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参列者みんなが「主役」になる、おもてなし披露宴をテクノロジーで支えた話

「自分たちがお祝いされる場ではなく、感謝を持って参列者をおもてなしするための披露宴にしたい」

せっかく自分たちのハレの日なのだから堂々と主役になればいいのに、いつも丁寧で謙虚な新郎新婦の言葉から始まった、テクノロジーを駆使して結婚披露宴を裏から全力で支えた話です。

それぞれ別の本業を持つKokuhaku Inc.のプロジェクトメンバー5人で、「デザイン×機械学習×エンジニアリング」のそれぞれの専門性をフルに発揮した結婚式専用のITプロダクトを、企画から実装含め丸2ヶ月かけて制作しました。

このエントリーでは、作成した以下のコンテンツについての紹介と、実際に結婚式でどのように参列者に利用されたのか当日の様子と共に紹介します。

- 参列者のプチ紹介が見れる「デジタル席次表」
- ハッピーな写真をシェアして競争する「Smile Score」
- 映画のポスターなどにリアルタイム顔交換を行う「Face Shaker」
- 誰でも360度画像を撮ってシェアできる「Selfie Theta」
- (サプライズコンテンツ)ご結婚おめでとうの声を届ける「祝電2.0」

これらのコンテンツは誰でも参加できるLINEグループ上で展開され、最終的には90名以上の方に参加いただき100枚超の画像がシェアされ、披露宴を裏から盛り上げることに貢献しました。

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参列者同士が仲良くなる披露宴にしたい!

一般的な披露宴のテーブルスタイルは、地元の友達・大学の友達・会社の同僚など、新郎新婦がそれぞれの人生のステージで築いてきた人間関係の単位で分けられています。

披露宴会場にいる親族を含めた全ての参列者は、新郎新婦がハブとなった、結婚披露宴に呼ばれるほど親密な関係性の中にいる人たちばかりなので、潜在的にはきっと参列者同士はみんな”気の合う友達”になれるはずです。

しかし実際には、参列者同士はテーブル席次表を見ても、隣の人が新郎新婦にとってどんな関係性のどんな人なのかを知ることは難しいかもしれません。いきなり隣のテーブルに突撃して話しかけるというのもハードルが高いです。

また同じように、新郎新婦のお父さんお母さんが各テーブルにお酒を注ぎつつ挨拶に来られる場面も、やはりお互いに会話のきっかけが難しくせっかくの挨拶の機会がやや簡素なものになりがちです。親族も参列者の人たちが新郎新婦とどういった関係の人なのかを知りたいはずです。

こんな具合に、意外に結婚式には”関係性のシェア”が足りないなと思うことが経験上たくさんあり、そのたびにもったいないなと感じていました。

新郎新婦の希望である、「参列者をおもてなしするための披露宴」の達成要素として、「参列者同士が仲良くなり、場全体としてハッピーな気持ちになれること」が必要だと感じ、何かしらの方法でこれを解決したいなとメンバー間で話し合い、それが今回のプロダクト制作の大きな方向性となりました。

メインとなる式のプログラムを進行する一方で、デジタル上では参列者・親族のさまざまな楽しい気持ちがシェアされ、式が終わるまでにはテーブルを越えてリアルな会話が始まるようなプロダクトを目指しました。

QRコード経由で参加できる「披露宴専用のLINEグループ」で”みんなが参加する場”を作る

まず最初に、リアルなテーブル単位を飛び越えて、デジタル上では参列者全員が参加できる1つの場所を作りました。
誰もが気軽に参加できるプラットフォームとして、今回はLINEアプリを利用しました。

LINEアプリで作成する「グループ」には通常、LINEアカウントの「友達同士」でないとグループへの招待ができませんが、実は、海外で動いているスマホ(SIMカード)のアカウントで作るグループは友達登録されていない人でもQRコード経由で招待することができます。

そこで今回は、海外から式に参列された方のご協力を得て、QRコードで招待できるグループを披露宴用に作っていただきそれを今回のコンテンツが展開されるプラットフォームとして活用しました。

式の当日は、受付時に「QRコードからLINEグループに参加して"特別コンテンツ"をお楽しみください!」という簡単な説明とともにコードが印刷されたチラシを配布しました。この時点では参列者の方々には「お楽しみコンテンツがある」というくらいで詳しい説明は秘密にしていました。

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披露宴が始まり、そこから案内通りにすごい勢いで流入してくる参列者の方々…我々のプロダクトの本番スタートです。

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参列者のプチ紹介が見れる「デジタル席次表」

最初に準備したコンテンツは、LINEグループで使用できる「カルーセル機能」を使った参列者の紹介コンテンツ「デジタル席次表」です。

"カルーセル表示"は元々、LINE@などで企業が自社の製品画像を横スクロールで並べて表示したい場合に使用されるものです。

参列者の顔写真は式の受付時に1人づつ撮影させていただき、それに加えて事前に新郎新婦から参列者の短いユニークな紹介文を作成しておいてもらいました。

事前に準備しておいたプログラムとチャットボットから、それらの情報が揃った段階でカルーセルを半自動で投稿できるような仕組みを作っておきました。

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カルーセルの最初の画像には「そのテーブルがどういった関係のテーブルなのか」を表すイラストと紹介文を付けています。ちなみに、アートポップなイラストは新郎作!

