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BL・漆黒の闇に響く旋律

一話、爪痕

この日の僕は
どうかしていた。
ふらりと入ったbarで
声を掛けてきた男に
誘われるがまま、ホテルに
来てしまった。

男は名前を宇竜【うりゅう】と
言った。
高そうなスーツを着ているなぁ
と思っていたが、裸になると
背中に龍の入れ墨が現れた。
ヤクザでも、位が上の人は
紳士的だと知っていたので
驚きはしなかった。
そんな僕を見て宇竜さんが言った。
「ほぉ、ヤクザ者は
初めてでは無いのかな?」
「実は別れた彼が
そうでーー」
元カレの話なんか聞きたく
無かったのか、いきなり
キスされた。
唇から首筋へ、胸、そして。
「胸もそうだが、染まりやすい
肌をしているな」
太腿の内側に唇を這わせ
紅く染め僕を酔わせる。
もう一度胸を責められ
声が漏れた。
  あっあぁ  んっ
指が蕾を開き中の敏感な
所を擦る。
「ああぁ はぁぁ、もう
挿れて下さい」
其の言葉を待っていたのか
口元に笑みが浮かんでいる。
  あっぁん 
宇竜さんのモノが僕の中を
熱くするーー。
「嗚呼、いい気持ちだ」
「はぁはぁ あっあぁぁぁ」

事が終わり、宇竜さんは
ベッドに腰掛け煙草を
くゆらせている。
此方に背を向けーー!
「宇竜さん!ご、ごめんなさい!
背中ーー」
つい癖で背中に爪を
立ててしまった!
入れ墨の、龍の片目に爪痕が。
「ふふ、気にするな。
勲章だと思うさ」
ーー勲章。
彼も同じ事を言っていた。
逢いたい、別れたくなんて
無い!
「逢いたくなったんじゃ
ないかな、別れを告げられた
恋人に」
え?別れを告げられた?!
僕、そこ迄言ってない!!
「宇竜さん?」
「あのbarはウチの
持ち物でねーー」
barの隣の土地を対抗組織が
買い取ってしまったと言う。
其れでなくても危うい均衡の
下にあったのがいよいよ崩れる
かと。
「その時には、自分が
首を取りに行くと名乗り
出た者がいてね」
まさか!?
「そうなると、自分のイロまで
巻き込む事になるからと。
でも、まぁ此れ以上の事は
素人さんには話せないが
何とか回避出来そうなんだ」
そう言うと、シャワーも
使わず支度を始めた。
僕は慌てて、床に降り
土下座した。
「有り難うございます」
「うん。君も大変だね
ああいう男を恋人に持つと」

翌日、件のbarで享輔【きょうすけ】
に逢ったが昨夜は自分も其の場に
居たと打ち明けられた。
若頭が知っていた訳だ。
享輔は若頭に躰を渡してくれて
有り難う、すまなかったと頭を
下げた。
こういう世界に棲む男を好きに
なったんだ、覚悟を決めよう。
「享輔、二度は別れない
からね」
僕は、享輔の瞳の中で微笑んでいる
自分を見つめた。

終幕