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カミーノになった私【日本からマドリッド】DAY0,5

DAY0,5


17時間のフライトを終え時刻は23時。
二人はマドリッドに居た。
「今日は夜も遅いから、近くのホテルを予約しよう。」
そういって二人は近くのホテルを予約し、到着するやいなやシャトルバスへ乗り込んだ。
疲れはピークだったがやっとスペインについた喜びの方が大きく、
雨が降っているのも忘れてしまいそうだった。

無事にホテルに着き、大きなベットに横たわった二人は明日からのことを考えた。
「ブルゴスまでとりあえず行こうか。
今回のカミーノはブルゴスからサンティアゴまでの約500kmの道のりだ。本当はスタート地点のサンジャンピエドポーから歩く800kmの道のりが歩きたかったのだが、今回の旅は後半に他のヨーロッパ諸国へ行くことも考えていた。
「とにかくブルゴスまではバスで5時間だから、それに乗ってから後のことは考えよう。」
二人は’明日バスに乗る。’ということのみ決めると、知らぬ間に眠りについた。バスの時間や場所はその時の二人にとってはどうでもよかった。
ただ今すぐこの大きなベットで寝たい。
それだけだった。


次の日の朝、朝7時ごろに二人は目を覚ました。
シャワーを浴び、着替えを終え、二人は自分たちが昨日夕食を食べていなかったことに気が付いた。人間不思議なもので意識してしまうと体がそうだと思い込んでしまう。
「おなか減った...。」
まだシャトルバスまでの時間は十分にある。
急いでスーパーへの行き方を調べ、二人は小走りで外へ出た。青く広がる空に雲が大きく広がっていた。雲の間から太陽が少し顔をだしているが、まだまだ気温は寒い。スーパーで水やパンなど必要なものを買い、ホテルへ戻った。
「今日からカミーノになるって実感ある?」
そう麗香に問いかけると、
「なーんにも、ない!」
と、相変わらずの明るい声で回答が返ってきた。
「やんな。」
正直、自分たちが何をこれからするのかもわかっていない。
カミーノがいったいどんなものなのかもわかっていなかった。

時間になりシャトルバスでブルゴス行のバスがある空港まで向かった。
ブルゴスへのチケットを買い、二人はバスを待った。空港のバスターミナルは沢山の人であふれかえっていた。自分たちのバスはどこかと探していると、ふと目の前にいたおじさんの本が目に留まった。
「あ、あのおじさんワタシがずっと読みたかった本読んではる。」
そんなことをなんとなく口にすると、麗香が言った。
「素敵だよね。待ち時間に紙の本を読んでいるって。」
たった10年前までは朝、電車に乗るとビジネスマンは新聞を広げているのが
’よくある光景’だった。待ち時間にも本を読む人、音楽を聴く人、おしゃべりをする人。
人それぞれに時間の過ごし方があったような記憶が微かに頭をよぎった。
今ではカフェでも、電車でも、信号待ちでさえも。沢山の人が携帯電話をに握りしめている。そして自分もその大勢の中の一人だったりする。決して携帯を触ることが悪いことだと言いたいのではない。ただ、本を熱心に読んでいる彼の姿を見て、自分はどこかで’時間の楽しみ方’を忘れかけていたような。そんな気がした。
そんなことを考えていると木枯らしのような強い風が目の前を横切った。
「あっ!」
前を見ると本を読んでいたおじさんのしおりが風に飛ばされているではないか。
走って追いかけ、無事にしおりをおじいさんに渡すことができた。するとおじさんは深く頭を下げ「アリガトウ」と、日本語でお礼を言った。
「?!」
驚く二人におじさんの奥さんらしき女性が笑いながら
「君たちが日本人だとすぐにわかったよ」と話してきたのだ。
「なんで?!何で日本人だってわかったの?」そう尋ねると、
「私は日本に8年間住んでいたの。だから日本語も話せるの。あなたたちの話す言葉ですぐにわかったわ。」
と衝撃的な答えが返ってきた。
会話を続けると驚くことに、彼女が住んでいた場所は自分たちと同じ県で路線まで一緒だったのだ。偶然の出会いに互いにうれしくなり、バスが来るまで話し続けた。
彼らはたいそう日本のことが好きだそうで、息子は日本人の方と結婚もし日本に住んでいるとのことだった。自分たちがこれからカミーノの道を歩くというとものすごく喜んでいた。
バスが来た。素敵な出会いには別れもあるものだ。強く互いを抱きしめあい、彼らは「ブエンカミーノ」と行って手を振った。

カミーノだけに送られる言葉。ブエンカミーノ。
さよならでも、また逢う日まででもない言葉。

スペインで吹いた強い風は二人の旅のスタートへ大きな励みとなる出会いを運んできたのだった。

ブルゴスへのバスへ乗り込んだ。もうスタートはすぐそこだ。