「デジタル席次表」がチャットボットから投稿された直後に、新郎新婦がこっそりと書いてくれた自身の紹介文を読んで笑ったり、「あ、あのへんのテーブルの人ね」と近くのテーブルを見回す参列者の方がおられ、初めて見る「披露宴コンテンツ」に目を丸くされる方もたくさんいました。

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ハッピーな写真をシェアして競争する「Smile Score」

「デジタル席次表」がチャットボットからグループ上に投稿される一方で、各参列者が撮った写真を投稿すると「笑顔スコア」を自動計算する「Smile Score」コンテンツが走り出しました。

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参列者がグループに投稿した画像をチャットボットが取得し、MicrosoftのAPIサービスを使って写真に映った人たちの「笑顔度」を点数化し、写真へ得点をつけてグループに投稿します。

今回は「写真を撮ることで会話のきっかけにする」ために、笑顔度には以下のような点数重み付けを行っていました。

- 写真上に映る顔の面積が大きい(自撮りボーナス的なもの)
- 複数人で映っている
- 男女比が等しい

披露宴のメイン進行でウェディングケーキの「ケーキバイト」が始まるまでに点数化された全ての写真を対象にして、スコアランキング1位2位の写真を投稿した参列者を指名して「ゲストバイト」をしてもらうなど、デジタル上で行われているコンテンツと式場のリアルコンテンツを組み合わせたイベントなども行ってもらいました。

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ちなみに、この日最も高い「Smile Score」を出したのは新郎新婦でした。
主役ボーナス的な点数の付与はしておらず正真正銘のガチです。やはり主役たちは”持って"ますね。

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映画ポスターにリアルタイム顔交換を行う「Face Shaker」

新郎新婦の出会いがイギリスだったこともあり、「ハリーポッターなどの映画や世界観が好き」ということを事前に聞いていたので、なんとかしてこの要素も入れられないかと思い制作したのが「Face Shaker」です。

参列者が投稿した写真から顔部分を切り取り、最新のディープラーニング技術を使って"リアルタイム"に、”いい感じ"に、"完全自動"で、他の画像との顔部分を差し替えます。つまり、精度の高い自動化された「顔交換」です。本業でディープラーニングなどの高度な技術を扱うKokuhakuメンバーの、技術の無駄遣い感溢れるお茶目なコンテンツです。

下の写真のように、参列者が投稿した画像からチャットボットがランダムに顔部分を取得して、リアルタイムに映画ポスターなどの顔と入れ替えて画像を投稿し直します。

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想像以上に自然に顔交換を行っているので、グループに投稿された映画ポスターがなんの画像なのか気づかなかった人も多く、自身の顔を変換された人だけのテンションが上がるというマニアックなコンテンツとなりました。

映画ポスターと入れ替えるだけではなく、画像中の二人の顔をランダムに入れ替えたりすることもできます。チャットボットが勝手にこの画像を作ってグループに投稿したときは流石に怒られると肝を冷やしました(が、怒られなかった)

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誰でも360度画像を撮ってシェアできる「Selfie Theta」カメラ

デジタル上のコンテンツだけではなく、一部、リアル空間に設営するタイプのハードウェアプロダクトも作成しました。

顔検出技術を使って参列者を検出し、360度カメラの"Richo Theta"のシャッターを自動で切り、LINEグループに投稿しみんなでシェアするカメラ「Selfie Theta」です。

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顔認識をしてシャッターを切る様子はこちら(音声ガイドには、声優スクール所属の方に声を当ててもらいました)

LINEアプリでは、投稿された画像が360度画像かどうかを自動で識別し最適なビューに切り替えてくれるので、グループ上に投稿された360度画像を参加者全員でシェアし閲覧することができます。

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ただ、このカメラは式場テーブル配置の関係などで当日は日の目を見ることなく控室にお留守番することとなりました。いつか何かの機会に供養してあげたい。

技術的な話はこちらにもまとめましたのでご興味ある方は是非お読みください。

たくさんの"Happyな気持ち"の共有に溢れた披露宴に

「デジタル席次表」「Smile Score」「Face Shaker」が披露宴に少しの味付けを行い、最終的には90名以上が参加されたLINEグループには100枚以上の写真が投稿され参列者にシェアされました。

「◯◯さんのバイオリン演奏の動画どなたか撮られましたか?」「こちらのアルバムに写真シェアします!」など、普段なら各個人のスマホにだけ保存されて終わっていた参列者それぞれの目線での披露宴の様子が全員に共有され、参列者数分の"Happyな気持ち"が共有された気がします。

