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【イベントレポート】PLAZMA D2C|オーラルケアNo1=ライオン・クリニカのデジタルによる顧客接点の拡大

「D2Cをビジネスモデルとして理解する!」をテーマとしたオンラインイベント『PLAZMA D2C produced by 株式会社顧客時間』が、2020年12月9日-10日の2日間、開催されました。D2Cブランドや、事業のD2C化を実践する大手メーカー担当者をゲストに招き、各社のD2Cビジネスの真髄に迫る内容となりました。

その中から今回は、大企業が行うD2C事業の可能性について語られた「ライオン株式会社」のセッションをご紹介します。

〈ゲストプロフィール〉
横手 弘宣 氏|ライオン株式会社 オーラルケア事業部ブランドマネジャー
2000年、ライオン入社。6年間の営業経験を経てマーケティング本部へ。住宅用クリーナー「ルックブランド」を担当。「ルックまめピカ」・「ルック防カビくん煙剤」を開発。その後、2年間のMBA留学ののち、再び、マーケティング本部に復職。現在は、オーラルケア事業における基幹ブランド「予防歯科 クリニカ」のブランドマネジャー
〈モデレータープロフィール〉
奥谷 孝司 |株式会社顧客時間 共同CEO 取締役
オイシックス・ラ・大地株式会社 執行役員 Chief Omni-Channel Officer
1997年良品計画入社。3年の店舗経験の後、取引先の商社に2年出向しドイツ駐在。家具、雑貨関連の商品開発や貿易業務に従事。帰国後、海外のプロダクトデザイナーとのコラボレーションを手掛ける「World MUJI企画」を運営。2003年良品計画初となるインハウスデザイナーを有する企画デザイン室の立ち上げメンバーとなる。 05年衣服雑貨部の衣料雑貨のカテゴリーマネージャー。現在定番商品の「足なり直角靴下」を開発、ヒット商品に。10年WEB事業部長。「MUJI passport」のプロデュースで14年日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会の第2回WebグランプリのWeb人部門でWeb人大賞を受賞。 15年10月よりオイシックス株式会社入社。統合マーケティング室 室長 Chief Omni-Channel Officerに就任。16年10月より執行役員。
2010年 早稲田大学大学院商学研究科夜間主MBAマーケティング・マネジメントコース(守口剛ゼミ)修了
2017年4月 一橋大学大学院商学研究科博士後期課程入学
2017年10月 株式会社Engagement Commerce Lab.設立
2018年9月 株式会社大広との共同出資会社株式会社顧客時間を設立、共同CEO取締役に就任

「親子の歯みがき習慣形成」をサポートするためのD2C事業

奥谷:本日は、子どもの成長をサポートする「IoTハブラシ」の事例を通じて、大手メーカーにとってのD2Cビジネスの可能性を考えます。
*IoT:「Internet of Things」の略称。モノに通信機能を搭載して、インターネットに接続・連携させる技術

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▲子どもが進んで歯みがきを続けたくなる!『クリニカKid's はみがきのおけいこ

横手氏:ライオンはオーラルケアメーカーとして100年以上の歴史があります。その中でも『クリニカKid's はみがきのおけいこ』は、子どもが歯みがきを通じて成長する体験を提供する商品です。子どもが自分から歯をみがくと言い出す家庭はそうそうありません。であれば、その体験を生み出せたら、きっと価値があるはず。歯科医師や児童教育の先生にも監修をいただきながら開発を進めました。シンプルでただ楽しいIoT歯ブラシではなく、生活に必要な「習慣」が正しく身につく商品です。

奥谷:横手さんのような既存事業のブランドマネジメント担当者が、こういったIoTデバイスやDX、D2C領域を担当するのは珍しいですよね。

横手氏:これまでも我々の商品が、世の中の役立っている自負はありました。しかし、具体的にどんな時間にお付き合いし、どんな時間に嫌われたり好かれたりしているのかといった「それぞれの使用時間・習慣の実態」までは、既存の事業ドメインだけでは理解できていませんでした。お子様ひとりひとりの習慣を改善していくこの新事業が、我々にとって最も顧客を理解することに繋がり、会社の成長にも繋がると捉えています。

奥谷:そうは言っても非常に手間がかかります。経営陣含め、共通認識が無いと実現しませんね。

横手氏:数年前はIoTブームで、「繋がればこんなことができる!」が乱立しました。IoT歯ブラシ自体は、誰でも思いつける商品だったと思います。でもライオンは、そこから何を学び、何を提供できるのかまでを早い段階で議論していました。お母さんにとって子どもが前向きに歯をみがく瞬間は、信じられないくらい価値ある瞬間なんです。歯みがきを通した子どもの成長にライオンが貢献できれば、顧客体験として唯一無二のものになる。この思いは経営陣と共通で持てるよう、初期から議論を重ねた部分です。

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▲歯みがき習慣を通じた親子の会話・体験が生まれる(公式HPより)

奥谷:子どもはうまく歯みがきができたことに楽しみを感じ、親はそんなこどもを見て嬉しくなる。歯ブラシと歯みがき粉を用意して終わりではなく、こういった体験をつくるのがD2Cの肝ですよね。お客さんと向き合うD2Cは大変なことも多く、踏み込めないメーカーも多いです。

