見出し画像

確かな技で作る美味しさを身近に「天ぷら かき揚げ 之村」様

JR線の新橋駅から徒歩10分にあり、価格以上の満足感が得られる料理としてミシュランガイドのビブグルマン2023にも選出された「天ぷら かき揚げ 之村」様。

幅広い世代に身近に愛されるお店づくりを目指しておられる店主様に、お店を始められたきっかけや食材へのこだわり、天ぷらを揚げるコツなどをお聞きしました。


-お店をオープンされた背景や、当時のエピソード等があればお教えください

名古屋で叔父がやっている「天ぷら光村」で20年修行して2018年、5年前に自分のお店をオープンしました。将来的には実家のあるこちらに戻って店を出そうと思っていましたが、そもそもは、名古屋のお店が移転オープンするというので手伝いに行ったのが最初でした。

調理の様子が見られるオープンキッチンで揚げたてを提供

修行して技術は磨いてきましたが、それ以外は分からなかったので、5年前にお店をオープンする時はまあ大変でした。天ぷらを揚げている方が楽だと思うほど。色々な書類やら契約やらをパソコンも使えない中、全部一人でやりましたが、幸いオープニングスタッフが入ってくれたので、なんとかやれました。

お店のレイアウトや物の配置は、基本的に名古屋のお店と同じにしましたが、場所も違えば物も違うので、これもまたすごく大変でした。まあまあ、こんなでっかい体だし、空気を吸っても太るような人が1ヶ月で10キロも体重が落ちました。

ご飯は食べられない、寝られない、次は何をしなきゃいけないと、色々考えたら最終的に14キロぐらい落ちちゃいました。オープン前は「お前は絶対痩せないよ」って言われましたが、やっぱり痩せました。まあ、すぐ元に戻っちゃいましたが。

腕は一流でもお茶目な一面がある店主の辻啓之様

-「50年間継ぎ足しのつゆ」という記事を拝見しましたが、修行されたお店から受け継がれたのでしょうか

名古屋のお店からこちらに戻る時、大きいペットボトル2本分くらい貰ってきました。濃いつゆなので、別に毎朝作っている薄いつゆを足しながら使っています。

ちょうど良い濃さにしても、火にかけているとどうしても水分が蒸発して濃くなってくるので、薄いつゆを足して調節しています。お店には味の基本となる一番大事な濃いつゆ、丼ぶりに直接かけるつゆ、継ぎ足し用の薄いつゆの3種類の丼つゆがありますが、そのつゆに火を入れながら、調整しながらうまく育てています。ただ足しているだけでは色が濃いだけの、コクがなくて美味しくない味の薄い丼つゆになってしまうので、丼つゆの管理には一番気を使っています。

こだわりのつゆが染み込んだ海老のかき揚げ、しし唐の天ぷらがのったかき揚げ丼

-お店を続ける上で大事にしていることをお教えください

うちのモットーである「明るく、楽しく、元気よく」を大事にしています。あとは、親方からの「腕は一流、値段は三流」という教えを守っています。美味しいものをどう安く提供できるかを考えるためにも、人任せにせずちゃんと自分の目で見て、仕入れに行かなきゃいけないということです。
自分で仕入れに行っていると、同じ値段で並んでいる食材でもより良いものを選べるようになりますし、魚屋さんとの信頼関係が生まれ、季節の食材や品薄になった時にも取り置いてもらえることもあります。仕入れは築地に行っていて、市場がお休みの水曜日と土日以外、月火木金に自転車で通っています。
銀座の方に行くと、活きた海老を使っているのでどうしても値段が高くなってしまいます。そうすると値段がどんどん上がってしまって、高級志向のお客さんしか来なくなってしまう。うちのお店は小さいお子さんからご年配の方まで、皆さんが好きな時に来てくれて、好きなものを食べてくれるのが一番なので、価格を抑えるために食材を工夫したり、コース料理はやっていません。

定番メニューの他に季節のおすすめも楽しめる(取材時7月)

かき揚げの海老は、日本では扱っているところが少ない南米ブラジル産の海老を使っています。冷凍海老のグレードはブラックタイガーから始まって、ホワイトとかフラワー、ブラウン、バナメイといろいろあって、値段もちょっと高くなりますが一番上がこの海老です。試しにブラックタイガーでかき揚げを作ってみたら、全然美味しくなかった。
一度、ブラックタイガーと南米ブラジル産の海老、活きた車海老、巻海老(まきえび:小さい車海老)、鞘巻海老(さやまきえび:10~15cmの車海老)など4~5種類を業者さんから持ってきてもらって食べ比べたことがありますが、その中でもこの海老が良かった。やっぱり活きた車海老は美味しいですが、この海老も十分美味しいです。
「腕は一流、値段は三流」というのはそういうことで、腕は磨きなさいよ、でも安く提供できるように頑張りなさいよということ。

-ぬか漬けはお店で漬けられているんでしょうか?