特に、式が終わってからも新郎新婦のご両親からLINEグループへ感謝の言葉が投稿され会話が始まるなど、司会進行がきっちりと決まった式の中では伝えきれない想いをこういった場で共有していただき、改めてこの場を作る意味はあったのだと感じることができました。

参加者が入れ替わった披露宴の2次会でも「Smile Score」コンテンツは止まることなくサービスされ続けたので、2次会から参加されたたくさんの方にも楽しんで体験してもらいました。

「リアルなテーブルを飛び越えて会話が生まれたか?」に対して具体的な結果を知ることはできませんでしたが、間違いなく、式場全体で"Happyな気持ち"を共有できた披露宴になったと思います。

裏サプライズ。ご結婚おめでとうの声を届ける「祝電2.0」

大盛り上がりのなか無事に披露宴が終了した1週間後。

「披露宴の話をしながらお茶でも飲もう」と新郎新婦を誘い出し、最後のサプライズを渡しました。その名も「祝電2.0」です。

式に参加できなかった新郎新婦の友人も含め、所定の電話番号に電話をかけてもらい、「ご結婚おめでとう」のお祝いの声を最大60秒で吹き込んでもらう電話アプリ「祝電2.0」を制作しました。「祝電」のデジタルバージョンです。誰もが使ったことのある電話の自動応答に答える形でメッセージを吹き込む形式なので、アプリなどに馴染みのない高齢の方でも参加しやすいのがメリットです。

二人の人望もあり、短い募集期間ながら50名以上の方からのお祝いの声が集まり、さらにメッセージの大トリとして親族・ご両親にも参加していただきました。

頂いたメッセージは、結婚式っぽいゴールドカラーのiPod Shuffleに入れてプレゼントしました。

渡したらその場でイヤホンをはんぶんこして聞く二人。

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お祝いのメッセージの中には、新郎のアメリカ留学時代の恩師からのお祝いメッセージも入っており、これは新婦が新郎へ準備したサプライズでした。

本当は新婦も「祝電2.0」のサプライズのターゲットでしたが、新婦が新郎のために内緒で恩師のメッセージを準備していることを聞き、予定を変更してグルになってもらいました。

なのでこのサプライズは実質、新郎だけがターゲットとなる形になり、ネタバレするまで新婦が知らん顔を決め込んで一緒に騙されている演技をしている様子がすごく可愛かったです。

結果、新郎はまんまと驚いてくれたようでしめしめ。

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「祝電2.0」の概要はこちら、技術的な話はこちらにもまとめましたのでご興味ある方は是非お読みください。

最後に

さまざまな専門性を駆使してチームで作成した「披露宴専用コンテンツ」のお話でした。

メンバー的に特に大変だったところは「デジタル席次表」のための個別写真撮影のところで、時間的・リソース的に制限のある中で参列者に協力していただき一人残らず撮影するオペレーションは想像以上に大変でした。

何よりも「2人のハレの日」に、こちらのオペレーションで戸惑って式のスケジュールを押したり、アプリやボットが途中で落ちて予定されていたコンテンツができなくなり場が白けさせたりするプレッシャーが地味にすごく、それまで「なんとかなるっしょ」と言っていたメンバーも当日は普通に緊張しました。

しかし、そういったぶっつけ本番の手動オペレーション以外では、入念にリハーサルした通りにコンテンツが利用され、さまざまなタスクを行うチャットボットも一度も止まることなく動き続けてくれて本当に胸を撫で下ろしました。2人の最高の思い出となるように「完璧」が求められる結婚式や披露宴がどうしてあれほどまで高度にパッケージ化されているのか、このコンテンツを実際に式で運用することで真に理解できました。披露宴で不確実性の高いものを組み込むのはかなりの度胸がいります。

そんな中でも、たくさんの人に新しい体験と楽しさの共有を提供することができて本当に良かったです!

特に「Smile Score」は二次会でも積極的に使ってもらえたので(そして二次会のほうがオモシロ写真がたくさん投稿されたので)、披露宴に限らずいろいろなイベントで使えそうな気がしています。

かなり気合を入れて今回のプロダクトを作りましたが、メンバー内でも今後どうしようかという話をしています。ぜひこのエントリーへのコメントやコラボ含めたネタの持ち込みなどいただけると嬉しいです!

制作(Kokuhaku2プロダクトチーム
- 吉田勇太 (データサイエンティスト:「Selfie Theta」「祝電2.0」担当、本記事文責)
- 大島始(プランナー: 全体構成)
- 村山健一郎(エンジニア:「Smile Score」担当)
- 武井俊祐(AIエンジニア:「Face Shaker」担当)
- 坂祐哉(デザイナー:フライヤー・点数アイコン担当)

Powered by. Kokuhaku Inc.
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