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【イベントレポート】PLAZMA D2C|YAMAP:確実に売り上げ増につながるD2Cビジネス成功法則/最新事例公開

「D2Cをビジネスモデルとして理解する!」をテーマとしたオンラインイベント『PLAZMA D2C produced by 株式会社顧客時間』が、2020年12月9日-10日の2日間、開催されました。D2Cブランドや、事業のD2C化を実践する大手メーカー担当者をゲストに招き、各社のD2Cビジネスの真髄に迫る内容となりました。

その中から今回は、「人を動かす」「行動を変える」ためのD2C戦術・アイディアが語られた「株式会社ヤマップ」のセッションをご紹介します。

〈ゲストプロフィール〉
小野寺 洋 氏|株式会社ヤマップ コミュニケーションデザインマネージャー
大学卒業後、「通信教育(ベネッセコーポレーション)」「飲料・食品(ネスレ日本)」「化粧品・食品(JIMOS、協和)」などのメーカーで、ダイレクトマーケティングに従事。広告企画、販売手法開発、共同事業開発、M&Aなどを手がけてきました。2019年7月より株式会社ヤマップにて登山をテーマとした「ファンベース」型の消費者コミュニケーション事業(D2C)を運営。趣味は温泉、写真撮影、山登り。佐賀県出身。
〈モデレータープロフィール〉
岩井 琢磨 |株式会社顧客時間 共同CEO 代表取締役
1993年大広入社。インストア・プランナー、クリエイティブ・ディレクター、ブランドコンサルタントなどを経て、2012年にコーポレート・コミュニケーション・センターのセンター長に就く。製造業、流通サービス業界を中心に、部署横断型の事業変革プロジェクト、企業ブランディングおよび企業コミュニケーション設計プロジェクトを数多く手がける。2018年にEngagement Commerce Labに参画。顧客時間を設立し、代表取締役に就く。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了(MBA)。日本マーケティング学会理事。

登山人口の3分の1が持つアプリYAMAP

小野寺氏:株式会社ヤマップにて登山をテーマとした「ファンベース」型の消費者コミュニケーション事業を運営しています。これまで従事してきたダイレクトマーケティングを山登りの分野に活かすべく新たなチャレンジをしているところです。今日は確実に「売り上げ増」に導くためのヒントについてお話します。登山地図GPSアプリYAMAP(ヤマップ)の運営を通して、ユーザーの行動をどう科学しているのかに注目していただき、「人を動かす」「行動を変える」D2C戦術・アイディアを見つけてください。

YAMAPはスマートフォンが圏外でも現在地がわかる無料のGPS登山地図アプリで、現在のダウンロード数は200万件以上。登山人口が約650万人なので圧倒的なシェアを誇ります。

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小野寺氏:現在地がわかると遭難を防ぐことができます。例えば、令和元年は年間約3,000人が遭難しており、そのうち30〜40%は道迷いです。YAMAPは21,000座以上の山をカバーしており、海外の山でも使えます。紙の地図でも地方の里山までカバーしているものはなかなかありません。通ったルートや標高を記録できるほか、撮影写真をアルバム化することもできるので、人生の登山日記のようなアプリです。

100万DLまでは、ほぼプロモーションせずに伸びてきました。ダウンロードの経路は、リアルな口コミがほとんどです。登山は複数人で行くことが多く、使用者一人がYAMAPを勧めるとそのグループ全員が使ってくれるようになり、伝播していくんです

岩井:すでにあった登山コミュニティにうまくYAMAPが入っていけた結果ですね。そんなYAMAPの成功事例について教えてください

小野寺氏:YAMAPのマネタイズには3つの軸があります。1つ目はECの「YAMAPストア」、2つ目が有料会員プランの「YAMAPプレミアム」、3つ目が「YAMAP登山保険」です。その全てにおいて、YAMAPはユーザーを見て「行動マーケティング」を追求しています。