ぬか漬けは、母が大きいぬか樽で漬けています。朝に漬けて3時くらいに出しているので浅漬けですね。メインは美味しいのに漬物は市販のものを袋から出して並べているだけというお店も多いですが、うちは自家製でやっています。余計な味がしないので、食べた時にすごく美味しいなと感じます。親方も言っていましたが、メインが美味しいのは当たり前だけど、サブも美味しくなければ意味がない。
ご飯もそうだし、味噌汁も漬物もそうです。味噌汁はしじみだけの出汁に、味噌を合わせて作っています。しじみは冷凍することで、組織が壊れて旨味成分が出ると言いますよね。しじみを3~4時間砂抜きした後にビニール袋に入れて冷凍して、カチカチの状態で水に入れて炊いています。手間がかかりますが断然美味しくなりますし、しじみ汁は自分の肝臓が悪くならないように。サブも全部美味しくないとメインが引き立たないので。

天ぷらへの真摯な姿勢が世界にも認められた

-弊社のお米を使い続けてくださっている理由をお教えください

自分の修行先で使っていたお米だったからです。名古屋にいた頃、お店にも色々なお米屋さんがお米を持って来ていました。これは絶対に美味しいですから使ってください、この丼ぶりに絶対合いますから使ってください、というので何十種類と試しましたが、あきたこまちが一番でした。何県のコシヒカリ、何県のササニシキ、何県のなんとかというスゴイお米も持って来ました。値段を比べて安いものあったし、そのまま白いご飯で食べたら美味しいのもありました。

だけど丼ぶりにしてみたら、やっぱ違う。結局、色々試して実験したりしてみましたが、自分が東京でお店をやるからと他のお米に変えることなく、あきたこまち協会さんに電話で事情を説明してお願いするようになってから、今は毎週送ってもらっています。

そういった経緯があるので、今のところ変える予定はないです。あきたこまちを超える程のお米があったとしても変わらないかな。あきたこまちが一番安定しています。
昔から噂されていますが、お米屋さんによっては銘柄以外のお米や新米に古米を混ぜているんじゃないかとか、毎日食べていて急に味が変わるとも聞いたことがあるので、信用していない部分があります。その点、あきたこまちを産地の秋田県から直接送ってもらっている安心感もあります。

丼ぶりに欠かせない秋田県産あきたこまちのご飯

-お米の炊き方についてポイントがあればお教えください

うちのお店では、炭と氷を入れて炊いています。水温を下げることによって、炊く時間が少し長くなって、ゆっくり炊けるのでお米が美味しくなります。すぐ炊く時は氷でも良いのですが、炊飯器にお米と水を入れてセットしておく場合は氷が溶けてしまいますので、水の量を変えないために保冷剤で水温を下げたり色々工夫しています。

-家庭でもできる美味しく天ぷらを上げるコツ等があればお教えください

うちの鍋も本当はそうできれば良いのですが、鍋を斜めにすると揚げやすいです。かき揚げを作るにしても浅いところ、油が少ないところに具材を入れて、滑らせながら形を作ってから深いところに浮かせると大体綺麗に揚がります。いきなり深いところに入れると衣が散ってしまって、それをまとめるのが大変なので、かき揚げは難しいねってよく言われます。そうしないために、空き缶みたいなもので枠を作ったりして皆さんやっていますね。

衣の作り方としては、粉と水を全部混ぜ切っちゃうのが一番ダメです。粘りが出ないように気をつけながらザルでふるった粉を溶いて、しゃばしゃばの液が下に、粉が混ざり切っていないドロドロした液が上になるように二層になっているのが理想ですね。食材を衣に付けて持ち上げる時に、下のしゃばしゃばした衣が付いた上に、粉がスッと付くようにすると、揚げた時にキレイな花が咲くようになります。これはもうプロの技ですが。

