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【イベントレポート】PLAZMA D2C|ARTIDA OUDの3年間の成長戦略 〜サザビーリーグがD2Cをスタートした理由〜

「D2Cをビジネスモデルとして理解する!」をテーマとしたオンラインイベント『PLAZMA D2C produced by 株式会社顧客時間』が、2020年12月9日-10日の2日間、開催されました。D2Cブランドや、事業のD2C化を実践する大手メーカー担当者をゲストに招き、各社のD2Cビジネスの真髄に迫る内容となりました。

その中から今回は、大企業が行うD2C事業の可能性について語られた「株式会社サザビーリーグ」のセッションをご紹介します。

〈ゲストプロフィール〉
相川 慎太郎 氏|株式会社サザビーリーグ 営業統括 WEB戦略部 部長 兼 ECブランド事業部 事業部長
2016年4月株式会社サザビーリーグ入社。営業統括 WEB戦略部にて同社内、ECサイト運営支援とデジタルマーケティング支援を担当。2018年4月よりECブランド事業部 兼任。 サザビーリーグ として初となるEC特化型のブランド「ARTIDA OUD」を担当。
〈モデレータープロフィール〉
吉岡 芳明 氏|株式会社TO NINE 共同代表取締役 COO/株式会社二重 代表取締役社長
サイバーエージェント・グループにて新規事業を担当。2016年から株式会社TO NINEに参画。2017年に株式会社スマイルズら4社で合弁会社「二重」を設立。

サザビーリーグ初のEC専業ブランド「ARTIDA OUD」の世界観づくり

吉岡氏:TO NINEは自社事業、共同事業、サポート事業という3つの事業を行っており、ファッション、コスメからサプリメントや植物など、幅広いジャンルのD2C支援をしています。「ARTIDA OUD(アルティーダウード)」のサポートもさせていただきました。本日は「ARTIDA OUDの3年間の成長戦略」と「サザビーリーグがD2Cブランドをスタートした理由」についてお伺いしていきます

相川氏:サザビーリーグは衣食住横断でライフスタイルブランドを展開する企業です。「It’s a beautiful day.」をスピリットに掲げ、43のブランドを運営しています。一歩先ではなく、少し背伸びすれば届くような“半歩先”のライフスタイルを提案し、新しい価値を創造することが我々のミッションです

吉岡氏:店舗主体のブランドが多いですか

相川氏:はい、基本的にはどのブランドも実店舗があります。ARTIDA OUDのようなEC専業のブランドは初めてです

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▲2018年ローンチのジュエリーブランド「ARTIDA OUD」

相川氏:ARTIDA OUDのブランドコンセプトは2つです。商品軸のコンセプトは「Raw Scents of Glimmer(ありのままの姿が放つ煌めき)」。石や地金そのものの風合いを生かすなどジュエリーが持つありのままの姿を大切にし、色石(カラーストーン)を使ったリング、ピアスなどを展開しています。

もうひとつが「Direct to Consumer」。商社を介さずインドの工房から商品を直接仕入れ、販売しています。通常は中間コストがかかるジュエリー業界ですが、直接仕入れて販管費を抑えることで、職人さんに適正な利益を還元できます。富を循環させることは重要なブランドコンセプトです。

事業構想を始めた頃はD2Cという言葉はありませんでしたが、会社としてネット中心のブランディグに挑戦してみたいと考え、初めてデジタル・ネイティブブランドを立ち上げました。プロダクトとデジタルのみでブランディングする上でビジュアルプレゼンテーションは非常に重要で、世界観をお伝えすべくかなり作り込みをしております

吉岡氏:商品に関しては、カスタマイズできるのが特長のひとつですね

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相川氏:直営のECサイトでは「Stone Customize」のコンテンツを用意しています。お好きな石を選択いただくと、リングにしたときの石の向き、地金の種類、リングサイズなどをシュミレーションでき、ご自分だけの商品を作れます。他にも、ピアスの「Matching Customize」やリングにお好みの刻印をできる「Lettering Customize」、ブライダルリングに関してはサイズゲージのサンプルを郵送でお貸しするサービスもしています。こういったカスタマイズ系のお客様に寄り添ったサービスは直営のECでなければできないことで、実店舗でもなかなか難しい部分なので我々の強みになっています