アプリビジネスではタイムリー、ロケーション、インタラクティブの3つが重要ですが、本日は特に「タイムリー」に重点を置いて成功事例をお話します

行動を科学しタイムリーな提案を。
「YAMAPさんありがとう」が生まれる瞬間

事例①「YAMAPストア」におけるタイムリー

小野寺氏:我々が持つ210万ユーザーの位置データから、昨年は「遠くの山まで行き一泊する」スタイルよりも、「近くの低山へ日帰りで行く」傾向が見えました。新型コロナウイルスの影響で山小屋の収容人数が制限されたことなどが影響しています。それに伴い、登山に必要なバックパックの売れ筋が日帰り用の容量の商品に移行するのではと予測し準備したところ、予定の5倍売れる結果となりました。ユーザー行動の変化を先読みできたことで、商品をいち早く押さえ、必要なものを提供することができた事例です

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岩井:コロナ禍で既存の商品が売れなくなり悩んだ企業は多いですが、お客様の行動変化から品揃えを変え、むしろ売上が上ったのですね

小野寺氏:山に行く人は昨年比で減っていますが、逆転の発想でその時ならではの売り方があるはずなんです

事例②「YAMAP登山保険」におけるタイムリー

小野寺氏:YAMAPアプリでは事前に地図のダウンロードが必要で、ユーザーはその地図を持って山に登るため、「地図をダウンロードする=山に登る日が近い」と予想できます。

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そこで、地図をダウンロードしたタイミングで、登山保険のポップアップを出すようにしました。これはファーストパーティデータを持っているからできるタイムリーなお知らせです。山に行く必要がないときに案内すると迷惑ですが、もうすぐ山に行くとわかっているからこそ、この提案が生きてきます。

もうひとつの事例は保険の加入日数の提案です。「YAMAP登山保険」では、加入日数は1日単位・30日単位・1年単位の選択肢があり、「1日単位」を選ぶケースが最も多くなっています。そこで、保険料シミュレーション画面に「警察への連絡が翌日以降になる場合を想定して+1日を推奨しています」と記載しました。

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この文言を添えることで、加入日数を1日ではなく2日間で申し込むケースが増えれば、わずか50円の差でも販売単価は20%UPします。契約者を20%増やすのは苦労しますが、この仕掛で販売単価を20%UPさせるのは難しくない。実際に施策の前後で比較すると、加入日数に大きな変化が見られました。こうした細かな実験を続けています

岩井:遭難して発見されるまでのことをイメージできるようになり、自分の安心のために申し込んでおこうと気付けるわけですね。これも非常に価値がある情報です

小野寺氏:家族から捜索願が出されるのはたいてい夜で、警察が動き始めるのは翌朝。登山の際に食料を多めに持っていくのもそのためで、こうしたユーザーにとっての盲点を伝えることが「ありがとう」に繋がります。ユーザーも満足し、利益も増える仕掛けです

事例③有料会員「YAMAPプレミアム」におけるタイムリー

小野寺氏:YAMAPは基本的には無料ですが、無料会員と有料会員(YAMAPプレミアム)で使える機能に差があり、有料会員になるとアプリに保持できる地図の数や、写真のアップロード数が無制限になります。そのため、地図の保存数や写真投稿数が無料枠分いっぱいになったタイミングでアップグレードの案内を出しています。

無料枠以上の地図をDLする=山を探す・登る意欲や、たくさんの山を比較したい意識が高まってきたと言えるので、ここでアップグレードを案内すると加入者が急増するのです。行動の導線の中に入る方法とタイミングを研究した結果、ここに意味があると判断しました。

通常、「有料会員になりませんか」「登山保険に入りませんか」の案内は一方通行のコミュニケーションになりがちですが、ユーザーの行動に沿った提案は感謝を生んでくれます

岩井:行動に沿っているというより、心理変化を捉えた結果として行動を変えられている印象ですね

小野寺氏:はい、そうすることで押し付けがましくなく、本当に価値ある提案となります。実際、登山保険や有料会員は、コロナ禍にも関わらず昨年比180%で成長しています

岩井:遠い山に行くことはやめて、近い山に行くという行動変化があったとしても、山が好きな人が持つ山に登りたい気持ちは変わらない。それを捉えることができれば、180%の成長もできるわけですね

