仮歌手のデモ歌唱がある場合もあるが、基本的には目指すべきお手本となる歌がない。なので歌手はその「お手本」となるものを作らなくてはならない。ひとフレーズごと、時には言葉ひとつごとの「歌いかた」について何度もやり直して作り上げることもある。その場にいる誰かのひと言だったり、何かのきっかけで一瞬にして歌に「説得力」が出ることがある。この瞬間「歌が変わる」のだ。

 話はそれたが「齢73」というこの歌の真の意味はその年齢に至っていない自分には到底分からない。ただ想像することや部分的な解釈は出来る。「身を立てず 名を上げず それほど汚れず ここまで生きた」この冒頭の歌詞は年齢問わず自分のことを言われてるような気になる人は少なくないのではと思う。

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