吉岡氏:パッケージにもお客様が思わず誰かに伝えたくなる仕掛けがあります

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▲ECサイトでの購入時に届くポーチ。※オーガンジーのショッパーは店舗でのみ付属

相川氏:はい。ECサイトで注文いただいたお客様には、ブランドオリジナルのパフュームをワンプッシュした上で香りととともに商品をお届けしていますが、香りに関する反響は多くいただきます。商品が届いた瞬間の世界観の演出を、ひとつひとつの取り組みから強化しています

吉岡氏:店舗を持たずともECでお客様に香りを届けることで世界観を感じてもらえるのが素晴らしいです。「ARTIDA OUD」が香りにちなんだ名前なので、ブランドアイデンティティとも紐付く取り組みです。この他にもローンチ以降、多彩な施策にチャレンジしていますよね

相川氏:ブランドをローンチした2018年は広告宣伝費をしっかりと投下し、SNSやメディアタイアップ、サイト内キャンペーン、オフラインでのイベント、インフルエンサー活用など様々な取り組みをしました。ブランド自身が魅力を発信してもなかなか伝わらない時代ですので、影響力のある人・場所でブランドを知ってもらう、伝えてもらうようにしました

吉岡氏:この点はいわゆるスタートアップとは違う形でD2Cブランドをローンチさせた印象です。お金をかけるところ/かけないところを明確に分けて施策を打っていらっしゃいました

相川氏:EC専業のARTIDA OUDですが、百貨店等でのポップアップはしてきました。事業構想段階からショールームビジネスは見据えており、ポップアップをする中で「EC専業であっても実店舗は必要」と実感し、2020年8月渋谷に体験型空間「THE ANOTHER MUSEUM」をオープンしました

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吉岡氏:ARTIDA OUDの世界観はこれまでデジタルでしか見られませんでしたが、店舗にするとこんなに奥ゆかしいのだなと驚きました。来店するお客様の約80%の方が購入するとお聞きしています

相川氏:買い上げ率は非常に高い店舗です。新型コロナウイルスの影響もあり基本的に予約制としているため、来店前からブランドをご存じで予約してまで来てくださるお客様ということで、必然的に買い上げ率が高くなっています。

この店舗では、商品のほとんどがご試着用のサンプルで、その日にお持ち帰りいただける商品は少ないんです。気に入っていただけたものはECでのご購入をご案内しております。先程の買い上げ率はあくまでその場での購入に関する数字です。来店後のEC購入もトラッキングしており、金額はECが大きくなっています

吉岡氏:D2Cらしい事例ですね。続いて、ARTIDA OUDが一貫して続けている「サステナブル&ドネーションプログラム」についてお聞かせください

相川氏:サステナブルな取り組みはブランドローンチ時から実施しています。お買い上げ時に付与するポイントを我々が国際NGO団体に代わって寄付する「ポイント募金」、アコヤ貝を生産地から直接仕入れて商品化し直販する取り組み、「国際ガールズデー」への賛同や、支援する側も楽しんで参加できる「”I am” Donation Project」などです

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▲「私が私であるために」= I am のスローガンに世の女性たちへのエールを込め、途上国の女性支援への寄付を目的としたコラボレーションアイテムを販売。

相川氏:また、需要予測を誤って作りすぎてしまった商品はセールをせず、地金・ジュエリーパーツをリサイクルし新しい商品としてもう一度世に送り出す活動も行っています。2020年3月にはジュエリーの生産を行っているインドに学校を建てるプロジェクトを国際NGOと設計し、目標支援額を達成しました