ユーザーにとってYAMAPは、アプリを越えたライフツール

小野寺氏:我々は、最小の工数で最大の効果を出すことを目指し、そのために積極的に「他力の活用」をしています。例えば昨年開発した、紅葉・行楽シーズンに全国各地の紅葉状況がひと目でわかる「リアルタイム紅葉モニター」は、ユーザー投稿を活用しています。

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現地調達した情報ほど役に立つものはありませんが、我々がリアルタイムに紅葉情報を取ってくるのは運用上不可能です。「湖畔まで降りたらまだ紅葉があった」「登山口にまだ紅葉が残っていた」などの、現地状況に基づく生きた紅葉情報をユーザー投稿から拾うことで、このサービスを提供することができています。

アプリビジネスではコンテンツをたくさん作らなければと思われますが、コンテンツづくりに挫折してアプリ自体もやめてしまうケースを多くの企業担当者から耳にします。我々はそこにユーザー投稿という「他力」を活用しているんです

岩井:ユーザーとの直接の繋がりを持っているからこそできることですね

小野寺氏:はい、D2Cではユーザーがいかに違和感なく情報を提供してくれるかが重要です。そのためにも日頃から、ユーザー側にたくさんの”ありがとうの瞬間”が積み重なるようなタイムリーな提案をしていく必要があります。事実、YAMAP有料会員の44%は「YAMAPを応援したいから」という理由でプレミアム会員に加入してくれています。YAMAPが存続しないと自分の登山記録もそこで途絶えてしまう、だから存続して欲しい。そんな応援の気持ちの現れだと思います

岩井:ユーザーにとって「YAMAPの価値」が非常に明確で、YAMAPの存続が自分たちにとっても重要だと思う関係が築けているのですね

小野寺氏:ユーザーがユーザーをサポートする仕組みも出来上がっていて、掲示板ではユーザー投稿に対して別のユーザーが回答してくれます。もちろん我々側にCS部門はあるのですが、ユーザー自身がカスタマーサポートをやってくれる点はD2Cらしい特徴と言えます

岩井:こういった動きは最近の傾向なのでしょうか

小野寺氏:いえ、最近ではなくて最初からで、これは“山の特徴”だと思っています。山で遭難している人がいたら助けたくなりますよね? 山登りは、助け合いの精神なのです。情報を惜しみなく投稿してくれるのも、掲示板で助け合うのも、登山ユーザーにフィットする仕組みだったのだと思います。もし他の商材であれば、ここまで熱く語ることはなかなか無いのではないでしょうか

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岩井:登山コミュニティが元々持つ行動習慣や心構えを、YAMAPがきちんと捉えているからこそ使っていただけているのですね。最後に、小野寺さんはユーザーがYAMAPをどう捉えていると認識していますか?

小野寺氏:ユーザーの方に直接聞くと、YAMAPはライフツールだと言われます。YAMAPがあるから山登りをしている、と。

岩井:アプリを通じて繋がるごとにYAMAPの価値は高まっていきますね。ユーザーさんの活動頻度はどうですか

小野寺氏:210万DLのうち50万人は約1ヶ月に一度アプリを開いています。これがもし、食事の献立アプリなら1日3回コンタクトポイントがありますが、登山アプリはそうはいかないため、月に一度の接点が非常に重要です。限られたタイミングでどれだけの情報を提供し、YAMAPのことを好きになり、使ってもらうのか。登山人口も機会も限られているからこそ、濃い繋がりを持ちたいと考えています

岩井:限られた接点でも直接繋がりを持ち、自分たちの価値を感じてもらえる体験を用意するのはD2Cビジネスにおいて重要です

小野寺氏:従来の属性情報ではない、行動の一次情報をできるだけ入手・分析し、最新のユーザー行動に応じて打ち手を変えていくのがアプリビジネスの真骨頂です。逆にこれができなければ、従来のWEBサービスとさほど変わらず、画期的なことは起こりません。一次情報にこだわり、数字ではなくユーザーの心の動きを分析して施策に生かす、これがYAMAPの行動マーケティング、D2Cの核心だと思います
(TEXT:松下沙彩)




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