うどん屋さんとか蕎麦屋さんに教えに行くこともありますが、どうやっているのかを聞くと、粉を全部溶いちゃっていました。プロの技をやっていたら個人差が出てしまうので、アルバイトの学生さんとか、誰がやってもできるようにするには全部溶かないとだめなんです。

プロの技でさっくりカラッと上がった新生姜の天ぷら

家庭では難しいかもしれませんので、揚げ方に気をつけます。家庭の火力は弱く、一度に大量に揚げると油の温度が下がってしまうので、少しずつ揚げるのが良いです。

少しずつ揚げると温度もすぐ上がってくれるので、温度が上がってからまた次を揚げる。油が180度の時に食材を入れると175度ぐらいまで下がるので、また180度まで上がったら揚げるという繰り返しが一番良いですね。家族がいっぱいいるからと10個ぐらい一気に入れちゃうところを、3個ずつぐらいで我慢して揚げてください。揚がった瞬間からなくなるので、お母さんは大変ですが。

あと、油から出す時の温度にも気をつけます。油から上げる前に火力を全開にして、温度を上げた状態にすると油切れが良くなって、サクッとした美味しい天ぷらができます。

うちのお店ではごま油が3、サラダ油が7の割合で揚げています。家庭で揚げる時も、ごま油をおちょこ一杯ぐらい入れるだけで全然風味が変わってきます。ただ、ごま油は高いので入れ過ぎ注意です。

-温度計がなくても、油の温度が分かる方法はありますか?

鍋にちょんっと衣を入れて、スーッと落ちていくと160度くらいなので温度が低く、鍋底につく前にジュと上がってしまうと190度くらいなので温度が高過ぎます。衣が落ちてすぐ、鍋底に触れた瞬間ぐらいに上がってくると180度くらいなので、揚げる温度としてはベストですね。あとは、木の菜箸を入れて泡が出てくるくらいが調度良いです。

陽の光が入る明るい店内

-家庭でできる美味しい丼つゆの作り方をお教えください

一番簡単なのは、まず天つゆの分量より砂糖やみりんを少し多めに入れてつゆを作ります。そこに天かすを入れて煮立たせると、コクのある丼つゆになります。天ぷらを揚げていくうちに天かすが出てくるので、つゆを火にかけながらその天かすを入れていきます。火にかけることでつゆが煮詰まりますし、それを濾してあげれば甘みがあってコクのある美味しい丼つゆになります。


=インタビュアー実食!=

天ぷら之村様にてかき揚げ丼、新生姜天ぷらをいただきました。

あきたこまちのご飯、しじみの赤だし、大根・胡瓜のぬか漬け

かき揚げ丼は注文が入ってから一つ一つ丁寧に揚げられており、かき揚げのサクサク食感と海老のぷりぷり感、丼つゆのコクがあるかき揚げ丼でした。ご飯は粒感をしっかりと残した少し硬めに炊きあげられており、丼つゆが程よく絡み、噛むほどに旨味を感じられました。

味噌汁は、しじみを砂抜きしてから一度冷凍する事で旨味成分が赤だしに溶け出し、旨味のある赤だしになるとの事。店主のお母様が毎日漬けている大根・胡瓜のぬか漬けは、食感、塩味が丁度よく、かき揚げの箸休めに丁度良い味付けでした。

新生姜天ぷらは薄くスライスされた生姜を丁寧に揚げ、塩で食べる粋な一品でした。生姜の食感とさっぱりとした風味がとても美味しかったです。

かき揚げ丼、しじみの赤だし、ぬか漬けどれを取っても店主様のこだわりとお客様へ、最高の料理を提供したい気持ちが溢れた料理でした。

小島

店舗情報

天ぷら かき揚げ 之村

東京都港区新橋6-13-13 1F
TEL:03-6721-5343
営業時間:ランチ 11:00〜14:00(13:30LO)
     ディナー 17:00〜21:00(20:20頃LO)
定休日:日曜/祝日
https://www.instagram.com/tempura_yukimura/

#プロの料理人が選ぶ理由

インタビューを通じ、大潟村あきたこまち生産者協会のお米やパスタを選んだ理由、おすすめの調理法などを紹介します。

▽おいしいあきたこまちやパスタは大潟村あきたこまち生産者協会オンラインショップで

プロが選ぶ食材をご自宅でも!
発芽玄米や便利なパックごはんもご用意しております。
https://akitakomachi.shop/

この記事が参加している募集

おいしいお店

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?