横手氏:ライオンも歴史が長い会社です。新しいことに取り組む意義は経営陣も共感してくれますが、何がゴールで、どう実現していくかまで一緒になって考える必要がありました。子どもの成長へのサポートが親の信頼を生めば、確実にオーラルケアが習慣化し、結果的にオーラルケアへの支出は上がります。この流れを作ることができればLTVが向上し、No.1ブランド「クリニカKid’s」がお客様から信頼されるシナリオができあがります。IoT歯ブラシをきっかけにビジネスがどう伸びるのか、何度も議論し理解を促しました。

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大手メーカーのD2Cは、早く世に出すよりもストーリー設計をじっくりと

奥谷:デジタルは常に手段でしかなく、ハードウェア・お客様・アプリケーションが三位一体にならないと、お客様のペインは解消できません。商品のディティールや、デジタル体験と歯みがきを融合させる上での苦労を教えて下さい

横手氏:ローンチをもっと早くすることは可能でしたが、出すことが目的ではありません。この事業の成果は「オーラルケアの習慣化」が出発点になりますから、子どもが飽きずに使い続けられることに注力したのです。デジタルを用いて、飽きずに続けられる機能をどうつくるかが全ての議論の中心でした。

みがけた度合いがわかるのは当たり前で、角度・位置・速度データから、正しくブラッシングできているかを分析しています。それよりも子どもが続けたくなるストーリーづくりに投資をしました。歯をみがく前に絵本を読む時間を設けたり、商品が届いて開封する瞬間のパッケージデザインにこだわったり。歯みがきチャレンジのフィードバックの中でやる気にさせるだけでなく、親子の会話を生む体験を作るべく、機能要件を定義していきました

奥谷:機能ドリブンではなくストーリーを重視した設計ですね。ECで販売する商品は「開封の儀」が大切。最初の出会いでエンゲージメントを高めようとこだわっているのはさすがです。お客様の評価はどうですか?

横手氏:5点中、平均で4点以上です。特に「続かなかったことが続く」点が最も喜ばれています。こだわってきた部分なので嬉しいです。歯みがきチャレンジで90点を取ることではなく、昨日70点だった子が「明日は90点出すためにやろう!」と会話が生まれている。ローンチは少し遅れましたが、臨床試験を発売前に行ったこともこの結果に繋がったと思います。

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▲モニターの77%が習慣化できたと実感(公式HPより)

奥谷:メーカーのD2Cプロジェクトの良さは、臨床試験のような裏付けをゆっくり確実に積み上げていけることですね。顧客の信頼をしっかり掴んで離さない武器になります。

横手氏:ローンチ時期を優先するのであれば、発売時は「臨床試験実施中」の状態にしておく選択肢もありました。しかし、発売の段階からしっかり臨床試験で得たエビデンスがある方が、ライオンにとってもクリニカブランドにとっても良いですし、専門家の方に信頼していただくためにも大学との臨床結果があったのは役に立っています。発売前に一ヶ月間実施したお子さま向けのモニターで、点数の変化や歯ブラシの動かし方の変化を把握できたことも良かったと思います。

全ては将来のライオン、クリニカブランドの成長のために

奥谷:使用時間を見据え、シナリオ重視で設計したことが功を奏したのですね。

横手氏:そのために、経営陣とは既存の会議体の中で議論しないように工夫しました。売上規模、効率、短期P/Lのような既存の判断基準を持ち出すのではなく、今この事業をやる意味、つまり将来のライオンやクリニカが成長していくためのシナリオづくりを進めていった感覚です。

奥谷:放っておいても歯みがきは誰しもがやるわけですが、効果を点数にして楽しくすることで、顧客と繋がり続ける理由がちゃんとできる。そこからデータもいただける。とてもうまい設計だなと思います。企業目線で言えば「良質なお客さま」の使用時間が把握できるのは貴重ですよね。

横手氏:おかげでエンゲージメントは非常に高いです。今回の体験設計に関しては、ローンチしてから精度を上げる発想ではありません。スモールスタートで徐々に改良する方法は適さないと考えました。

オーラルケアの初回投資でこれだけの金額を払ってもらうからには、一歩目の体験が大切。最初の数日の体験が、その後のエンゲージメントに影響するとの仮説に基づいて全体設計しました。この点はユーザーレビューにも成果が現れています。

奥谷:歯みがきは1日に複数回発生する行為で、来店数などと比べて頻度が高い。このデータを取れるのは面白いと思います。最後に、今後の展開を教えて下さい

横手氏:引き続き衛生面での展開を考えています。例えば、デンタルフロスや洗口液はまだ利用割合が少ない商材なので、IoT歯ブラシで繋がったお子さまの成長に合わせて、親御さんの習慣にまで入っていけるのかどうか。そのあたりの価値を提案できればLTVも上がると予測しています。

奥谷:習慣化すべきものを提供している会社なので、D2C化しやすい領域をお持ちだと言えますね。日用品だからこその可能性を感じます。楽しみにしています。

(TEXT:松下沙彩)


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