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▲2020年3月に発表した『インドに学校を建てる“I am”ドネーションプロジェクト』は期限より早く目標を達成
※"I am" ドネーションプロジェクトについて詳しくはこちら

相川氏:今お客様は「なぜそのブランドの商品を買うのか」の意味付けを強く求めています。ただ良いものを作るだけでなく、購買を通して社会との繋がりを体験していただけたらとの思いでサステナブルな取り組みを続けています

好調の理由は徹底した顧客理解と“差積化”

吉岡氏:この先はここまでお話いただいた取り組みが、どんな戦略に基づいて行われたのかをご説明します。弊社がサポートさせていただく中ではじめに共有したのが以下の「トライアングルアプローチ」です

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吉岡氏:EC専業ブランドではビジュアルのコミュニケーションが非常に重要です。通常、商品価格に見合うビジュアルコストを考えがちですが、D2Cの場合は中間コストが掛からない分、しっかりビジュアルにコストをかけることができます。ハイビジュアルとグッドプライスの関係がうまくいけば、お客様の心をぐっと掴むことができます。また、ローンチ時から継続しているポイント募金等のサステナブルな取り組みは、使命感をもって世の中に発信していただけるストーリーです。シェアしたくなるメッセージを用意できていたと言えます。相川さん自身は、好調の理由は何だと思いますか

相川氏:一番の理由はやはり商品のクオリティ/デザインと価格のバランスだと思います。D2Cの販売スタイルを取ったことで、プロダクトのクオリティ、完成度の割には比較的お求めやすい価格で提供できています。

また、デジタル上での世界観の演出がお客様にきちんと伝わったことも理由かと思います。マス向けのブランドではないので「対象顧客」に合わせた商品展開とブランディングが必要です。そのために定量・定性両面から分析をし、顧客像のキャッチアップと設定をしています

吉岡氏:顧客戦略では集客の前に「発見・理解・信頼」が大事で、誰が買っているのかをチームみんなで探しました。アンケートをもとにペルソナを作り、今もアップデートし続けています。データ取得には執念を持っておられますよね 

相川氏:そうですね。ポップアップでも、入店客数や滞在時間のようなネットで当たり前に取れるデータは取ろうと考え、計測のソリューションを入れました

吉岡氏:「誰が買っているか」を深く掘り下げる点がARTIDA OUDの特徴で、それが多様な施策を実施しても世界観がブレない理由だと思います。集客の前にお客様が誰であるかを発見し、理解し、そこに対して信頼される施策を投じる。その結果、お客様が滞在してくれるスペースができ、定着に繋がります。月当たりの売上・CV率の記録を更新したり、滞在時間が延びていたり、リピーターの数が50%を超える月があるなど定着の証は数値としても表れていますね。

もう一つ好調の理由は「差積化」=小さな違いの積み上げです。今はブランドの特徴を出すのがなかなか難しい時代です。店舗が無いと難易度はさらに上がります。必要なのは積み上げること、やり続けることです。まさにドネーションがこれに当てはまっています。“I am”ドネーションプロジェクトは毎回支援者が増えています。支援者が限定的にならないのは、ARTIDA OUDが3年前からずっと同じメッセージを発信しブレずにやってきた、信頼の証だと感じています

図1

吉岡氏:サザビーリーグさんはアパレルの会社の中でも店舗に対するこだわりが非常に強い印象がありますが、そのような会社がなぜD2Cに挑戦したのかを最後に改めて聞かせてください

相川氏:ARTIDA OUDは、世の中のデジタル化文脈において弊社がどうアプローチしていくべきかの「テストマーケティング」です。この新しいブランドを通して実験的に新しい取り組みをできているので、好事例を既存ブランドに横展開をしていくなども役割だと思っています

吉岡氏:新しい道を切り開くことが、このブランドの使命なのですね

相川氏:D2Cという言葉は一人歩きしがちですが、我々は初心を忘れず、ビジネススタイルや販売手法にこだわらずに本質的な価値をECで提供していきたいです
(TEXT:松下沙彩)


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